撮影日記


2005年08月25日(木) 天気:晴れた。台風は東へ。

いまさらAPS

1996年,新しい規格のフィルムが登場した。IX240カートリッジフィルムである。このフィルムには磁気記録部があり,コマごとにプリント情報や撮影情報などを記録し,ラボでのプリントの際にそのデータを活用することができるようになっていた。このシステム全体は「アドバンスト・フォト・システム(APS)」と呼ばれた。
 その開発には,コダック,フジ,ニコン,キヤノン,ミノルタという,感材およびカメラの有力メーカーがかかわっており,それ以外のメーカーもライセンス供与によって,製造に参加するようになった。
 新しい規格のフィルムの普及には,新しい規格のカメラが必要である。また,それに対応したラボシステムも必要である。かつて,あまり高級機が登場しなかった110カートリッジ(ポケット判)や126カートリッジ(インスタマチック),ディスクシステムと違い,ニコン「プロネア」シリーズのようなシステム一眼レフも供給されたし,そのコンパクトさをフルに活かしたといえるキヤノン「IXY」シリーズという大ヒット商品も登場した。京セラからは,流行の1つだった高級コンパクトカメラとされるものに分類されるような商品も登場している。APSには,明るい未来が感じられたことだろう。
 しかし,APSの明るい時代は,さほど長く続かなかったように感じられる。

APSは,カメラをもっとコンパクトに,もっと扱いやすくする,という目的ももたされていたように思う。従来のフィルムとの最大の違いは,装填が簡単なことである。フィルム自動装填は,メカニズムのさまざまな改良によって,所定の位置にパトローネを置いて,フィルムの先端を所定の位置にあわせ,蓋を閉じればOK,というレベルにはなっていた。しかし,APSでは,カートリッジを所定のところに入れるだけでOKである。そして,撮影後のフィルム取出しから現像後の扱いまで,フィルムに直接触れる必要はない。これは,フィルムに不要な傷や汚れをつけない,という意味で,非常に優れたしくみである。
 一方で,フィルム面積の狭さが指摘されていた。35mm判のフルサイズ,いわゆるライカ判の1コマは,24mm×36mmである。一方,APSでは,16.7mm×30.2mmである。面積は,6割弱である。この差は,大伸ばしに不利だろうと思われ,とくにマニア層から敬遠されることになる。この前後に,フジ「GA645(1995年)」やペンタックス「645N(1997年)」という,オートフォーカス機構が採用されたお手軽なセミ判が登場したこともあり,マニア層はライカ判からセミ判カメラへの注目を高めてしまっていたことだろう。
 もっとも,APSは本来の小型軽量化路線では,成功していたといえるのではないだろうか。キヤノン「IXY」の大ヒットは,その1つの象徴であろう。

現在では,すでに,コダック,ニコン,ミノルタなどが,APSカメラから撤退してしまっている。APSが思ったほど普及せず,市場が十分ではなくなったと判断されてしまったのである。その1つの原因として,ディジタルカメラの普及が指摘されている。画質をあまり問わない,かつ,小型軽量で便利なカメラを所望するユーザ層には,APSよりもディジタルカメラのシステムの方が,はるかに魅力的なのである。1995年の「Windows95」以降の,パーソナルコンピュータやインターネットの一般化も,その流れに拍車をかけただろう。
 今後,APSは,フィルムカートリッジの小ささをフルに活かすことのできる,「レンズ付きフィルム」の分野にだんだんと傾倒していくのではないかと思われる。しかしそうなると,「フィルム途中交換機能」などの「先進的な」機能のいくつかは,次第にスポイルされていくことになるだろう。


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