撮影日記


2019年11月04日(月) 天気:晴

The DCS Story

東京での急な用事が発生したので,その隙間の時間を利用して,半蔵門の日本カメラ博物館を訪れた。

ここには,歴史的なカメラが多数,展示されている。そのなかには,Kodakの初期のデジタル一眼レフカメラも含まれている(2018年2月7日の日記を参照)。そこには,Kodak DCS 460も1台ある。カメラ部分がNikon N90sで前面のロゴが「ds digital science」だから,後期型に相当する外見だ。これのシリアルナンバーは,どうなっているだろうか?Kodak DCS 400シリーズのシリアルナンバーについて,自分で収集できたサンプルがごく少ない(2019年11月3日の日記を参照)ので,1つでも追加できればありがたい。
 展示してあるカメラのシリアルナンバーが見えれば好都合なのだが,厳重なケースのなかに立っており,底に記されているシリアルナンバーを見ることはできない。日本カメラ博物館の受付の人に,そのカメラのシリアルナンバーを控えていないかと尋ねたが,そこまでは台帳等に記載していないらしい。もちろん,ケースを開いて展示物を取り出すことは,簡単にはできない。ここは,量販店の店頭ではないのである。
 ただ,Kodak DCSに関する詳細な文書が,インターネット上に公開されていることを教えていただいた。
 日本カメラ博物館運営委員の市川泰憲氏によれば,カメラ映像機器工業会のデジタルカメラの規格策定で毎年日本に来られていたKodak社のKenneth.Alan.Parulski氏より,CP+2011の会場で「KodakのDCS事業がなくなるのでコダックDCSの代表機種一式を日本カメラ博物館に寄贈したい」と申し出があり,「Kodak DCSを設計したJim McGarvey氏が記録したもの」として写真とともに送付されてきたのが,以下のPDF文書だという。


The DCS Story

17 years of Kodak Professional digital camera systems

1987-2004



この文書は,執筆者 Jim McGarvey 氏のWebサイト(*1)から取り寄せることもできる。

※「Kodak Professional DCS Digital Camera 」のMoreをクリックして展開したときに表示される,「The DCS Story is a brief history of the product line that I wrote when Kodak exited the business in 2004. …」の「The DCS Story」の部分に,PDFファイルへのリンクが用意されている。


▲Jim McGarvey氏
 (提供:市川泰憲氏)

Jim McGarvey 氏のWebサイトには,Kodak DCSのシステム開発にずっと携わってきたとのことが記されている。Kodakからカメラの寄贈を受けた際にも,日本カメラ博物館は本人といろいろやりとりをしたとのことで,この文書の内容には一定の信憑性が担保されていると考えてよいだろう。
 この文書「The DCS Story」には,興味深い内容のことが,いろいろと記載されている。少し目を通しただけでも,Kodak DCS 100が発売される前の試作モデルのこと,一般市場に流通したモデル以外の特殊なモデルがいろいろと存在することなどがわかる。

さて,私が現在,興味をもっているのは,Kodak DCS 400シリーズの生産数である。これについては,「Over 5000 cameras were produced.」という記述がある。シリアルナンバーの観察からは,12000台くらいが生産されたのではないかと想像できた(2019年11月3日の日記を参照)わけだが,2000〜3000台程度のごく少ない生産規模ではなかったことだけは間違いなさそうである。
 また,バッテリーの不具合による無償交換があったことにもふれており,実際にスタジオで事故が発生した事例があったことも述べている。
 そのほかKodak DCS 400シリーズについては,DCS 420にもDCS 460にもカラーモデルのほか,モノクロモデルや赤外線モデルがあったこと,Federal Systems Divisionを通じた政府あるいは軍用のGPS対応モデルやカラー赤外線モデルなどがあったことも示されている。
 Kodak DCS 400シリーズの前期型と後期型についての明確な記述は,含まれていなかった。しかし,前期型に使われていた「DCS」ロゴは1991年から1994年まで,「ds」ロゴは1995年から1998年まで使われていたことが読み取れる。

このような文書が公開されていたことにこれまで気がつかなかったのは,我ながら情けないことである。もしかすると存在には気がついていても,書いた人がどういう人かわからずにその信憑性を判断できず,あえて無視してしまったのかもしれないが,ともかく重要な文書であることを認識できなかったことは間違いない。

なお,一連のKodak DCSに関する情報は,市川泰憲氏の個人的な興味の延長上のものであり,このPDF文書の存在を含めて,日本カメラ博物館の学芸員の間で共有されているわけではないとのことである。私が訪れたときに,たまたま市川氏が在席しておられたので,これらの情報に到達することができたのである。
 タイミングがよかったことも含めて,あらためて厚く御礼申しあげたい。

*1 James McGarvey
http://resume.jemcgarvey.com/


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