撮影日記


2016年07月23日(土) 天気:晴

古いディジタル一眼レフカメラには,
古いフラッシュを使うべきか?

1960年代後半から1970年代前半にかけて,ヤシカ「エレクトロ35」というシリーズのカメラがヒット商品になっていた。このカメラの特徴は,電子制御式のシャッターを搭載していたことである。そのため,長時間露光を含めた自動露出が可能であった。日本カメラショー「カメラ総合カタログVol.28」(1967年)に掲載されたヤシカ「エレクトロ35」の宣伝文には,「ローソク1本の光でも情景通りに」という表現が使われ,「カメラ総合カタログVol.54」(1975年)に掲載されたヤシカ「エレクトロ35FC」の宣伝文には,「ローソクの光でも真夏の海岸の明るさでも」という表現が使われている。エレクトロ35のシリーズは全体的に大柄なカメラであったが,そのかわりにF1.7クラスの大口径レンズが使われており,電子シャッターによる正確な長時間露光とあわせて,暗所での撮影に強いとされていた。
 この状況を一変させたのは,初代「ピッカリコニカ」(Konica C35EF)である。フラッシュが使えれば,暗所での撮影でも,長時間露光をする必要がない。しかし,当時のフラッシュではまだ,自動調光という機能は一般的でなかった。日中の撮影では自動露出が実現されていたので,誰が撮っても失敗することが少なくなっていた。しかし,自動調光機構のないフラッシュで撮影する場合は,フラッシュの明るさ(ガイドナンバー)とフィルムの感度と被写体までの距離から,適切な絞りを選ばなければならない。これは,ふだんからフラッシュ撮影をしていないと,とっさに適切な絞りが選べるものではない。フラッシュを内蔵させたKonica C35EFは,絞りの選択が自動的におこなわるようになっており,フラッシュ撮影を一気に身近なものにした。その後,一眼レフカメラにもフラッシュが内蔵されるようになった。カメラに内蔵されたフラッシュの光量はあまり大きなものではないので,比較的光量の大きな外付けフラッシュも,引き続き使われてきた。
 ディジタルカメラの時代になって,その状況にまた変化があらわれている。
 ディジタルカメラの特徴として,1コマごとに感度を変えて撮影できる,というものがある。こればかりは,ロールフィルムを使うカメラにはなかなかマネのできないことである(フィルム途中交換が可能な「APSカメラ」は,それを実現した貴重な例だ)。ディジタル一眼レフカメラが一般的になってきたころには,ISO1600相当の感度設定も実用的になっていた。そこに,一般的になってきた手ブレ補正機構がくわわると,フラッシュを使わなくてもその場の光(アベイラブルライトなどとよばれる)だけでも,そこそこ写せてしまう。無造作にフラッシュを使って撮るよりも,その場の雰囲気が出るのでむしろ好ましい結果になる。そしてフラッシュには,単に暗いところを明るくするだけでなく,その場の光とのバランスを取ることも期待されるようになっている。

カメラに露出計が内蔵されるようになった初期には,撮影用のレンズとは別に,露出を測定するためのレンズ(受光部)が設けられていた。その後,より正確な露出を求められるように,撮影レンズを通った光を測定するようになった。このような機構は,「TTL」(Through The Lens)とよばれる。
 フラッシュに自動調光機能が内蔵されるようになった初期には,フラッシュに受光窓が設けられており,そこで被写体からの反射光をはかって,発光量を調整していた(外部調光)。のちに,カメラ本体内に専用の受光部が設けられ,レンズを通ってきた光をはかって発光量を調整する,「TTL調光」も実現されるようになった。
 外部調光式のフラッシュは一般的に,レンズを特定の絞り値(たとえば,F4とかF8とか)にしてあることを前提に,フラッシュが自動的に発光を調整するので,絞り値が選べるカメラであればどんな機種にでも使用することができた。キヤノンのカメラにもニコンのカメラにも,ナショナルのオートフラッシュが共通して使えたのである。キヤノンのカメラにニコンのフラッシュを組みあわせてもよかったのである。
 しかしTTL調光式のフラッシュは,カメラボディとの組みあわせが指定されるようになった。そうなると,異なるメーカーのカメラボディとフラッシュとを組みあわせて使うことは,基本的にできない。同じメーカーのものであっても,調光の性能があがるにつれて,互換性が失われることもでてきた。

ニコンでは,1980年に発売されたNikon F3ではじめて,フラッシュのTTL調光が使えるようになった。Nikon F3専用のフラッシュとして,発光を制御する回路を内蔵したSB-12やSB-16Aなどが発売され,これらを使うとTTL調光で撮影することができた。これらNikon F3専用のフラッシュは,カメラへ取りつける部分の形状が一般的なホットシューとは異なる独特のものだった。
 1983年に発売されたNikon FE2やNikon FA以降になると,TTL調光のために発光を制御する回路が,カメラに内蔵されるようになってきた。これらのカメラでは,フラッシュを取りつける部分の形状が,一般的なホットシューと同じものになった。Nikon F-501AF以降になると,オートフォーカスの補助光を内蔵した,いろいろな種類のフラッシュが発売された。のちには,それらのフラッシュをNikon F3で使うために制御回路を内蔵したアダプタ(ガンカプラAS-17)も発売されている。TTL調光は,フィルム面に反射した光を利用して発光を制御するようになっており,後幕シンクロや3D測光などの改良が加えられながらも基本的な調光については,さいごに発売されたNikon F6やNikon U2まで互換性が保たれていた。
 ディジタルカメラの時代になって,この状況にも変化があらわれてきた。1998年に発売のNikon D1からは,いちど発光して測光し,あらためて本番の発光をおこなうようにTTL調光があらためられた(D-TTL調光)。フラッシュも,SB-28DXなど「DX」がつく機種にモデルチェンジされた。SB-28DXなどのD-TTL調光に対応したフラッシュは,それ以前のカメラでTTL調光のフラッシュとして使うことができるが,Nikon D1と従来のフラッシュを組みあわせたときはTTL調光は使えず,外部調光(あるいはマニュアル)で使うことになる。さらに2003年に発売のNikon D2Hからは,i-TTL調光に改められた。
 TTL調光のカメラでTTL調光撮影をするときには,TTL調光のフラッシュのほかにD-TTL調光のフラッシュや一部のi-TTL調光のフラッシュを使える。逆に,i-TTL調光のカメラでTTL調光撮影をするときには,i-TTL調光のフラッシュしか使えない。そのためか,i-TTL調光に対応していないフラッシュは,中古市場ではかなり安価で流通するようになっている。

