撮影日記


2017年07月04日(火) 天気:台風接近 一時豪雨

サムスンのシュナイダー KENOX 140ip

20世紀後半以降,カメラといえば「日本製」という印象が強くなってきたが,それ以前はカメラといえば「ドイツ製」であった。高級機から普及機まで,さまざまなメーカーから,さまざまな機種が発売されていた。ドイツのカメラやレンズのブランドとして有名なものとしては,たとえば次のようなものをあげることができる。
 Carl Zeiss / Zeiss Ikon (カール・ツァイス/ツァイス・イコン)
 Voigtlander (フォクトレンダ)
 Leica (ライカ)
 Rollei (ローライ)
 Schneider (シュナイダー)
 かつてはこれらの名前で,さまざまなカメラや写真用レンズが発売されてきた。やがて,日本製カメラにとってかわられ,多くは一般向けカメラの市場からほぼ撤退していった。その後,日本製カメラがそれらの名前を使うケースがあらわれた。ヤシカ(のちに京セラ)が発売したCONTAXのカメラと,CarlZeissのレンズ群がその代表例だろう(2006年3月9日の日記を参照)。その後,コシナがVoigtlanderの名前でカメラやレンズを発売したり,パナソニックのディジタルカメラ等がLeica銘のレンズを搭載するようなケースもあらわれた。古くは,Rolleiの名前のついた日本製のコンパクトカメラもあった(2013年2月4日の日記を参照)。
 しかし,日本のブランドのカメラでSchneider銘のレンズを搭載したものは,目立たなかったように思う。日本市場でSchneiderは,CarlZeissやLeicaにくらべて,格下に思われていて,わざわざ使う価値がないとでも思われていたのだろうか?それとも,Schneiderが,名前を使われることを嫌っていたのだろうか?そのあたりの事情は,知らない。

かつて,大規模にカメラを製造し,大量に流通させた国としては,ドイツ,日本のほかには,ソ連とアメリカなどがあげられる。日本製カメラが広がる一方で,1970年代以降は,ドイツ製のカメラは撤退する方向にあった。アメリカの一般向けカメラは,ポラロイドやコダックなどの簡便な機構のカメラが中心であり,ソ連のカメラは経済圏が異なっていたことや旧態依然とした製品が多かった。いずれにせよ,20世紀末期には,ドイツ製カメラもアメリカ製カメラもソ連製カメラも,日本製の高機能なコンパクトカメラや一眼レフカメラと真っ向から競合するような位置づけのものではなくなっていたといえる。
 そんな時代に,韓国のSamsungは,日本市場において日本製カメラと真っ向から勝負しようとしたのだろうか。
 1996年および1997年の日本カメラショー「カメラ総合カタログ」には,Samsungの高機能なズームレンズ付きコンパクトカメラが何機種も掲載されている。とくに,「カメラ総合カタログ vol.111」(1996年)に掲載されていたSamsung ECX-1Sは,「ポルシェによるユニークなデザイン」と称する特異なボディが印象的なカメラだ。また,「カメラ総合カタログ vol.113」(1997年)に掲載されていたSamsung SlimZoom 145 (スリムズーム145)は,SchneiderのVARIOPLANレンズを搭載したと謳っている。日本のブランドのカメラではほとんど使われなかった,ドイツのブランドSchneiderは,韓国のSamsungで使われたのである。

Samsungのカメラは日本において,商業的にはあまり成功しなかったのかもしれない。1998年以降の日本カメラショー「カメラ総合カタログ」には,掲載がなくなった。しかし,それなりのラインアップでそれなりに気合いの入った製品を送り出してきたSamsungが,たった2年でカメラの販売から完全に撤退するとは思えない。そもそも,1996年にはじめてカメラを発売したわけでもないだろう。「カメラ総合カタログ vol.111」に掲載されていた4機種のうち3機種は1996年に発売予定のものであったが,Samsung ECX-1Sはこのときすでに発売されていたのである(*1)。この2年間を除いては日本で大々的に売られていなかっただけで,韓国をはじめ海外ではそれなりに展開していたものと思われる。
 そんなSamsungのカメラが,はじめて私のところにやってきた。

Samsung KENOX 140ipというモデルである。向かって左下に貼られた丸いシールには,「2000 MILLENNIUM EDITION」と書かれているので,この機種は2000年に発売されたのであろう。日本カメラショー「カメラ総合カタログ」に掲載されなくなった後にも,Samsungのカメラは発売されていたのである。
 このカメラも,レンズはSchneiderのVARIOPLANを名乗っている。カメラ前面にあるモードセレクトダイアルが,特徴的だ。おもしろいほど多機能である。
 緑色の「A」は,「AUTO」をあらわすのだろうか。通常の撮影モードで,ここにあわせておけば,とりあえずちゃんと写るよ,というものだと思われる。
 その右側の,紙が重なったようなマークは,連写をあらわす。
 その次は,画像では見えにくいが「STEP」と書いてある。このモードにして,ズームレンズを140mmに設定する。そしてシャッターをレリーズするとセルフタイマーがはたらき,2秒の間隔をあけて自動的に,140mm,90mm,38mmで撮影する。「STEP」は,ステップズームという意味だろう。
 「B」は,バルブである。シャッターレリーズボタンを押さえている間,シャッターが開いているので,長時間露光ができる。このとき上面の液晶ディスプレイでは,0.5,1,2,…と,露光時間をカウントしてくれる。ただし,ケーブルレリーズが使えないので,しっかりした三脚に据えつける必要があるだろう。もしかすると,ワイヤレスリモコンが別途用意されていて,それを使うことが前提かもしれない。
 次の顔のマークは,おそらく「ポートレイトモード」の意味だろう。「ポートレイトモード」と聞くと,「絞り開放で撮影するモードかな?」と思うかもしれないが,このカメラでは少し意味が違う。このモードでは,撮影距離に応じて自動的にズームレンズの焦点距離がかわる。おおよそウエストショットあるいはバストショットが撮れるくらいの焦点距離になるようだ。
 さいごに「SPORTS」だが,これはどのような動作をするのか確認できていない。たぶん,プログラムAEが高速シャッター寄りに調整されるのだろうと思うのだが…。

*1 「カメラ総合カタログ vol.111」に掲載されていたSamsungのカメラは,次の4機種であった。扱いは,「ユニオン光学株式会社」である。この「ユニオン光学」は,2010年に破産手続きを開始した,旧・ユニオン光学とよばれる企業をさすのであろうか?
  ・ECX-1S 59,800円(ケース,リモコン付)
  ・スリムズーム125 52,000円(ケース,リモコン付) ※1996年8月発売予定
  ・スリムズーム70S 29,800円(ケース付) ※1996年6月発売予定
  ・AFズーム105S 34,800円(ケース付) ※1996年9月発売予定


← 前のページ もくじ 次のページ →