撮影日記


2003年08月09日(土) 天気:曇時々晴

可部線存続問題に思う(2)

観光路線として

中国新聞における例の連載でも指摘されていたし,これまでにもいろいろなところで指摘されてきたものと思うが,可部線を「観光鉄道」として再生させるという案も,1つの方法として検討する価値はあるだろう。
 「観光鉄道」として考えた場合,1つは,その鉄道を走る列車に乗ることそのものが「観光」の目的になるようにする方法がある。あるいは,有力な観光地へのアクセス手段として利用する方法がある。前者の方法としては,SL(蒸気機関車)牽引による列車を運行する方法や,いわゆるトロッコ列車を運行する方法などがあるだろう(もっとも,可部線におけるSLの運行は,地上設備などかなり準備する必要がありそうなので,現実的ではないと思われる)。
 とくに,いわゆるトロッコ列車であれば,可部駅から三段峡駅までをずっとトロッコに乗るようにするだけでなく,たとえば上殿駅(戸河内IC付近)で高速バスと連絡するようにし,そこと三段峡駅との間だけを運行するという方法も考えられるだろう。

また来たくなることが大切

たとえ,トロッコ列車のような,魅力的なアトラクションを用意することができたとしても,「もう一度,行ってみよう」と思わせることができなければ,鉄道を長く維持していくことが難しくなってくるだろう。可部線は,広島市という大都市と,三段峡という一級の観光地を結んでいるところに,その可能性が秘められている。現在は,その移動時間の面で不利な状態にあるが,トロッコ列車のような,魅力的な乗り物を用意することができれば,時間的な不利は多少でも埋められることだろう。
 この場合,三段峡などの沿線の観光地へ,何度も行ってみたいと思わせることが重要になる。可部線沿線において観光地とされる場所で,もっとも魅力のある場所はどこだろうか。それは,やはり三段峡にほかならない。駅からわずか100m歩けば,そこからすばらしい峡谷がはじまっているのである。こんなにアクセスのよい峡谷は,ほかにないと言ってもいいだろう。
 個人的に思うことだが,三段峡の途中にある水梨林道は,観光のためには不要である。三段峡駅から,峡谷内でもっとも注目されているポイントである「三段滝」までは,7.5kmの道のりである。往復15kmという道のりは,少々つらいと感じる人もあるかもしれない。水梨林道の終点の駐車場からだと,三段滝までは片道1.5kmにすぎない。この林道があるおかげで,三段滝などのすばらしい景観に訪れやすくなっているわけである。しかし,その反面,その景観の「ありがたさ」が薄れていると感じている。また,道中にはほかにもよい景観がたくさんあるが,これを見ることを放棄しているのである。
 「三段滝だけをお手軽に見る」ような三段峡に,はたしてどれだけの人が魅力を感じるだろうか?

自然を「売り」にするならば

可部線沿線の魅力は,都市部にはない「自然」の片鱗を感じられることにある。トロッコ列車は,それを生かすことのできる有力な方法の1つだと思われる。人為的ではない「本物」に近いものにこそ,訪れる人は魅力を感じるのである。
 可部線沿線の観光地の1つとして,最近,「温井ダム」というものが注目されているようである。巨大な多目的(=とくに目的のない)ダムということで,その規模は特筆すべきものらしい。残念なことに可部線の駅からはかなり離れている。三段滝とは違い,そこまでの道中にいわゆる見所はないので,バスなどを利用して移動することになるだろうが,そうすれば目的地にはすぐに到達するだろう。そして,きれいに整備されたレストランで,特段変わったところもない食事をし,一息入れて帰るだけでは,いったいなにが残るだろうか?そして,また,そこへ行きたいと思うことができるだろうか?もし,温井ダムを観光の目玉だと考えるようでは,可部線の観光鉄道化は難しいだろうと,個人的には感じている。
 三段峡の水梨林道は,観光客を誘致するためのはたらきもあるのかも知れないが,その一方で,峡谷の魅力を減少させる方向にもはたらいている。自然を「売り」にするならば,自然を可能な限り残すようにすることこそが,訪れる人にその魅力を最大限に伝えることができるだろう。


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