撮影日記


2016年09月14日(水) 天気:雨のち曇

プラクチカ,ふたたび

多くの一眼レフカメラでは,多数の交換レンズが用意されている。広角レンズや望遠レンズ,コンパクトなレンズや大口径レンズ,アオリレンズやマイクロレンズなど,さまざまな特徴をもつレンズを適宜交換して使いわけることで,さまざまな表現をおこないやすくなっている。レンズ部分には,露光量を調整するための絞りと,ピントを調整するためのレンズの位置を動かすための機構が設けられている。レンズとカメラボディとの間では,絞りの値やピントの位置情報がレンズからボディへ送られたり,絞りやピントの位置をボディ側から制御したりするなど,多くの情報がやりとりされている。
 レンズをボディに取りつける部分は,マウント(あるいはレンズマウント)とよばれる。
 現代の一眼レフカメラでは,多くの情報がディジタル化されて電気信号としてやりとりされており,そのためにカメラとレンズとの間に多数の電気接点が設けられている。それらの電気接点を確実に接触させるために,カメラとレンズとを接合させるマウントは,形の異なる爪を組みあわせて,位置を間違えることなく,かっちりと所定の位置に固定できるようになっている。
 初期の一眼レフカメラでは,レンズとカメラボディとの間で情報をやりとりしたり,互いに制御しあったりするような機構は,ほとんど設けられていなかった。そのため,ネジこみ式のシンプルなマウントも使われていた。とくに,口径42mmでネジのピッチが1mmのマウントは「M42マウント」とよばれ,多くのメーカーのカメラボディに採用され,それに対応した交換レンズも多くのメーカーから発売された。
 「M42マウント」は,「プラクチカマウント」ともよばれる。東ドイツの「プラクチカ」というカメラが,この規格のマウントを使用していたことに由来する。M42マウントは1945年に発売されたContax Sで採用され,1959年以降はPRAKTICAという名称で発売されるようになった。そして,1980年代半ばまでM42マウントのカメラが生産されていた。日本でM42マウントのカメラというとアサヒペンタックスが有名であるが,アサヒペンタックスよりも以前から発売され,アサヒペンタックスがバヨネット式のKマウントに切り替えて後も,M42マウントのカメラを発売していたのである。

由緒正しきPRAKTICAのカメラはぜひ所有しておきたかったので,海外通販で何台か購入したことがあった(1999年11月11日の日記を参照)。PRAKTICAは機種が多く,あまり把握できていない。残念ながら,状態のよいものは入手できなかった。1970年代ころ以降の機種では独特な形状の金属幕縦走りシャッターが採用されているが,このシャッターは壊れやすいのだろうか,少し試しているうちに動かなくなってしまった。まあ,もともとがジャンクに近い状態だったのだから,しかたないか。それ以前の横走り布幕シャッターの機種(HANIMEX PRAKTICA Nova 1B)も入手していたが,HANIMEXとのダブルネームだったこと,カメラとしては平凡なものだったことから,これも手放してしまった。結果として,PRAKTICAの名前のついたカメラが手元に1台もない,という寂しい状況になっている。
 こんなPRAKTICAを落札してしまった事情としては,そんな背景があったのである。

「プラクチカLTL」という機種である。
 縦走り金属幕シャッターを採用した機種としては初期のもので,絞り込み測光のTTL露出計を内蔵している。TTL測光のTTLは,Through The Lensの意味である。TTL測光は,レンズを通った光で,明るさを計測するしくみをさす。一眼レフカメラの場合,レンズが絞られていると,視野が暗くなってファインダーが見にくくなる。そこで,露出をはかるときだけ絞りを絞りこむようにする。この方法を,「絞り込み測光」とよんでいる。最近の一眼レフカメラは,絞りを開放にしたままで,実際に絞ったときの値を計算する「開放測光」になっている。単純なネジこみ式のM42マウントを採用し,TTLだが絞り込み測光を採用しているPRAKTICA LTLは,古いしくみの一眼レフカメラなのである。

ペンタ部には,「エルネマン塔」とよばれるマークがある。PRAKTICAの製造元VEBペンタコンのマークであり,かつてはツァイス・イコンのマークでもあった。PRAKTICAが,自身の由緒正しさを主張する場所であるともいえるだろう。
 さて,このPRAKTICA LTLはいまのところ,シャッターは動作している。ただ,露出計がはたらくかどうかは,たしかめていない。もっとも,露出計がはたらいているかどうか,たしかめようとは思わない。もし露出計がはたらいていないなら,単純な断線なら直るだろうと,分解したくなるからである。かつて動かなくしてしまったプラクチカには,そういうケースも含まれていた。同じ轍を,踏みたくはない。


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