撮影日記


2016年02月20日(土) 天気:曇

ロウソクが消える直前の最後の輝き?
Canon Q-PICが一瞬だけ息を吹き返す

ディジタルカメラが一般に普及したのは,1995年に発売されたCASIO QV-10以降のことである,とみなすことに異論をはさむ人は少ないと思う。その後に,多くのメーカーから,さまざまな種類のディジタルカメラが発売されるようになった。そのころのディジタルカメラは撮像素子が30万画素程度のものであり,それによって得られる画像は現在の基準で考えればとても使い物にはならない。まさに,「おもちゃ」以下である。だが,それらを「クラデジ」と呼び,実際にどのくらいの画像が得られるのか試してみるのも,ディジタルカメラの楽しみ方の1つである(2015年9月10日の日記を参照)。そうすれば,撮像素子が100万画素を超えたあたりから,ようやく実用的になってきたということも実感できるのではないだろうか。
 また,CASIO QV-10の発売当時にはすでに,100万画素どころか600万画素の撮像素子をもつディジタルカメラが市販されていたことも,忘れてはいけない(2016年2月15日の日記を参照)。それはCASIO QV-10のような「一般向け」の製品ではなく,Kodak DCS460のような「業務向け」の製品として位置づけられていたものである。この流れをあわせて考えれば,Nikon D1が発売された時期にあたるおおむね2000年ころに,「業務向け」製品と「一般向け」製品の流れが合流したように見えてくる。

「一般向け」製品の流れと,「業務向け」製品の流れとを眺めれば,ディジタルカメラの歴史を語るにじゅうぶんかと言えば,そうではない。ディジタルカメラの歴史を振り返って眺めるには,もう1つ忘れてはいけない存在がある。
 それは,「スチルビデオ」とよばれた製品群だ。
 「スチルビデオ」とはその名称が示す通り,「スチル」(静止画)を撮影するための「ビデオ」カメラである。ムービーを撮影するためのビデオカメラが普及してきたころに,そのような製品が各社から発売されたことがあった。「スチルビデオ」は,大きな普及は見られなかった。そのおもな理由としては,撮影した画像を見るにはテレビに接続する必要があったことと,ムービーを撮影するためのビデオカメラとの価格差があまり大きくなかったことが考えられる。また,画像を扱いやすいパソコンが普及するより以前のことでもあり,パソコンに画像を入力するような配慮もふじゅうぶんなものであった。
 CASIO QV-10がヒット商品になったのは,液晶モニタを内蔵していて撮影した画像がすぐに確認できることと,パソコンへ撮影した画像データを取りこむことが配慮されていたという2つの要因が大きく影響していたものと思われる。もちろん,パソコンが大きく普及する時期に発売されたというタイミングのよさがあっったことは,重要な要因である。
 「業務向け」のディジタルカメラは当然のように,撮影した画像データをパソコンで利用するための方法が配慮されていた。ただしこの当時は,画像を扱いやすいパソコンそのものも,かなり敷居の高い存在だった。

1981年にSONYが発表した「マビカ」試作品が,最初のスチルビデオカメラとされている(*1)。そして,1986年のCanon RC-701が,市販されたはじめてのスチルビデオカメラとされている(*2)。その価格は,390000円であった。つづいて1987年には,オートフォーカス一眼レフカメラMINOLTA α-7000およびα-9000の裏蓋と交換して使う,「スチルビデオバック」(α-7000用がSB-70,α-9000用がSB-90)が発売された(*3)。日本カメラショー「カメラ総合カタログ Vol.91」(1988年)に掲載された価格は,それぞれ198000円である。α-7000やα-9000が掲載されなくなったVol.100 (1991年)にも掲載されていたが,Vol.104 (1992年)には掲載されていない。これらは,「業務向け」機種であるとみなすこともできるだろう。スチルビデオカメラは今後,低価格化や高画質化が進むのだろうか?フィルムにとってかわる存在になるのだろうか?
 期待と不安が高まる中,この後に価格がぐっとさがった機種が,各社から発売されるようになった。そのようなスチルビデオカメラの1つに,キヤノンから発売されたCanon RC-250がある(*4)。Canon RC-250には「Q-PIC」という愛称もつけられた。日本カメラショー「カメラ総合カタログ Vol.98」(1990年)に掲載された価格は,89800円である
 昨秋に,ジャンク扱いのディジタルカメラをまとめて入手した(2015年10月1日の日記を参照)が,そのなかにCanon RC-250も含まれていた。じつは,Canon RC-250が含まれていたから,そのジャンク扱いのディジタルカメラのセットを入手したのだ。「クラデジ」を語るために,「スチルビデオ」もさわっておきたい,と考えたのである。

ただし残念なことに,入手したのはCanon RC-250の本体のみで,バッテリーもなければACアダプタもない。Canon RC-250が使う記録メディア「2インチビデオフロッピー」もない。動作確認もできない状態なので,結局,半年間,放置していたのである。
 今日,とにもかくにも電源を入れてみよう,と思い立った。ほかでもないが,FUJIX DS-505AやKodak DCS460のバッテリーを復活させることができて,気を良くしているのである(笑)。
 Canon RC-250のバッテリーパックは,8Vのものである。スチレンボードにアルミテープを貼ったものを,バッテリーパックを入れるところに挿入し,奥の接点に接触させる。単3型Ni-MHを6本つないだものを電源とし,そこにつなぐ。バッテリーパックを挿入後にはめる蓋には突起があって,それが小さなスイッチを押すようになっている。そのスイッチを押してやれば,Canon RC-250の液晶ディスプレイに「00」という数字が表示された。

表示された「00」という数字だが,これはおそらく,撮影可能枚数をあらわしているのであろう。2インチフロッピーディスクが入っていないのだから,ここが「00」になるのも当然だ。
 ともかく,Canon RC-250はまだ動く状態だったようだ。そこで,スチレンボードをきちんと切り直し,アルミテープも貼りかえて,接点を作り直した。そしてふたたび挿入したのだが,こんどはCanon RC-250がうんともすんとも言わない。接点のちょうどよい位置が,きわめて微妙なものなのだろうか。それとも,さきほど通電した一瞬で,壊れかけていたCanon RC-250にとどめをさしてしまったのだろうか?「00」が表示されたのは,ロウソクが消える直前,瞬間的に明るく燃えるそのような現象だったとでもいうのだろうか。
 ともかく,Canon RC-250がなにもいわなくなったので,なにもわからない。だが,なんとか動かしてやりたい。
 スチルビデオという沼は,かなり深いようだ。立ち入るべきではなかった領域なのかもしれない。

*1 商品のあゆみ−デジタルカメラ (ソニー株式会社)
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/sonyhistory-g.html

*2 RC-701 - キヤノンカメラミュージアム (キヤノン株式会社)
https://global.canon/ja/c-museum/product/svc443.html

*3 スチルビデオバックSB-70/-90 ミノルタの歩み 1987 (株式会社ケンコー・トキナー)
http://www.kenko-tokina.co.jp/konicaminolta/history/minolta/1980/1987.html

*4 RC-250 (Q-PIC) - キヤノンカメラミュージアム (キヤノン株式会社)
http://www.canon.com/c-museum/ja/product/svc446.html


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