撮影日記


2016年03月15日(火) 天気:晴

ディジタルじゃないマビカ その実力は?

ディジタルカメラが市場に出る前に,スチルビデオカメラというものがあった。スチルビデオカメラでは画像の記録媒体として,フィルムのかわりに専用のフロッピーディスクを使う。画像はディジタルデータとしてではなく,アナログの電気信号として記録されていた。
 スチルビデオの統一規格は,「電子スチルカメラ懇談会」という組織でつくられた。統一規格にもとづいて一般向けには,ビデオフロッピーへの画像の記録がDPEサービスの1つとして1985年にはじめられた。また,記録された画像をテレビに映すための,さいしょのプレーヤが発売されている(2016年3月10日の日記を参照)。これらのサービスや製品を提供したのは,富士フイルムである。
 この後,富士フイルムは,1980年代末からディジタルカメラの試作機を発表し,1991年9月にはディジタルカメラDS-100を発売している(*1)。さらに,FUJIX DS-505にはじまるニコンと共同開発のディジタル一眼レフカメラを発売したり,FinePixシリーズとしてニコンFマウントのディジタル一眼レフカメラを発売するなど,ディジタルカメラの黎明期において,さまざまな重要な足跡を残してきた。

朝日ソノラマ発行の「カメラレビュー別冊 クラシックカメラ専科」で,「クラシックカメラ専科 No.44」の特集は,「富士写真フイルムのカメラ」である。だが,そのなかでスチルビデオカメラやディジタルカメラについては,まったく扱いがない。「クラシックカメラ専科 No.44」の発行は,1997年である。スチルビデオカメラは過去のものになろうとしており,ディジタル一眼レフカメラFUJIX DS-505は発売されている。すでに存在しており,しかもそれは,カメラの歴史上,大いに意味のある製品群だ。それにもかかわらず,扱いが皆無なのである。
 「電子カメラやディジタルカメラは,クラシックカメラじゃないからでしょ。」
という人があるかもしれないが,この本には年表が載っており,それはきちんと1997年までカバーしている。1997年というのは,この書籍が発行されたときの「現在」である。だから,「昔のカメラ」以外は絶対に扱わない,というわけではない。
 スチルビデオカメラやディジタルカメラについての記事を載せるべきだ,などとは言わない。いくらなんでもそういう記事は,クラシックカメラを扱う書籍の守備範囲外だろう。特集の冒頭に,「富士写真フイルム”これまでの歩み”」というタイトルの記事があり,その最後にある「非銀塩分野などへの熱心な取り組み」という小項目において,医療関係や磁気テープのことにまで言及しているのだから,そこに一言くらい,富士フイルムがスチルビデオやディジタルカメラの発達にも大きな役割を果たしていることが書いてあってもよかったのではないか,と言いたいのである。
 「クラシックカメラ」をテーマにした本だから,スチルビデオやディジタルカメラの詳しい紹介をしていないのは納得できるものの,富士フイルムの大きな業績に「まったくふれていない」のは,さすがにいかがなものかと思うのだ。

スチルビデオやディジタルカメラは,「カメラ」だと認められていなかったのだろうか。

そういう方針だったのならしかたないが,「非銀塩分野などへの熱心な取り組み」のなかに,「スチルビデオやディジタルカメラの分野にも取り組んでいる」程度のことくらい,書き加えられなかったものだろうか。富士フイルムにとって,歴史上とても大きな実績になるはずなのだが。
 ともあれこのままではあまりにも,スチルビデオカメラがかわいそうである。
 「カメラ」と名前がつくからには,きちんと体験した上で評価したい。

今日は,ひさしぶりによく晴れている。
 ジャンク品として入手したスチルビデオカメラのうち,「マビカ」(SONY MVC-A10)が撮影が可能な状態になった。
 撮影可能な状態になったが,再生アダプタは不調のままである。したがって,今日もFUJIX TV-PHOTO PLAYER P3の出番である。

SONY MVC-A10で撮影した2インチビデオフロッピーを,FUJIX TV-PHOTO PLAYER P3で再生する。そのビデオ出力をminiDVムービーカメラSONY DCR-TRV33Kに接続してダビングする。それを再生してパソコンへ取りこむ,という面倒な手順はかわらない。

DCR-TRV33Kの小さなモニタで見るかぎりは,なかなかいい具合に写っているように見える。

だが,キャプチャしてみると,このような残念な画像である。

SONY MVC-A10

被写体が,動いていない場合は,どうだろうか。よく晴れた空を,見上げた。

SONY MVC-A10

全体に画像が甘く,ブレを感じる。ムービーカメラにダビングし,そこからキャプチャして取りこんだために,大幅に画質が落ちてしまった可能性はある。
 SONY MVC-A10はピントが固定されており,説明書では1.5m以上離れて撮るように指示がある。いつもの駅前のいつもの郵便ポストから,数m離れて撮ってみると,このようになった。

SONY MVC-A10

やはり,残念な画質である。

SONY MVC-A10

このような大きな文字でも判読は厳しいものがあるが,これは本来の画質ではないかもしれない。先にも書いたように,パソコンに取りこむためにムービーカメラを利用しているので,そこで画像がブレてしまった可能性は否定できない。なによりも忘れないでいただきたいこととして,撮影に使ったSONY MVC-A10も再生に使ったFUJIX TV-PHOTO PLAYER P3も,とても古い機械(約30年前のもの)である。FUJIX TV-PHOTO PLAYER P3はデッドストック品のようだったが,SONY MVC-A10はジャンク品であることもお忘れなく。
 いろいろSONY MVC-A10の肩をもってみようと思うのだが,正直なところ,そもそもカメラとして「イマイチ」である。発売当時の価格は8万円くらいだったようだが,それだけの価格の製品であるにもかかわらず,ピントが固定されているのはあまりに残念である。ピントがきちんとあわせられなければ,きれいな画像が得られる可能性は低い。また,暗いところではフラッシュが自動発光するのだが,発光禁止にしたり強制発光させたりすることができない。こういう点が製品でこだわられていないのは,当時のSONYはビデオカメラメーカーではあっても,カメラメーカーではなかったということを示しているのだろうか。あるいは,業務用機器ではなく一般向け機器なら,これくらいでいいだろうと割り切っていたのだろうか。

これらの画像は,パソコンに取りこんで眺めるとかなり残念な画像であるが,あまり大きくないテレビ画面で見ればそこまで残念には感じない。この画像をみた人たちは,将来のディジタルカメラの発展を夢見ただろうか,それともフィルムにはかなわないと判断しただろうか。今になって振り返るならばなんとでも言えるが,当時は,将来をどう想像していた人が多数だっただろうか。
 少なくとも私は,自分がスチルビデオカメラを実際に使う日がくるとは,まったく想像していなかった。それも,30年も後になって(笑)。

*1 富士フイルムのあゆみ−1990年 (富士フイルム株式会社)
https://www.fujifilm.co.jp/history/f1990.html


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