撮影日記


2006年02月01日(水) 天気:晴

富士フイルムの現実的な発表

先月中は,カメラ・写真の世界において,重大な意味をもつ発表が相次いだ。

 1月11日(水) ニコン様のカメラ事業縮小
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 1月17日(火) カール・ツァイスによるニコン用レンズの発表
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 1月19日(木) コニカミノルタのカメラ・ディジタルカメラ事業撤退
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 1月19日(木) 富士フイルムによる「写真文化を守ります」宣言
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 1月24日(火) コダックの「需要がある限り供給する」宣言

「悲観的になる内容」の発表と,「希望のもてる内容」の発表が,ほぼ交互におこなわれたように見える。これは,偶然だろうか・・・。ユーザへの衝撃を少なくするために,各社が申し合わせておこなっているのだろうか,などと勘ぐりたくなるほどである。
 ともあれ,ディジタルカメラの普及は,着実に従来のカメラ・写真の市場を圧迫してきている。それにともなって,各社でさまざまな形での対応がとられているということである。
 そんななかで,富士フイルムは「写真文化を守ることが使命である」という,たいへん力強い宣言をおこなった。それから10日ほどが経過した昨日,1月31日(火)のこと,富士フイルムは新たな発表をおこなった。
 (http://www.fujifilm.co.jp/news_r/nrj1471.html)

その内容を一言で言えば,「フィルムの研究開発に,今までほど力をいれないよ。」というものである。
 このような発表に至った理由としては,フィルムの需要が減少していることと,ディジタルカメラ市場で苦戦をしていることがあげられている。そのための構造改革の内容として,写真感光材料の事業に関しては,次のようなことがあげられている。

  1. 感光材料生産設備は,一部を停機する。
  2. 研究開発体制は,写真プリントに重点をおく。
  3. ラボ,流通を集約する。

1は,感材の需要の減少を如実に物語るものだろう。需要が減っているから,生産を減らす。プロ(いわゆる商業写真の分野)の大きな仕事の1つに,たとえば印刷物の原稿として使う写真の撮影がある。印刷工程が,編集段階,組版・製版(プリプレス)段階,印刷段階のすべてにおいてディジタル化が進んでいる現在,印刷物の原稿がディジタルデータであることは,工程の簡略化などコスト削減と納期短縮に直結する。
 スナップ撮影の分野でも,ディジタルカメラの画質や連写性能がアップすることにより,フィルムを使わなくても十分に仕事ができるようになっていることだろう。数年前に,プロカメラマンにニコンD1様でスナップ写真を撮ってもらい,プリント(2Lサイズ)を納品していただいたことがある。それはすでに,商品として十分な品質であった。現在のディジタルカメラなら,さらによりよい画像が得られることだろう。
 かつて,大きかったと思われるプロの需要は,明らかに減少している。

2は,「フィルムの研究・開発には,今までほどは力を入れない。」ということを示しているものと解釈する。もっとも,現在のフィルムには,大きく改良が必要な余地はあまりないと思うので,さほど大きな問題にはならないかもしれない。もっとも,いつまでも同じ製品を同じ条件で製造しつづけられるかどうかはわからないので,研究・開発を完全にやめる,というならそれは大問題になるだろう。

3は,直営のラボを整理・統合することを示しているものと思われる。

さて,2と3を合わせて考えると,今後は,いわゆるミニラボ機の開発と,さらなる普及に力を入れるのではないかと思われる。富士フイルムの「イメージングソリューション部門」は,写真感材事業とディジタルカメラ事業が含まれていることもさらに考慮に入れれば,フィルムにもディジタルカメラにも対応したミニラボ機による,いわゆる「お店プリント」の販売促進を狙っていると考えられる。
 家庭用プリンタは年々高性能化しており,最近は,パーソナルコンピュータを介在させることなく,直接,ディジタルカメラのメモリカードをプリンタに挿入することで,プリンタ出力を得られるような製品も登場している。これは「お店プリント」にとっては,脅威に映ることだろう。したがって,ミニラボ機によるプリントのさらなる高品位化と,プリントコストのさらなる低下をめざした開発がおこなわれるものと考えられるだろう。
 この動きそのものは,歓迎してもいいことだと思う。ディジタルプリントには,アナログプリントの品位を越えられない「一線」がどうしても存在するだろうが,その範囲内でより高品位のプリントを得られるようになれば,フィルムのユーザも,ディジタルカメラのユーザも,大きな恩恵を受けられるようになることは間違いない。

そして,富士フイルムには可能な限り,フィルムの供給と現像サービスの提供を維持していただきたく希望するのである。当然ながら,コダックにも,希望したい。
 富士フイルムは,今回の発表のなかでも,「写真文化を守り育てることが当社の使命である」と表明している。その写真文化を守り育てる義務は,材料を提供するメーカーだけにあるのではない。それを使って「写真」を創造する,私たちユーザにも,その義務は存在するのである。


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