撮影日記


2006年02月17日(金) 天気:曇

中古フラッシュの行く末は?
〜「電気用品安全法」

2006年2月17日の,経済産業省による「電気用品安全法の表示の変更に係る販売の経過措置について」と題された報道発表をきっかけに,騒動がおこっている。
(http://www.meti.go.jp/press/20060217005/20060217005.html)

「電気用品安全法」は,それ以前の「電気用品取締法」を改正してつくられたもので,その目的は,電気用品の安全性を確保するためのものである。「電気用品取締法」においては,「甲種電気用品」とされる112品目に対して,安全性の基準を満たしたものには「〒」を「▽」で囲ったようなマーク(以下,「旧マーク」とする)がつけられていた。それ以外の「乙種電気用品」338品目には,マークはつけられていない。
 「電気用品安全法」への移行にともなって,「甲種電気用品」112品目は「特定電気用品」とされ,安全性の基準を満たしたものには「◇」の中に「PS-E」の文字が入ったマークがつけられるようになっている。「乙種電気用品」338品目は「特定以外の電気用品」とされ,安全性の基準を満たしたものには「○」の中に「PS-E」の文字が入ったマークがつけられるようになっている(以下,まとめて「PSEマーク」とする)。PSEマークのために,あらたな検査機関も認定されている。これにより「検査」費用が発生したり,官僚のあらたな天下り先が発生したことになるのだろう。
 ということで,今日の結論は,

制度の変更があるところには,どこかに必ず,利益を得るものがある。

・・・・としたいところだが,もう少し,話をすすめてみよう。

「電気用品安全法」は,施行されてから5年近くが経過している(2001年4月1日施行)。それが,なぜ,今ごろになって問題視されるようになったのだろうか。それは,上記報道発表のタイトルに含まれている,「販売の経過措置」にある。
 「電気用品安全法」では,PSEマークのない電気製品の「販売」を禁じている。しかし,旧マークの電気製品についての流通も,「経過措置」として,期間を限定して認められてきた。その「経過措置」の期間は,品目によって5年から10年の幅があるのだが,もっとも早いものは今年の3月31日から販売が禁止となる。
 そして,その「販売」の対象に「中古品」が含まれるかどうかということが,問題の発端となったようである。それに対して,つい最近になって「中古品も含まれる」ということを,経済産業省が明確に示したことから,騒動につながったようである。

「電気用品安全法」第二十七条(販売の制限)は,

電気用品の製造、輸入又は販売の事業を行う者は、第十条第一項の表示が付されているものでなければ、電気用品を販売し、又は販売の目的で陳列してはならない。

ということを示している。ここには「PSEマークのない電気用品を販売してはならい」と書いてあり,そこには中古品も含まれるものと解釈できる(逆に,PSEマークのある電気用品であれば,中古品でも販売にはなんの問題もない)。一方,PSEマークを受ける手続きをおこなうのは,製造業者あるいは輸入業者であり,販売業者が直接には関知しない。
 そこで経済産業省は,法律の条文に「中古品を含む」ことが明記されていないことが問題だ,ということに気がついたのであろう。急遽,「中古品を含む」ことを発表したわけだが,ここでいくつかの大きな問題が明確になった。
 1つは,「中古品の流通」を規制することによって,さまざまな問題が発生することである。たとえば,中古品の流通を規制することによってリサイクルショップ等の中古品を扱う業者が打撃を受けたり,中古機材を売ることができなくなることによって工場などの資産価値が下落したり,古い電子楽器など独自の表現ができる機材や,β規格のビデオデッキなど新製品がつくられなくなった規格の装置が入手できなくなるなどの問題が指摘されている。
 また,もう1つの問題として,この法律自体が,リサイクルショップなどの業者,工場の機材を担保に融資を受けたりおこなったりする事業者などに,十分に周知徹底されていなかったのではないか,ということが指摘されている。

