撮影日記


2017年08月05日(土) 天気:曇ちょっと夕立

サムスンのシュナイダー 素直に写せば素直に写る

かつて,一流のカメラといえばドイツ製!と言われる時期があった。日本国内においても,日本製のカメラは1ランク下に思われていた節がある。1950年代以降,日本製カメラの品質があがりはじめて以後,いつしか日本国内で流通する一般向けカメラの大半が日本製(日本のブランド)品になっていた。ドイツなど外国ブランドのカメラはごく一部の,高級品,プロ機材,趣味性の強いカメラなどに限られる存在になっていた。
 そんな時代に韓国のSAMSUNGは,日本国内で一般向けカメラを展開しようとしたようである。日本カメラショー「カメラ総合カタログ」には,1996年版vol.111ではじめてSAMSUNGは商品を掲載した。しかし,日本カメラショー「カメラ総合カタログ」への掲載は,同年版vol.112と翌1997年版vol.113までの2年間で終了している。わずか2年で終了した理由は,よく知らない。日本国内での販売があまりに不振だったのか,あるいは,1996年版と1997年版では取り扱い会社が異なっている(1996年版では「ユニオン光学株式会社」,1997年版では「三星電子ジャパン株式会社」)のでそのあたりにトラブルがあったのか,さまざまな事情が想像できる。ともかく,現在の中古カメラ市場でそこに掲載されているカメラを見かけることがないという現実からは,当時,一般市場にはほとんど売れなかったのではないか?ということだけは想像できる。
 そのような日本市場に参入をはかろうと考えたのであれば,その製品にはそれなりの自信があったのだろうと思われる。とくに,日本カメラショー「カメラ総合カタログ」1997年版vol.113に掲載されていたSAMSUNG SLIMZOOM 145は,Schneider VARIOPLANの銘をつけたレンズを搭載していた。シュナイダーといえば,ドイツの有名なブランドである。実際に製造したのはどこの国のなんというメーカーかは知らないが,自信のある製品に,ドイツの有名なブランドの名前を与えたというならば,その実力のほどを確かめたくなるものである。

最近,SAMSUNGのコンパクトカメラが4機種やってきた(2017年7月7日の日記を参照)。まず,SAMSUNG KENOX 140ipという機種を試してみよう。

 左のSAMSUNG KENOX winner140ではレンズの銘が「SAMSUNG SHD LENS」になっているのに対し,右のSAMSUNG KENOX 140ipではレンズの銘が例の「Schneider VARIOPLAN」になっている。SAMSUNG KENOX 140ipのボディには「2000 MILLENIUM EDITION」と読めるシールが貼られているので,日本カメラショー「カメラ総合カタログ」に掲載されていた時期よりも後の製品だと考えられる。入手した4機種の中では,もっとも完成度が高まっていると想像できるからだ。

SAMSUNG KENOX 140ipは,いろいろと多機能なカメラのようだが,すなおに「A」モードで撮影してみよう。小細工のないいちばん一般的なモードにこそ,そのカメラの実力があらわれるはずだ。

SAMSUNG KENOX 140ip, Schneider VARIOPLAN 38-140mm, ACROS

住宅を更地にする作業がおこなわれていた。休憩中の重機に近づいて,もっとも広角側にして撮る。機械の力強さがあらわれる描写を示してくれている。

SAMSUNG KENOX 140ip, Schneider VARIOPLAN 38-140mm, ACROS

広角側で撮っても,歪曲のようなものは気にならないレベルである。

SAMSUNG KENOX 140ip, Schneider VARIOPLAN 38-140mm, ACROS

ズーム位置は,中間あたりで撮ったものである。後ろのボケかたはごく素直で,好感のもてるものになっている。
 コンパクトカメラに搭載されたズームレンズは,しだいにズーム比(もっとも長焦点側の焦点距離を,もっとも短焦点側の焦点距離で割った値)が大きなものになって,3〜4倍程度のものがポピュラーな存在になっていった。一方で,コンパクトカメラでは,カメラボディをむやみに大きくすることはできない。するとレンズは,何重にもなった鏡胴がするすると伸び,先端にごく口径の小さなレンズがついた形態になる。その結果,コンパクトカメラに搭載された高倍率ズームレンズは,その形態から「タケノコズーム」とよばれるようになる。また,レンズの口径が小さいためにF値の大きな暗いレンズとなり,とくに望遠側では,F10より暗くなるものも多い。その点からは「暗黒ズーム」とよばれることもある。あるいはこれらをあわせて「暗黒タケノコズーム」ともよばれる。
 SAMSUNG KENOX 140ipに搭載されたズームレンズも,「シュナイダー」という高級ブランドを名乗っているとはいえども,いわゆる「暗黒タケノコズーム」だ。そのわりには,よくがんばっているといえる描写である。

SAMSUNG KENOX 140ip, Schneider VARIOPLAN 38-140mm, ACROS

実際に「暗黒タケノコズーム」の最望遠側でも,夏のよく晴れた日中であれば,さほど問題なさそうだ。

SAMSUNG KENOX 140ip, Schneider VARIOPLAN 38-140mm, ACROS

ただし油断していると,ピントをはずしてしまう。このあたりは,レンズやカメラが悪いのではなく,撮影者の工夫や注意でなんとかできると思われる。

私は,SAMSUNG KENOX 140ipをカメラ店の店頭で見たことはない。入手するまで,その名前すら存在すら知らなかった。これだけの実力と多機能をそなえたカメラでありながら,日本国内で知られる機会がほとんどなかったカメラである。ただしそれは,実際に使ってみなければわからないこと。どのカメラを買うか,実際に使わずに判断するには,すでに使っている人たちによる評判と,その発売元ブランドの実績を信じるしかない。1990年代後半に日本市場に参入しようとしたSAMSUNGには,いまさらNikonやCanonだけでなく,OLYMPUSやPENTAXやMINOLTAやFUJIやKonicaやKYOCERAなどのブランドに太刀打ちできなかった,ということであろうか。

少なくとも「日本のほかのブランドのカメラと同レベル」では,新規参入のメーカーには勝機は少ないだろう。だからこその「シュナイダーブランド」の利用だったと思われるが,市場に浸透できるまでの訴求力はなかった,ということか。

※作例はすべて,ネガフィルムからKENKO KFS-500で取りこんだ。


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