撮影日記


2015年09月12日(土) 天気:曇一時小雨

まずは「クラデジ」を使ってみよう

一昨日の日記では,古いディジタルカメラを「クラデジ」とよんで楽しんでみよう,ということを提案した。そして,「クラデジ」の定義をどうするか,「クラデジ」とよべそうなものはどんな機種になるのかを考えてみた。その考えにならうと,私の手元にある「クラデジ」とよべそうなディジタルカメラは,この2機種になる。

FUJI CLIP-IT DS-10S skeleton model
 1997年5月に発売されたFUJI「CLIP-IT DS-10」の限定モデルである。撮像素子は35万画素の正方画素原色フィルターCCD(*1)で,記録メディアはスマートメディアを使用する。露出は絞り優先AEとなっており,絞りは2段階で切りかえられるようになっている。また,ピント調整は不要(固定焦点)である。電源は,単3型乾電池2本を使用する。
 これは「CLIP-IT DS-10」をベースに,シースルーの筐体を用いたモデルで,限定3000台の予定で発売された(*2)。スケルトンボディの「おしゃれ感」を演出するための,本体に貼るシールや専用ポーチなどのオプションも用意されていた。

FUJI CLIP-IT DS-10S

TOSHIBA Allegretto PDR-2
 1997年8月に発売されたモデルで,撮像素子は省電力のためにCCDではなく33万画素CMOSセンサを使用(*3)し,記録メディアはスマートメディアとなっている。撮影レンズは4.9mm F2.8のもので,露出は自動的に調整される。絞りが何段階に制御されるかは示されていないようだが,シャッター速度は1/8秒〜1/1000秒の間に制御される。また,ピント調整は不要(固定焦点)である。電源は,CR123Aリチウム電池1本を使用する。

TOSHIBA Allegretto PDR-2

どちらも,35万画素クラスのディジタルカメラで,露出は自動調整されるものの,ピント調整はできないようになっている。このスペックだけを見ると,まず画質は期待できそうにない。
 実際,どれくらいの画質になるのか,とりあえず撮ってみよう。

FUJI CLIP-IT DS-10S
TOSHIBA Allegretto PDR-2

どちらもパッと見た瞬間,評価をする気も失せるような画像である。いまひとつはっきりしない空模様で,やや逆光気味に撮っているなど,そもそもきれいな画像になりそうもない条件であるが,それにしてもきれいではない画像だ。
 そうは言ってもこれら2つの画像を比較すると,CLIP-IT DS-10Sのほうはややハイキー気味で,自然な色合いになっているように感じられる。看板の文字が判別しにくいが,見た目の印象は悪くない。いっぽう,Allegretto PDR-2のほうは,低い解像度を補うために,無理にコントラストを強めているのではないか,という印象を受ける。看板の大きな文字はなんとか判別できそうであるが,斜めの直線がギザギザになっていたり,どちらかというと白っぽい部分(電車の屋根上にある通風機など)に,不自然な色が見えたりする。
 この差は,カメラ内部での画像処理をどうするかという方針の違いに由来するものと思われるが,誤解を恐れず勝手な解釈を加えるならば,フジは写真としての美しさを少しでも表現しようとしたのに対し,東芝は写真としての美しさを犠牲にしてでもはっきりした画像をつくろうとした,ということになるのではないだろうか。フジはあくまでも「写真屋さんである」のに対し,東芝は「写真屋さんではない」と表現するのはどうだろうか。

じつはこの画像を比較するまでもなく,私はCLIP-IT DS-10Sに「フジは写真屋さんである」という姿勢を感じ,Allegretto PDR-2に「東芝は写真屋さんではない」という姿勢を感じていた。それは,それぞれのカメラの底部の違いである。

FUJI CLIP-IT DS-10S
TOSHIBA Allegretto PDR-2

気がついていただけただろうか,TOSHIBA Allegretto PDR-2には,たいていのカメラというものについている「アレ」がないのである。
 100円ショップ「ダイソー」で売られていた「おもちゃのカメラくん」にも,「アレ」はついている(2005年9月15日の日記を参照)。Lomography「SPINNER 360°」や「Diana+」などにも,もちろん「アレ」はある。「アレ」があるものは,「トイカメラ」という「カメラ」であり,「アレ」がないものは,あくまで「おもちゃ」であるに相違ない。
 「アレ」とはつまり,三脚に取りつけるための,ネジ穴である。
 三脚のネジ穴があるFUJI CLIP-IT DS-10Sは,あくまでも「カメラ」であろうとしているのに対し,TOSHIBA Allegretto PDR-2は,カメラという名の「パソコンの周辺機器」であろうとしているのではないだろうか。これは,どちらがよいか悪いかというものではなく,製品のコンセプトの差があらわれたものであると理解したい。
 TOSAHIBA Allegretto PDR-2がパソコンの周辺機器だということを強く意識していることは,その特徴的なしくみでよくわかる。