そして,私たちのような一般の消費者がこのような問題を知るようになったのは,ごく最近のことなのである。

この問題が「わかりにくい」理由としては,「特定電気用品」「特定以外の電気用品」が対象とする商品が,どのようなものなのかがわかりにくいこともあるだろう。このあたりのことについては,経済産業省のウェブサイトでもまとめられているので,参照していただきたい。
(http://www.meti.go.jp/policy/consumer/seian/denan/keikasochi/keikasochi_q&a.htm)
 これによると,「電子楽器」「音響機器」「ゲーム機器」などが,「特定以外の電気用品」に含まれるとされている。「特定以外の電気用品(338品目)」中の,「248 電気楽器」「307 電子楽器」が上記の「電子楽器」に,「308 ラジオ受信機」「309 テープレコーダー」「310 レコードプレーヤー」「311 ジュークボックス」「312 その他の音響機器」「313 ビデオテープレコーダー」「315 テレビ受信機」などが上記の「音響機器」に含まれるようだ。ただ,「248 電気楽器」と「307 電子楽器」の違いや,上記の「ゲーム機器」がどれを示すのかなど,はっきりしない。また,「パーソナルコンピュータ」は,「特定電気用品」にも「特定以外の電気用品」にも,どちらにも含まれていないようだから,これは「電気用品安全法」施行前に製造された古いものでも,中古品として流通させることができるのだろう。

ところで,この「撮影日記」を閲覧してくださっている方としては,「カメラは関係するのだろうか?」ということが気になるのではないだろうか。自分が持っているカメラを売ることができなくなるだろう,という問題だけではなく,中古カメラ店が廃業に追いこまれたりすると,いろいろなカメラなどを買うことができなくなる,という問題も発生することになるからである。
 そこで,「特定電気用品」および「特定以外の電気用品」のリストをあらためて参照してみた。そこに,「カメラ」を明確に示すものは含まれていなかった。「カメラ」だけではなく「ビデオカメラ」や「ディジタルカメラ」も,含まれているようには見えない。しかし,「特定以外の電気用品」の方では,「280 スライド映写機」「284 エレクトロニックフラッシュ」「285 写真引伸機」などの機材が含まれることになるようである。

そこで,問題である。「284 エレクトロニックフラッシュ」は,いわゆる「ストロボ」を指しているのであろう。その場合,フラッシュ内蔵のカメラは,どういう扱いを受けることになるのであろうか。

具体的に該当する電気用品については,「電気用品安全法施行令」において示されている。それによると,「エレクトロニックフラッシュ」が含まれる「光源及び光源応用機械器具」については,

次に掲げるもの(定格電圧が一〇〇ボルト以上三〇〇ボルト以下及び定格周波数が五〇ヘルツ又は六〇ヘルツのものであつて、交流の電路に使用するものに限る。)

という前提が,まずあり,さらに「エレクトロニックフラッシュ」として,

定格蓄積電力量が一・五キロワット秒以下の可搬型のものに限り、顕微鏡用のもの、医療用機械器具用のものその他の特殊な構造のものを除く。

とされている。「定格蓄積電力量が1.5kW秒以下」というのが,具体的にどれくらいのものを指すのかはわからないが,PSEマークの対象となるエレクトロニックフラッシュは,スタジオなどで使用する大型のフラッシュを指し,ふだん私たちが使うようなグリップ型やクリップオン型のフラッシュは,含まれないようである。ましてや,カメラに内蔵されているくらいのフラッシュであれば,PSEマークの対象とはならないであろう。
 ただし,そのフラッシュをACアダプタで使用できるような場合,フラッシュそのものはPSEマークの対象にならなくても,ACアダプタ(や,その電源コード)の部分は,PSEマークの対象となり得る。

ところでこれは,ナショナル「PE-5651」という,グリップ型フラッシュの操作パネル部である。右下に「旧マーク」があることが確認いただけるだろうか。このフラッシュは,「電気用品取締法」の「甲種電気用品」に該当していたようだ。ということは,このフラッシュは「電気用品安全法」の「特定電気用品」にも該当するわけで,「PSEマーク」がないために,中古品としての売買はできなくなるということになるようだ。
 このフラッシュは,電源に積層電池を使う。その電圧は480Vである。また,それは直流である。定格蓄積電力については,144Wsという表記が見られるように,1.5kW秒よりもはるかに小さい。この製品が「特定以外の電気用品」の「エレクトロニックフラッシュ」に該当する種類のものであれば,上記の条件から,PSEマークの対象外となるはずである。しかし,この製品は,あくまでも本体部分が旧マークの対象である「甲種電気用品」すなわち,電気用品安全法の「特定電気用品」になっているのである。そして,「特定電気用品」の品目を見ても,この製品が,どれに該当するのかわからない。
 なお,私がもっているクリップオン型フラッシュ(ニコン1機種,サンパック2機種 いずれも2001年よりも前に製造された製品)には,「旧マーク」や定格蓄積電力の値は,表示されていなかった。

ややこしい,実にややこしい問題である。


← 前のページ もくじ 次のページ →