撮影日記


2016年05月05日(木) 天気:晴

VEMAR 28mm F3を見直そう

一眼レフカメラを使うときの魅力の1つに,さまざまな交換レンズを利用できる,というものがある。標準レンズと望遠レンズ,そして広角レンズでは,得られる視野はまったく違うものになる。ズームレンズが一般的ではなかった時代であればなおさら,交換レンズの存在は魅力的なものである。
 だが,交換レンズというものは,必ずしも安価なものではない。そこで,カメラメーカーから発売されるものよりも安価な製品が,交換レンズ専門メーカーのようなところから発売された。そのなかには,マウント部分を交換できて,複数のメーカーのボディを持っていても,1本の交換レンズを使いまわせるようになっていたものもある。タムロンのアダプトール/アダプトール2という交換マウントのシステムはバヨネット方式になっており,自動絞りや各種AEへの連動も(完全ではない面もあるが)実現されていた。
 一方で,自動絞りなどへの連動機構はないが,ねじ込み式で簡便な交換マウントのしくみもあった。Tマウントとよばれるもので,内径は42mm,ネジのピッチは0.75mmとなっている。現在でも,天体望遠鏡にカメラを接合するために使われている規格であるが,開放測光やAEに対応できないことから,カメラの交換レンズ用としては遠い過去のものになっている。Tマウントの交換レンズはタムロンによって発売されたが,のちにさまざまなメーカーからも発売されたようである。Tマウントのアダプタさえあれば,1つのレンズをいろいろなマウントのカメラボディで使えるので便利である。
 ただし,数多くあるTマウントレンズのなかには,素性がよくわからないものもある。この,VEMAR 28mm F3というのも,よくわからないレンズの1つだ。28mmという焦点距離は,ライカ判の一眼レフカメラ用の広角レンズとしてはポピュラーなものである。しかし,開放F値が「3」というのは,あまり聞いたことがない。28mm F2.8という仕様のものはよく見かけるし,28mm F3.5という仕様のものも,廉価版としてよくあるものだ。しかし,F3という仕様は,珍しい。

「VEMAR」というブランド名も,聞いたことがない。Webを検索しても,あまり情報が見つからない。ただ1つだけ言えるのは,少なくとも日本製のようである,ということだ。

距離目盛がフィート表記だけなので,アメリカあたりへ向けた,輸出専用品だったのかもしれない。VEMARは輸出専用品に与えた名称だったのか,それとも輸出先の販売店等のブランドだったのだろうか。なお,このレンズは15年くらい前に,アメリカの販売店から購入したものである。

これまでに実際に撮影に使ってみたところでは,周辺の描写にややあやしさを感じるなど,あまりよい印象をもっていなかった(2010年7月9日の日記を参照)。ただ,このような素性がわからないレンズは,ふつうに綺麗に写ってくれても,おもしろくない。もちろん,綺麗な画像が得られれば,「よし,これでいろいろなものを撮ろう」と思うようになる。逆に,あやしい写りを見せられても,「こんどは,どんな変な写りをしてくれるだろうか」という楽しみ方もできるようになる。
 私の手元にあるニコン用のTマウントアダプタは,Ai連動爪などと干渉しないので,Ai方式の露出計連動機構があれば,フィルムの一眼レフカメラでも,ディジタル一眼レフカメラでも使うことができる。

ディジタル一眼レフカメラが発売されて以降,「ディジタル専用レンズ」や「ディジタル対応レンズ」と称する交換レンズが発売されてきた。
 「ディジタル専用レンズ」というのは,多くの場合,ライカ判よりも小さな撮像素子をもつディジタル一眼レフカメラ専用レンズとして発売されたものを指す。このようなレンズは,コンパクトかつ低価格にまとめた一方で,イメージサークル(きれいな画像が得られる範囲)がライカ判をじゅうぶんにカバーしていない場合がある,というものである。だから,ディジタル一眼レフカメラでは使えるが,フィルムの一眼レフカメラでは使えない,ということから「ディジタル専用レンズ」と称しているのである。
 一方,「ディジタル対応レンズ」は,フィルムの一眼レフカメラでも使えるし,ディジタル一眼レフカメラでも使えるというものである。ディジタルカメラの撮像素子の特性にあわせて,従来のレンズよりもより高性能になった,ということを謳っているようだ。それらのレンズでは,ディジタル一眼レフカメラの撮像素子はフィルムにくらべて奥まった位置にあるので,そこへまっすぐに光線を届かせるように,レンズの配置が改良されている,という意味の説明がなされている。

ということは,設計の古い広角レンズをディジタル一眼レフカメラで使えば,そうとうに問題のある画像が得られるのだろうか?それも,「VEMAR」という名称の,素性のわからないレンズである。これは,大いに期待できる。
 そう考えて撮ったものの,期待に反してごくまっとうな写りを示している。周辺部がそれほど問題ありそうに見えないのは,撮像素子がライカ判よりも小さいために,レンズの周辺部の描写を見ずに済んでいるからだろう。

Kodak DCS460, VEMAR 28mm F3

描写に問題がないならば,こういうコンパクトな広角レンズは,狭い町を散歩するときのお供に適したものとなる。Kodak DCS460の撮像素子はいわゆるAPS-Hサイズなので,28mmレンズはライカ判の35mmレンズ相当の感覚で使うことになる。

Kodak DCS460, VEMAR 28mm F3

軒先などに黄色い警戒色が塗られているのは,道の狭い町でよく見かける光景だ。

Kodak DCS460, VEMAR 28mm F3

狭い道を抜けた先には,かつて電車乗り場があった。この周辺には,そのことを示す道標が残っている(2010年5月26日の日記を参照)。

Kodak DCS460, VEMAR 28mm F3

したがってこの道は,廃線跡となる。世の中には,このゆったりしたカーブから,ここが廃線跡であったことを嗅ぎ取る人もあるらしい。

Kodak DCS460, VEMAR 28mm F3

ともあれ,あまりきれいに写らないと思っていたレンズをあらためて使ってみたところ,思ったよりもきれいに写ったことに驚いているのである。繰り返すことになるが,撮像素子がライカ判よりも小さいためにレンズの周辺部の描写を見ずに済んでいるから,という事情が無視できないものだったとしても。


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