TTL調光の互換性
フラッシュ\カメラ Nikon F3
(F3専用TTL)
FE2, AF機など
(TTL)
D1,D100など
(D-TTL)
D2H以降
(i-TTL)
SB-12, SB-16Aなど
(F3専用TTL)
TTL装着不可装着不可装着不可
SB-16B, SB-26など
(TTL)
TTL
(AS-17使用)
TTLTTL不可TTL不可
SB-28DX, SB-50DXなど
(D-TTL)
TTL
(AS-17使用)
TTLD-TTLTTL不可
SB-600, SB-800など
(i-TTL)
TTL
(AS-17使用)
TTLD-TTLi-TTL
SB-5000, SB-900など
(i-TTL)
TTL不可TTL不可TTL不可i-TTL

さて,ここで気になるのは,Nikon D1以前のディジタル一眼レフカメラではどのフラッシュを使えばよいのか,ということである。1998年発売のNikon D1からD-TTL調光に変わったのであれば,それ以前のディジタル一眼レフカメラは,旧来のTTL調光に対応していると考えたいところだ。
 Nikon D1以前のディジタル一眼レフカメラであるFUJIX DS-505Aの取扱説明書を参照すれば,TTL調光撮影が可能であることがわかる。そして,SB-25あるいはSB-26の使用が推奨されている。また,SB-20,SB-22,SB-23も使用可能だが,SB-24は「色温度の設定が異なるので,おすすめしない」とのことだ。
 FUJI FinePix S2 Proは,Nikon D1よりもあとに発売されたディジタル一眼レフカメラである。しかしこれは,Nikon D1以前に発売されたNikon F80をベースにつくられたカメラとされている。フラッシュ撮影は,TTL調光に対応しているのだろうか,それともD-TTL調光に対応しているのだろうか。取扱説明書には「使用可能なニコン製ストロボについて」という項目(p.66)があり,SB-28,SB-28DXやSB-16Bなどのフラッシュで,TTL調光が可能であることが示されている(*1)。
 それならば,Nikon F90X (Nikon N90s)のボディを利用しているKodak DCS460も,旧来のTTL調光が使えるはずだ。そこで,Kodak DCS460の取扱説明書 (User's Manual)を参照するが,フラッシュのTTL調光に関する記述がない。カメラそのものはNikon F90Xだから,それと同じという理解でよいのか?それとも違うのか?「Using a Flash」(7-53)という項目が1ページだけあって,そこには,「ニコン専用フラッシュを使うときには,露出補正の必要があるかもしれない。テスト撮影をしてたしかめろ。」(When using a dedicated Nikon flash, you may need to set exposure compensation on the camera body. Take test pictures to verify proper exposure.)とあるのみ(*2)。

それならば,実際に撮って,たしかめてみよう。Kodak DCS460とSB-20とをTTL調光ケーブルSC-17で結んで,今日もアサガオを撮ることにした。レンズ先端から被写体までの距離は数cmだが,フラッシュは40〜50cmほど離したところで発光させている。

Kodak DCS460, UW-NIKKOR 28mm F3.5, BR-2, SB-20

アサガオの花びらに,花粉が数粒こぼれている。日光が当たっていないので,少しでもメリハリをつけるために,フラッシュを併用した。この画面でいうと天のほうで発光させているので,半逆光気味というぐあいになる。

Kodak DCS460, AF Micro-NIKKOR 105mm F2.8S, SB-20

アサガオの薄い花びらの透明感を出したく,これも半逆光気味になるような位置でフラッシュを発光させている。手前に影がはっきり出てしまい,これはちょっとやりすぎであったか。

これを見るかぎり,おおよそまっとうな結果は得られている。ただ,テスト撮影としてはふさわしくない,特殊な状況での撮影かもしれない。今後もほんきでフラッシュ撮影に使うならば,ふつうに室内で数m離れたところの人物を撮る,そういう場面でのテスト撮影もしておくべきだな。

*1 FinePix S2 Pro 使用説明書 (富士フイルム株式会社)
http://fujifilm.jp/support/digitalcamera/download/pack/pdf/ff_finepixs2pro_mn_j100.pdf

*2 User's Manual KODAK Professional DCS410 DCS420 DCS460 NC2000e Digital Cameras (Eastman Kodak Company, 1997)
ftp://ftp.kodak.com/web/service/manuals/dcs/1h6359.pdf


← 前のページ もくじ 次のページ →