撮影日記


2015年09月10日(木) 天気:晴

古いディジタルカメラへの興味
「クラデジ」は,楽しむことができるだろうか?

古いカメラは「クラシックカメラ」略して「クラカメ」とよばれ,クラシックカメラに特化した愛好家も多い。
 それと同様に,古いディジタルカメラを「クラデジ」とよんで楽しむことを提案したい。

ところで,「クラシックカメラ」とはなにか?簡単に一言で済ませるならば,「古いカメラ」である。ただし,「古い」というものに対する感覚は,人によってそれぞれ異なる。30年前のカメラを例に考えると,20歳の人ならば「自分が生まれるよりも前の古いカメラ」だと思うだろうが,80歳の人ならば「それまでに使っていたカメラよりも改良された画期的な新製品」だという認識をひきずっているかもしれない。そのため「クラシックカメラ」としての,共通する定義のようなものが必要になる。単に「古いカメラ」では不適当であり,たとえば「30年以上前の古いカメラ」のようにどれくらい古ければよいのかという表現を使うか,あるいは「1970年より前に発売されたカメラ」のようにある特定の年代を基準に表現するか,どちらにしてもなんらかの「年数」という数値で示したい。業界できちんと定義しているならばそれにしたがえばよいのだが,残念ながら私はそういう定義を聞いたことがない。
 「classic」を辞書で調べると,「古典的」という意味が見つかる。そのことから考えると,「30年以上前」という方法では,今日ならば基準としてちょうどよくても30年後には通用しなくなる。だから,「今から何年前」という表現よりは,「西暦何年よりも前」という表現のほうが「クラシックカメラ」というものをあらわしやすい。では具体的に,西暦何年あたりを基準にするのだよいだろうか。そもそも「古典的」という表現も,あいまいだ。人によって,どのようなカメラであれば「古典的」とよばれるだろうか。思うに,いわゆる電子化が進展していないものを「クラシックカメラ」とよぶのであれば,あまり反対する人もいないであろう。おおむね,1950年代までのカメラを「クラシックカメラ」とよぶようにするのが,無難だと思われる。
 なお,個人的には「ニコンF」を,「クラシックカメラ」か「現代のカメラ」かの境界線上にあるカメラだと考えることにしている。ということで,1959年までに発売されたカメラを「クラシックカメラ」とよぶことにしようと思う。なお,似たような言葉として「アンチックカメラ」「アンティークカメラ」というものを聞くこともある。「antique」を辞書で調べると「骨董」という意味があることがわかる。「クラシックカメラ」は単に古いカメラということでよいのだが,「アンティークカメラ」は古くて価値の出てきたカメラということになる。大正時代より前,明治時代以前あるいは19世紀以前のカメラであれば,ほぼ「アンティークカメラ」とよんでもよさそうだが,どうだろう?

ダゲールによる写真技法が発表されたのは,1839年のことである(2010年9月5日の日記を参照)。「カメラ」はそれ以前から「カメラ・オブスクラ」という形で存在していたわけだから,カメラの歴史は数百年にわたる。現在,カメラや写真技法は,ディジタルカメラという形に発展,変化してきた。ディジタルカメラに限定すると,その歴史はごく短いものになる。最初に商品化されたディジタルカメラは,1988年のフジ「FUJIX DS-1P」とされている(*1)。ディジタル記録ではなくアナログ記録になるが,電気信号として画像を記録する「スチルビデオ」とよばれた製品を含めても,1981年にソニーの「マビカ試作機」が実際に報道で使われた(*2)くらいまでしか,時代をさかのぼれない。わずか,30年少々の歴史なのである。
 年数としては短いものであるが,その間の変化は大きかったように思う。はじめのころは,一般のユーザには扱いにくいもので,きわめて高価であり,その苦労のわりには得られる画像の品質はさほどのものではなかった。いつしか,扱いやすいものになり,価格も下がり,フィルムを使ったカメラのかわりになるくらいの品質の画像が得られるようになっている。そうして一般的になるより以前のディジタルカメラは,現在,それを使っている人を見かけることがほとんどない。フィルムを使ったカメラよりも,見かけない。中古カメラの市場に流通しているのも,ほとんど見かけない。そういった時代のカメラを「古典的な」ディジタルカメラとして眺めてみるのも,おもしろいのではないだろうか。

そこで,初期のディジタルカメラや,スチルビデオカメラを含んだ電子カメラをまとめて,「クラデジ」とよぶことを,ここに提案したい。「クラデジ」は,「クラシック」な「ディジタルカメラ」の意味だが,せいぜい30年くらいしか経っていない製品を「クラシック」とよぶのも大げさな感じがするので,「クラシックディジタルカメラ」ではなくあくまで「クラデジ」とよぶことにしたいと思う。

