撮影日記


2018年04月15日(日) 天気:晴れ

ソフトとハードの二重人格?
NIKKOR-S Auto 5.8cm F1.4で接写する

花の接写には,「マクロレンズ」あるいは「マイクロレンズ」とよばれるものを使う人が多い。これらのレンズは,被写体に近づくことで,おおむね1/2倍から等倍(撮像素子あるいはフィルムに実物の1/2倍から等倍の大きさの像を結ぶ)までの撮影ができる(「マクロレンズ」という名称で流通するものが多いが,厳密には,「マクロレンズ」は等倍より大きく撮影するレンズのことをさす。等倍までのものは「マイクロレンズ」とよぶのが正しい)。
 蕊など花の一部分,あるいは花にとまる昆虫,花についた水滴などを撮るのに必須のものだ。そのようなレンズは,被写体に極端に接近したときでも,画質が低下しないような工夫がされている。
 また,ボケ味とよばれる描写についても,意識されているように思われる。

しかし,いつもいつも,同じレンズを使っていたのでは,おもしろくない。
 できあがる写真がワンパターンになるのをさけるために,あえて異なるレンズを使ってみたい。先日は,内視鏡撮影用のレンズを使った(2018年4月8日の日記を参照)。一般的な「マクロレンズ」とは異なって開放F値が大きな暗いレンズであり,写りも硬質なものだった。少しは違う,雰囲気を味わうことができる。

それでも内視鏡撮影用レンズは,もともと接写に対応したレンズのようである。描写の雰囲気こそ異なるものの,周辺まできっちりと,まじめな像を結んでくれる。
 そこで今日は,接写を得意としないレンズを使うことにした。
 「マクロレンズ」ではないレンズで接写をするときに使うアクセサリとして,接写リング(あるいは「中間リング」などともよばれる)というものがある。レンズとボディの間にはさむことで,むりやり,近くの被写体にピントをあわせるようにしたものだ。それでも,比較的小口径の標準レンズは,接写に強いとされる。そこで今日は,古い大口径の標準レンズと接写リングの組みあわせで撮ることにした。フレアなど,各種の収差が目立ち,それが都合よく画面を演出してくれることを期待する。

Kodak DCS 460, NIKKOR-S Auto 5.8cm F1.4, K1 ring

期待通りの,ソフトな雰囲気の画像が得られた。
 ここで使用したNIKKOR-S Auto 5.8cm F1.4は,ニコンF用としてはじめて発売された,F1.4の大口径標準レンズである。要は,古い大口径レンズである。本来の最短撮影距離は0.6mで,後に発売された標準レンズが0.45m程度になっていることにくらべると,遠いものになっている。このことは,接写が苦手(近距離では十分に補正できない)と判断されたものことをあらわしているのだろう。

全体にフレアがかっているうえに,開放F値がF1.4である。一般的な「マクロレンズ」の開放F値はF2.8からF3.5くらいのことが多いので,そうとうに被写界深度が浅いことになる。
 だから,それなりに絞りこめば,一変してカリッとした描写が得られる。
 こういう点も,おもしろい。

Kodak DCS 460, NIKKOR-S Auto 5.8cm F1.4, K1 ring

水滴はシャープだが,花びらの周囲は紗がかかったように写っている。こういう描写を見せてくれることもある。

Kodak DCS 460, NIKKOR-S Auto 5.8cm F1.4, K1 ring

日光が強くあたる被写体を,F1.4のレンズを開放で撮影すれば,ISO 80相当であっても1/4000秒くらいの露光時間になっている。1/8000秒という高速シャッターに対応したKodak DCS 460 (ボディはNikon F90X)の実力を,フルに発揮できるというわけだ。

Kodak DCS 460, NIKKOR-S Auto 5.8cm F1.4, K1 ring

ホースにつけたノズルを「シャワー」にして,花に向けた。同じ向きに高速シャッターで撮影すると,そこには不思議な世界が描かれた。明るくかつ,無理に接写しているので収差の補正が完ぺきな状態ではないはずだ。これは,NIKKOR-S Auto 5.8cm F1.4でなければ撮れない,そんな画像ではないだろうか。

Kodak DCS 460, NIKKOR-S Auto 5.8cm F1.4, K1 ring

ともあれ,ソフトな描写を見せることもあれば,ハードな描写を見せることもある。この性格を,うまく使い分けることができれば,もっとおもしろいものが撮れるのではないだろうか。NIKKOR-S Auto 5.8cm F1.4は,そう思わせてくれるレンズである。


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