撮影日記


2020年11月05日(木) 天気:晴

残念!動かないCASIO VS-101

CASIO VS-101というカメラを入手した。

「スチルビデオ」とよばれた製品の1つである。このようなシステムは,当時あまり売れなかったようで,いま中古品として見かける機会はあまり多くない。

画像を記録する写真の発明は,1839年のフランスのダゲールによるものとされている。その前後にも,ダゲールの方式以外にさまざまな写真のシステムが提案されてきたが,いずれも光によって化学反応をおこす物質の性質を利用したものであった。それに対して近年では,光によって電気信号を起こす部品(撮像素子)を使って画像を記録するシステムが主流となっている。
 「デジタルカメラとは,撮影した画像をデジタルデータとして記録する装置である」と定義したとき,それは1975年にKodakの技術者によって発明されたとされる。当初は高価で扱いにくいものであったデジタルカメラであるが,1995年にCASIOが発売したQV-10によって,広く注目されるようになった。CASIO QV-10は,撮影できる画像の品質はフィルムで撮る画像にくらべて大きく劣るものであったが,小さな筐体にレンズや撮像素子,電池だけでなく,液晶モニタまで内蔵させたことで,使いやすくなった。また,撮影したデジタルデータをパーソナルコンピュータに転送して使えることで,使い道が大きく広がった。1995年というと,Windows 95が発売される年である。このころから,パーソナルコンピュータも広く普及しはじめていたことも,大きく影響したことだろう。

デジタルカメラが広まる前に,「スチルビデオ」とよばれるシステムが市場にあらわれた。これは撮像素子によって得られた画像を,アナログの電気信号として記録するものである。したがってデジタルカメラではないが,後にデジタルカメラに発展していく途上にあるシステムだとみなしてもよいだろう。ムービー用のビデオカメラと同じようなしくみを利用し,「スチル」(静止画)を撮影するようになっている。撮影した画像をすぐにテレビ画面で見ることや,電話回線を通じて遠方に送ることなどができるなど,すすんだ面もあるが,後のデジタルカメラにくらべると扱いにくく,用途もあまり広がらなかったのであろう。
 1981年にSONYが発表した「マビカ」試作品が(*1),最初のスチルビデオカメラとされる。そして,1986年のCanon RC-701が,市販されたはじめてのスチルビデオカメラとされている(*2)。1987年には,オートフォーカス一眼レフカメラMINOLTA α-7000およびα-9000の裏蓋と交換して使う,「スチルビデオバック」(α-7000用がSB-70,α-9000用がSB-90)が発売された(*3)。これらは本体だけで数10万円するものであり,業務用途で使われることが多かった。
 1987年から1988年にかけて,いろいろなメーカーからいくつかのスチルビデオカメラが発売されるようになった。しかしその発売は,長くは続かなかった。

CASIO VS-101は,1987年に発売された。スチルビデオカメラとして,比較的初期の製品の1つである。スチルビデオカメラは全体としてあまり売れなかったようであるが,そのなかでもとくにこの製品は売れなかったのではないかと思われる。この後に発売されたSONYのマビカ(MVC-C1,MVC-A10)やキヤノンのQ-PIC(RC-250)にくらべて,中古品が流通しているのを見かける機会がとても少ないのである。しかしながら,CASIO VS-101の開発者はのちに,後に大ヒット商品となりデジタルカメラを一般に広く知らしめるきっかけとなったCASIO QV-10を開発している。カメラの歴史を眺めるにあたっては,ぜひ入手しておきたい機種の1つである。
 幸いにも,本体だけでなくACアダプタ,バッテリーパック,取扱説明書,ストラップに2インチビデオフロッピーまで,ほぼ一式が含まれていた。

スチルビデオカメラは,どこのメーカーの製品であっても,すでに30年以上まえの古い製品である。したがって,各部が劣化して動かなくなっている可能性が高い。幸いにもこのCASIO VS-101はバッテリーパックの腐食もなく,電子回路は無事であるように見える。ACアダプタを接続して電源スイッチをONにすると,あっさりと起動した。

しかし,シャッターレリーズボタンを押しても反応がない。また,記録(REC)モードにすると,フロッピーディスクドライブがうなりをあげて回転している音がするが,トラックを読みに行くような音が聞こえることはなく,いつまでもモーターが回っているような状況である。

全消去(ERASE A)モードにしてシャッターレリーズボタンを押すと,トラックを1つずつスキャンしていくような音がして,ディスプレイの数字も1つずつ増えていく。だから,シャッターレリーズボタンの接点が劣化している可能性は,ないと考えらる。
 一方で,再生(PLAY)モードにしたとき,やはりフロッピーディスクドライブの回転は止まらず,トラックを選択することもできない。1コマ消去(ERASE S)モードにしたときにはトラックを選択できるので,この部分のボタンの接点が劣化している可能性も,ない考えられる。

以上のことから,少なくともフロッピーディスクドライブの部分にトラブルが生じている可能性が高いと考えられる。ここが故障しているのであれば,修理はかなり困難と思われる。残念だがCASIO VS-101は,静態保存とするしかないようである。

*1 商品のあゆみ−デジタルカメラ (ソニー株式会社)
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/sonyhistory-g.html

*2 RC-701 - キヤノンカメラミュージアム (キヤノン株式会社)
https://global.canon/ja/c-museum/product/svc443.html

*3 スチルビデオバックSB-70/-90 ミノルタの歩み 1987 (株式会社ケンコー・トキナー)
http://www.kenko-tokina.co.jp/konicaminolta/history/minolta/1980/1987.html


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