TOSHIBA Allegretto PDR-2

Allegretto PDR-2の裏蓋は,PCカードになっているのである。このままパソコンのPCカードスロットに挿入すると,Allegretto PDR-2自身がリムーバブルディスクとして扱われ,撮影した画像を読み取ることができるのである。これは,とても便利な機能であった。とくに,TOSHIBA Libretto20との組みあわせは,最強である。写真入りの出張報告書に,大いに威力を発揮した(2000年12月29日の日記を参照)。
 この当時のディジタルカメラには,USBやIEEE1394などの接続端子はない。まあ,パソコンの側にもまだ,そういう端子がなかっただろうから,仕方のないことである。このころのディジタルカメラには,パソコンと接続するための端子があったとしても,RS-232Cなどのシリアル端子である。パソコンのシリアル端子はほぼ一定の規格のものになっているが,ディジタルカメラのシリアル端子は通常のものよりもずっと小さな独自のものになっていることが多い。また,シリアル接続の場合,画像データを転送するための専用のソフトウェアが必要になる。発売された当時であれば,いつでも追加で購入できただろうし,そもそもはじめからセットで購入する人が多かっただろう。いまからあえて,「クラデジ」を楽しむためにこの当時のディジタルカメラを購入するならば,画像データの転送方法を確保しておく必要がある。その点,Allegretto PDR-2は都合がよい。PCカードスロットは,まだしばらくはパソコン(とくにノート型パソコン)から完全になくなることはないだろうから,なんとかなりそうである。
 もっとも,FUJI CLIP-IT DS-10SもTOSHIBA Allegretto PDR-2も,記録メディアとしてスマートメディアを使用する。だから,スマートメディアに対応したメモリカードリーダがあれば,撮影した画像の読み出しに困ることはないかもしれない。しかし,スマートメディアには,壊れやすいという印象がある。私の手元にあるスマートメディアも,今では認識されなくなってしまったものが何枚かある。だからできるだけ,スマートメディアを抜き差しせずに済ませたいところだ。

FUJI CLIP-IT DS-10S
TOSHIBA Allegretto PDR-2

固定焦点カメラは,ピントのあう範囲が約1m〜∞とされている場合が多い。本来,ピントというものはある特定の距離のところにしかあわないのだが,実際にはあまり拡大しなければある程度の範囲は「ピントがあっているように見える」ものである。その性質を利用して,ピントの調整を不要としたものなので,すべての範囲にきちんとピントがあっているわけではない。そして,ピントがあう範囲の中心は,おおよそ3mくらいのところに設定されていることが多い。
 さきほどの試し撮りは遠景を中心としたものだったので,こんどは,近景を中心にした試し撮りをしてみよう。

FUJI CLIP-IT DS-10S
TOSHIBA Allegretto PDR-2

さきほどと違って,被写体までの距離があまり遠くないせいか,低画質であることが比較的目立たなくなっている。だからといって,至近距離にある花やチョウにピントがあっているわけではない。
 看板のような,解像力がよくないことが目立つものが写っていないせいか,FUJI CLIP-IT DS-10Sで撮影したものは,写真としてごく自然なものになっているように思う。一方,TOSHIBA Allegretto PDR-2で撮影したものは,どことなく不自然さがあるし,周辺減光も目立っている。
 FUJI CLIP-IT DS-10Sは,35万画素クラスで固定焦点という悪条件ながら,いちおう写真として見られるものにしようという努力が感じられるものだった,というのを今日の結論にしよう。
 なお,FUJI CLIP-IT DS-10SもTOSHIBA Allegretto PDR-2も,どちらも記録される画像の大きさは640ピクセル×480ピクセルである。それぞれ画質を2段階に切り替えることができ(DS-10SはFINEとNORMAL,PDR-2はFとS),どちらも高画質のほうのモード(DS-10SはFINE,PDR-2はF)で撮影した。8MBのスマートメディアを使用した場合,CLIP-IT DS-10Sは90枚(NORMALは124枚),Allegretto PDR-2は96枚(Sは192枚)の撮影が可能である。

FUJI CLIP-IT DS-10S
TOSHIBA Allegretto PDR-2

現在の基準で考えれば,どちらもとてつもなく低性能なディジタルカメラである。だからと言って,その低性能を批判するのが「クラデジ」の楽しみ方ではない。どんな低性能なディジタルカメラであっても,発売当時は各社がなんらかのユーザを想定し,それにあうように工夫をこらした最新の製品だったのである。まず,そのことには,敬意を払わなければならない。そして,その製品が実際にどんな使い方をされていたのだろうかなどを考えてみるのが,おもしろいのである。どんなユーザに対して,どのような使い方が提案され,そして実際にはどのように使われていたのか,そういうことに想像をめぐらせよう。
 そう,それこそが「クラデジ」の楽しみ方ではないだろうか。

*1 フジックス「デジタルカメラ  ”クリップ・イット” DS-10」新発売 (富士フイルム株式会社)
http://www.fujifilm.co.jp/news_r/nrj186.html

*2 富士フイルム デジタルカメラ 累計50万台突破記念 “クリップ・イット”「DS−10S スケルトン・モデル」を限定発売 (富士フイルム株式会社)
http://www.fujifilm.co.jp/news_r/nrj235.html?&_ga=1.21311229.716563802.1420611861#h30101

*3 ポケットサイズのデジタルスチルカメラ「Allegretto(アレグレット)」の発売について (株式会社 東芝)
http://www.toshiba.co.jp/about/press/1997_06/pr_j1601.htm


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