撮影日記


2005年08月14日(日) 天気:曇

電話の話

政治の世界では,郵政事業の民営化について,激しく争われている。郵政事業は,鉄道事業,電話事業と並んで,明治時代に近代国家の骨組みとなるべく,国が運営してきた事業である。鉄道は,その役目のかなりの部分を他の交通手段に譲ってしまった感があり,民営化前後から地方線区の縮小が続けられている。電話については,高度情報通信社会とも言われる現代において,もっとも重要な社会的インフラストラクチャーの1つであり,まだまださまざまな形での発展が見込まれている。
 しかし,その影で,公衆電話の台数が激減していることに気がついている人は多いだろうか。公衆電話の数は,1985年以降減少が続いており,1985年にはおよそ90万台あった公衆電話も,2003年にはおよそ50万台にまで減少している(http://www.ntt-west.co.jp/info/databook/「データブックNTT西日本2004」より)。さらに,2006年3月には,およそ6万台あるというICカード公衆電話が廃止になる。実際に,公衆電話の長い行列を見かけることは少なくなっている。したがって,民間企業として,採算性の悪い公衆電話を減少させることは,間違った道ではないと考えることもできる。公衆電話の利用者が減少した主因として,携帯電話の普及が指摘される。そうであれば,公衆電話の減少は,携帯電話を持つ人には影響が少なくても,携帯電話を持たない人には大きな影響を与えかねない。
 一方,災害時には,携帯電話のつながりにくさが指摘されており,公衆電話の維持の必要性を指摘する声もある。

日本での携帯電話のサービスは,1985年のショルダーホンからはじまった。1987年には,はじめて「携帯電話」という言葉が使われるようになり,1991年には「mova(ムーバ)」という名称の小型の端末も登場した。そして,1994年にはそれまでレンタル制だった端末が買い取り制となり,比較的安価な料金サービスも始まって,このころから爆発的に普及するようになった。1994年には443万契約,1995年には1171万契約,1996年には2691万契約となっている(「平成16年版 情報通信白書」より)。
 NTTの固定電話契約については,「加入権」というものが必要なため,初期費用が大きくなるという特徴があった。一方,携帯電話は,業者間の競争が激しく,初期費用がほとんど必要ないケースも少なくない。そのため,公衆電話だけでなく,一般の固定電話についても,その契約数が減少傾向にあるという。そして,最近では,「近い将来の加入権の廃止」をNTTが提案するようになった。

加入権は,NTTに対して前払いする金銭によって得られるものであり,それそのものに資産価値はもともと存在しない。しかし,生活必需品となっていた電話を使うために必須な金額であり,その権利には資産的な価値が事実上存在した。その金額は,現在は「施設負担金」として72000円となっている。昭和40年ころには,電信電話債権および設備料として,あわせて16万円ほどのものであった。当時の給与水準等と比較すれば,昭和40年以前には,まだ電話のない家庭も珍しくなかったことはいうまでもない。そのようなことは,すでに私も含めた多くの人にとって「未知のこと」であり,あるいは「忘却の彼方のこと」であろう。
 そのころから使われているこの電話機は,故障知らずの傑作といえるだろう。


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