では,「クラデジ」とそれ以後の現代的なディジタルカメラとの境界は,どこにおくのがよいだろうか?
 先にもふれたが,「扱いにくい」「高価である」「画像の品質が物足りない」という3つの問題点が解消されたところを,その境界にしたいと思う。
 まずは,なぜ初期の電子カメラが扱いにくいものだったのか。扱いにくさの1つは,撮影した画像を見る方法にある。「スチルビデオ」とよばれる製品では,撮影した画像を見るにはテレビに接続することが前提になっていた。カメラ本体には再生機能がなく,撮影した画像を見るためにはカメラ以外のプレーヤを使ったり,オプション品を接続したりする必要があった製品もある。この扱いにくさを解消したのは,液晶ディスプレイを内蔵したことにあるのは間違いない。  別の扱いにくさとしては,撮影した画像の利用方法にある。テレビに映して楽しむだけでは,物足りないのではないだろうか。撮影した画像の保管には,専用のメモリカードや小型の2インチフロッピーディスクなどが使われたが,これらも決して安価なものではない。プリントのインフラも,整っていない。
 「スチルビデオ」の価格は次第に下がっていったが,それでもムービーのビデオカメラにくらべてそんなに安価なものではない。機能の充実さを考えれば,ムービーのビデオカメラのほうがはるかにお買得に感じられたことだろう。
 これら「扱いにくい」「高価である」の問題を解消した機種を,1995年に65,000円で発売されたカシオ「QV-10」だとみなすことに,異論をはさむ人はいないものと思う。CASIO QV-10は,本体に液晶ディスプレイを内蔵し,撮影した画像をすぐに見られるようになった。撮影した画像はパソコンに転送することができていろいろ利用できるようになった。電源が,単3型乾電池だけであったことも,扱いやすい要因の1つだ。65,000円という価格は,当時としては画期的な低価格である。たとえば日本カメラショー「カメラ総合カタログ」に掲載されていたものでも,1988年に発売されたキヤノン「Q-pic」というスチルビデオカメラは本体だけで99,800円である。1993年に発売されたフジ「FUJIX DS-200 (DIJE)」は本体だけで220,000円であり,使うには高価なメモリカードやパソコンへデータを転送する装置が必要であった。

残念ながら,CASIO QV-10の画質は「まだまだ」というものだった。
 画質を考えるときにいちばんわかりやすいものは,記録される画素数である。画像は色のついた小さな点(画素)が集まってできており,1つの画像をつくる点の数が多ければ多いほど,細かいところまで表現できることになる。一般に,200ppiから300ppi(ppiは1インチの長さにいくつの画素があるかをあらわす値)あれば,なめらかな画像に見えるようだ。200ppiでL判(89mm×127mm)に出力するならば約70万画素が必要になり,300ppiでハガキサイズ(100mm×150mm)に出力するならば約200万画素が必要になる。これを基準に考えると最低限,100万画素はほしいということになる。一般向けとして発売されたディジタルカメラでは,1997年に128,000円で発売されたオリンパス「C-1400L」(*3)や1998年に84,800円で発売されたオリンパス「C-840L」(*4)あたりから,100万画素をこえる画像を扱える製品が登場したようだ。業務向けとして発売されたディジタルカメラとしては,1991年のコダック「DCS100」や1995年のニコン「E2」/フジ「DS-505」などがすでに130万画素の画像を扱っている。ただしその本体価格は,100万円単位のものである(2015年9月7日の日記も参照)。
 そこで,「画質が物足りない」という問題を解消した機種は,1997年のOLYMPUS C-1400Lということにしたい。

以上のことから考えると,「1995年のCASIO QV-10よりも前の機種」(CASIO QV-10を含まない)こそが真の「クラデジ」ということになる。しかしそれでは,流通する量があまりに少なく,スペックもあまりに低く,さらに扱いにくいので,楽しめる機会がとても少ないものになってしまう。そこで対象を広げ,おおむね「1997年のOLYMPUS C-1400Lよりも前の機種」(OLYMPUS C-1400Lを含まない)というのを目安に,「こんなのもクラデジかな?」などと考えながら収集してみるのがちょうどお手頃に楽しめると思うが,どうだろう?
 重ねて書くが,まだあえて「クラシックディジタルカメラ」とはよばない。あくまでも,「クラデジ」とよぶ。
 「クラデジ」を集め,実際に動かしてみる。そんな遊び方は,実際にどれくらい楽しめるものだろうか?
 ぜひ,みなさんにもチャレンジしていただきたい♪

なお,私の手元で「クラデジ」とよべそうなものは,これくらいしかない。先に書いた定義にしたがえば,OLYMPUS C-1400Lは「クラデジ」には含まないのだが,さびしいのでいっしょに並べておいた(笑)。

*1 世界初/国産初の技術 (富士フイルム株式会社)
http://www.fujifilm.co.jp/corporate/jobs/technology/first/

*2 商品のあゆみ−デジタルカメラ (ソニー株式会社)
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/sonyhistory-g.html

*3 超高画質一眼レフデジタルカメラ「CAMEDIA C-1400L/C-1000L」専用プリンタ「CAMEDIA P-300」により写真画質プリントを遂に実現 (オリンパス株式会社)
http://www.olympus.co.jp/jp/news/1997b/nr970917c1400lj.jsp

*4 コンパクトタイプ初のメガピクセル機「CAMEDIA C-840L」 (オリンパス株式会社)
http://www.olympus.co.jp/jp/news/1998a/nr980317c840lj.jsp


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