撮影日記


2016年02月06日(土) 天気:晴

イコンタ520/2にハンドストラップをつけよう

先月,友人が,FUJIX DS-505AおよびKodak DCS460というディジタル一眼レフカメラをくださった(2016年1月4日の日記を参照)。どちらも,ディジタル一眼レフカメラとしてはごく初期のものであるが,プロ用というか業務用として使われた製品である。スペック面や使い勝手など,現代のディジタル一眼レフカメラにくらべれば大きく見劣りする面もあるが,いずれもカメラとしての完成度が高く思われ,また,撮影できる画像の品位もじゅうぶんに高いものになっている。
 どちらもバッテリーが劣化するなどして使えない状態になっていたが,手持ちのバッテリーを流用することによって,FUJIX DS-505AKodak DCS460も,どちらもフィルム1本分くらいのコマ数ならば,じゅうぶんに撮影できる状態にまでは復活することができた。

一段落したところで,次の課題。
 友人が送ってくださったカメラは,もう1台あった。

ツァイス・イコンの,「イコンタ」である。それも「Ikonta 520/2」,イコンタとして最初のモデルだ。
 状態は悪くなさそうだが,ハンドストラップが失われているとのこと。そこで,手元にあった金具と,革の端切れとを使って,ストラップの形をつくって取りつけることにした。
 とりあえず完成させたので,いざ試し撮り!と思ったのだが,1/25秒のシャッターのご機嫌が悪く,今日の試し撮りは見送ることにした。

Ikontaの特長は,スプリングカメラという形態を広めたことにある。
 Ikonta以前にも,折り畳み式のカメラはいろいろと存在した。カメラでは,像を記録するために感光材(フィルムや乾板など)が使われる。感光材には,撮影したい像以外の光があたってはならない。そこで,暗黒の空間である「暗箱」というものが必要になる。きれいな写真を撮るためには,できるだけ大きな感光材を使いたい。感光材の大きさに応じて,像を結ぶためのレンズの焦点距離も長いものになるので,「暗箱」も大きなものになってくる。しかし,大きな「暗箱」は,持ち運ぶことが不便になる。そこで,折り畳み式のカメラが好都合になる。
 カメラを折り畳み式にするためには,蛇腹の発明が大きく貢献したことだろう。蛇腹というものが,いつ,どのようにして発明されたのかは知らない。畳むとほぼ素材の厚みだけになり,伸ばすと大きな空間が形作られる蛇腹は,カメラを折り畳み式にするにはなくてはならないものだ。
 古くからある折り畳み式カメラでは,レンズを取りつける前板と,感光材を取りつける後板とがあり,その間が蛇腹で結ばれる。そのようなタイプのカメラは現在でも,「組立暗箱」とよばれて,大判カメラとしてはポピュラーな形態である(1999年8月30日の日記を参照)。

比較的小型のカメラとして,ハンドカメラとよばれる形態のものがあった。一見すると,ただの小さな箱である。蓋を開くと,そこがベースボードになる。ツマミをもってレンズボードを引き出せば,撮影の態勢が整う(2009年6月14日の日記を参照)。

それらに対してスプリングカメラは,バネの力によって,ボタンを押すだけで撮影態勢が整うようになっている。

Ikontaのようなスプリングカメラは,すぐに撮影態勢が整うようになっているところに,大きな特徴がある。
 そのなかでもとくに,Ikonta 520/2には大きな意味がある。スプリングカメラという形態をポピュラーな存在にしたという点だけではなく,カメラとして必要十分な機能が用意されている点を兼ね備えていることが,重要なのである。写真を撮るときに感光材が必要であるが,その感光材にきちんとした像を結ばせなければならない。そのためにレンズがあり,機能としてピントをあわせることが必要である。また,感光材にとって適切な光の量というものがあり,それを調節するためにレンズにはシャッターと絞りが存在している。
 Ikonta 520/2に搭載されたレンズは,Novar 10.5cm F6.3というものである。ツァイスのレンズとしては,4枚以上のレンズで構成されたTessarやSonnarなどが高性能レンズとして有名であり,Novarは3枚のレンズで構成された廉価版と位置づけられる。しかし,理屈の上では3枚構成のレンズは,じゅうぶんな性能をもったレンズとして最低限のものとされる。開放F値がF6.3というのはあまり明るいレンズではないし,Ikonta 520/2に搭載されたシャッターは1/25,1/50,1/100の3段階しか露光時間を調整できない。明るさを調整できる範囲は限定的なものとなるが,それでも現在のISO 100程度のフィルムを使えば,晴天の日なたから曇天の日かげくらいまで,日中の撮影ならばなんとか対応できるだろう。目測式ではあるが,およそ1mのごく近い被写体から無限遠の被写体まで,ピントを調整することが可能である。現代のカメラは,その調整できる範囲がかなり広がっていたり,自動的に調整できるようになっていたりするなど,Ikonta 520/2にくらべると大幅な進化を遂げている。しかし,Ikonta 520/2でも,きちんとした写真を撮るための最低限の機能をもっているのである。この点は,友人も強く主張されていたことである。
 この点は,昨年にリコーフレックスIIIについて語り合ったときと,同じことである(2015年5月10日の日記を参照)。Ikontaも,後の時代に多くの派生機種をうみ出して発展し,また,ほかのメーカーから似たような機種が発売されるなど,大きな影響を与えてきた。
 だからこそ,初代Ikonta 520/2は美しく見える。かつ,初代Ikonta 520/2はカメラの歴史を語る上において重要な存在だ,と主張しておきたい。


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