撮影日記


2022年06月26日(日) 天気:曇ときどき晴

「関式サロン露出計」(角型)の特許・実用新案を調べる

1938年11月ころに発売された「関式サロン露出計」(2022年4月12日の日記を参照)は少なくとも2回のモデルチェンジを経て,1950年10月ころに大きく姿を変えた「関式サロン露出計」UA型へとモデルチェンジした(2022年5月28日の日記を参照)。このモデルでは,ちょうど実施期間中だったサマータイム(サンマータイム)に対応する表記が含まれていることも,特徴の1つになる。さらに,サマータイム実施期間中の1951年9月ころに「関式サロン露出計」UB型へとモデルチェンジした(2022年2月24日の日記を参照)。「関式サロン露出計」UB型はそのモデル名のまま,表面にある感光度の目盛の表記が少なくとも2回,変更されている(2022年6月7日の日記を参照)。
 「関式サロン露出計」UA型とUB型との相違点としては,「特許」の文字の有無がある。UB型の表面には「関式サロン露出計」の文字の上に「特許」という文字があり,裏面の「MODEL-IIB」とならんで「PATENTED」という文字がある。

UA型とUB型の説明書の記述を比較したところ,これが示す特許は「時刻盤の設置」という表現がされていることがわかる(2022年2月24日の日記を参照)。この特許の具体的な内容は,どのようなものだろうか。
 「特許情報プラットフォーム J-PlatPat(独立行政法人 工業所有権情報・研修館)」(*1)の「特許・実用新案検索」で,検索項目「FI」でキーワードを「G03B7/00」,検索オプションの日付指定で「公告日」を戦後の「19450101」からUB型発売時期をはさむように「19510930」までとする。これでヒットした出願はわずか10件であり,出願人が「関実(關實)」になっているものは,3件あった。

特許出願公告 昭26-4335 寫眞用露出計算尺
  公告 昭26.8.7
  出願 昭24.7.16  特願 昭24-7093

実用新案出願公告 昭26-10056 寫眞用露出計算尺
  公告 昭26.9.7
  出願 昭25.6.7  実願 昭25-11283

実用新案出願公告 昭26-10665 寫眞用露出計算尺
  公告 昭26.9.19
  出願 昭25.6.19  実願 昭25-12078

そのうち特許は1件だけである。その出願は1949(昭和24)年7月16日であり,特許出願公告が1951(昭和26)年8月7日であることは,「関式サロン露出計」UA型およびUB型の発売時期と整合している。
 この特許(特公昭26-004335)の内容を,確認してみよう。「發明の性質及目的の要領」に「…採用光度の變化の對數値を配記してこれを時刻目盛とし…」とあり,これが設置した「時刻盤」の内容を示しているようである。ただ,添付されている図に描かれている露出計の姿は,製品とはまったく異なるものとなっている。製品では,時刻盤も被写体などの条件を記した回転盤も同軸に設けているが,特許出願公告の図では独立した軸に取りつけられており,全体指定は水滴型のシルエットのものになっている。

この「時刻盤の設置」という特許のほかに,UA型の説明書では「実用新案出願中」となっていた項目が2つある。「影の長さによっても露出がわかる」と「合理的な機構とスマートな形態美」というものである。
 J-PlatPatでヒットした3件のうち,残り2件の実用新案出願公告の内容を確認してみよう。
 実公昭26-10056の「登録請求の範圍」には,「…感光度(又は天候)目盛A及び時刻目盛用の小孔9を有する固定板1と…囘轉板2と…停止板3及び…時刻板4とを重合して互に囘轉し得る様に軸10で結合し…」とあり,これらの回転盤が同軸上にある構造であることがわかる。添付されている図を見ると,角型の製品と同じようなシルエットのものになっていることもわかる。これは,説明書にある「合理的な機構とスマートな形態美」に対応する実用新案であると考えられる。
 実公昭26-10665の「登録請求の範圍」には,「…感光度等の目盛に對應して太陽光度目盛に相當する太陽光による垂直體とその投影長の割合で目盛った目盛を設けて…」とあり,説明書にある「影の長さによっても露出がわかる」に対応する実用新案であると考えられる。
 これらの時系列を,整理すると,つぎのようになる。

年月できごと
1949年07月16日時刻盤の設置についての特許出願(特願昭24-007093)
1950年06月07日同軸に配置したことについての実用新案出願(実願昭25-011283)
1950年06月19日影の長さについての実用新案出願(実願昭25-012078)
1950年10月ころ「関式サロン露出計」UA型発売
1951年04月05日UA型説明書(二十三版)特許出願中,実用新案出願中(2件)
1951年08月07日時刻盤の設置についての特許出願公告(特公昭26-004335)
1951年09月ころ「関式サロン露出計」UB型発売(特許)
1951年09月05日UB型説明書(改訂23版)特許,実用新案出願中(2件)
1951年09月07日同軸に配置したことについての実用新案出願公告(実公昭26-010056)
1951年09月19日影の長さについての実用新案出願公告(実公昭26-010665)
1952年02月05日UB型説明書(改訂24版)特許,実用新案出願中(2件)(*2)
1953年02月05日UB型説明書(改訂31版)特許,実用新案登録(2件)

「時刻版の設置」という特許については,問題なく整合する。それに対して「影の長さによっても露出がわかる」と「合理的な機構とスマートな形態美」という2件の実用新案については,整合はしているものの,説明書への反映まで時間がかかっている。
 「関式サロン露出計」UB型の説明書の発行時期について,いま確認できているもっとも古いものは,1951(昭和26)年9月5日発行の「改訂23版」である(2022年2月24日の日記を参照)。その前,1951(昭和26)年4月5日発行の「二十三版」というものと,版の番号が重複していることが気になるが,この間に発行されたものはないだろうと考えれば,UB型の発売は1951(昭和26)年9月と判断できる。また,UB型では「特許」をアピールしたかったのだとすれば,特許出願公告が出るのを待ちかまえていて,出たら急いで製造にとりかかったという状況も想像できる。UB型の発売は,1951(昭和26)年9月と考えて,まちがいないだろう。
 2件の実用新案出願公告はそれぞれ,1951(昭和26)年9月7日と9月19日なので,改訂23版の説明書の発行より後である。その次の版と思われる「改訂24版」は1952(昭和27)年2月の発行であり,出願広告のあとであるが,ここではまだ「実用新案出願中」のままである。さらに後の「改訂31版」では,特許,実用新案とも出願中ではなくなっている。特許は出願公告のあと早々に製品や説明書に反映されているのに対して,実用新案はややタイムラグが存在している事情は,よくわからない。
 戦前も,実用新案出願公告のあと,雑誌広告で「出願中」の文字をはずすまでに半年くらいのタイムラグがあったようだが(→p.42),実用新案制度の運用上の制約などあったのだろうか。

*1 「特許情報プラットフォーム J-PlatPat」(独立行政法人 工業所有権情報・研修館)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

*2 twitter上の発言
https://twitter.com/dinosauria123/status/1541430045859753984


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