撮影日記


2014年11月15日(土) 天気:晴

小板川の謎

三段峡は,広島県内における紅葉の名所の1つである。三段峡にはほぼ毎年,紅葉を撮影するために訪れるようにしているが,これまでの経験上は,11月3日ころが紅葉を見るにも撮るにも好都合な状況であることが多いように感じている。しかしながら今年の11月3日は,その前日に大井川鉄道を訪れこともあって(2014年11月2日の日記を参照),三段峡を訪れることはできず,その翌週にも所用あってやはり三段峡を訪れることはできなかった。
 今日になってようやく三段峡を訪れる時間を確保することができたのだが,三段滝周囲の紅葉は,やはり撮りごろをとうに過ぎていたようだ。

携帯電話機(P-01D)で撮影

いつも11月3日ころにはきれいな紅葉を見せてくれる木々も,すっかり葉を落としている。とはいえ三段峡全体で見れば,まだまだ美しく紅葉した木は残っているし,全体に葉が落ちてしまった分だけ,見晴らしがよくなっているという面もある。

携帯電話機(P-01D)で撮影

だからまだ,三段峡を訪れる人は少なくない。
 三段滝でカメラをセットしようとすると,ハイキングのグループらしき集団が到着し,記念写真を撮りはじめた。今日,三段滝まで運んだカメラは,Mamiya Universal Press一式である。組立暗箱などの大判カメラにくらべればはるかに扱いやすいカメラであるが,さっと取り出し,ささっと撮影できるという代物ではない。「プレス」カメラの名前を活かすように,内蔵された距離計を利用して撮影すれば,いわゆる速写性も高まる。だがこういう場面では,大判カメラの代用として,構図やピントをきちんと整えて撮りたいのである。レンズをつけ,ケーブルレリーズをつけ,三脚に据え付けて,ピントグラスを覗く。いやその前に,三脚を据え付けねばならぬ。そして構図を確認し,露出を計り,ピントグラスをフィルムホルダに付け替えて,撮影準備が整うのである。
 それを見計らったかのように(笑),さきほどの集団から声がかかる。

「すみません,シャッター押してもらえますか?」

ここで「シャッターは薄い幕だから,そこを押すと壊れちゃうよ」などと,野暮なことを言ってはいけない。いや,そんなことを考えてもいけない。もちろん,二つ返事で快諾する。
 さて,受け取ったカメラは,メーカー等は失念したが,一眼レフカメラ風のスタイルをもった,ズームレンズ固定式のディジタルカメラである。カメラを受け取って,では撮ってあげましょうと思ったものの,ん?なんか,おかしいぞ。それを察したのかカメラの持ち主らしき人から,「シャッター押すだけでいいようになってますから」と声がかかる。うん,まあそういうカメラだろうが,これは。でも,明らかにおかしい。

「これ,バッテリーが切れてるみたいですよ。」

カメラの持ち主らしき人が飛んできて,あわてて確認する。たしかに,バッテリー切れらしい。「ついさっきまで,撮れてたのに(^^; すぐにバッテリー替えますから。」とゴソゴソはじめる。別の人が,「すみません,これで撮ってもらえますか?」
 こんどは,(これまたメーカー等を失念したが)ふつうのコンパクトディジタルカメラである。だが,ズームを調整しようとすると,本来あってほしい場所に,それを選択するレバーがない。なんとか見つけてようやく何コマか撮影するが,慣れないディジタルカメラは,なんともまあ使いにくい。
 さきほどのディジタルカメラのバッテリーは交換できたようだが,「早く行きましょう」ということで,そちらでの撮影は「なし」となった。さいごに,お約束として「飴ちゃん」をいくつかいただく。いつも心に,棚を持て。いつもカバンに,飴を持て。私も,飴ちゃんをいつも用意しておくようにしよう。

三段峡における目立つ淵や滝などには,いろいろな名称が与えられている。それぞれの場所に名称を示したプレートがあるのだが,三段滝から餅ノ木までのあいだでは,それらが劣化して目立たなくなっているところも多い。

携帯電話機(P-01D)で撮影

三段滝から餅ノ木までの区間は,もっとも下流側の柴木から黒淵までの区間や,マイクロバスの便がある葭ヶ原から三段滝までの区間にくらべれば,訪れる人が少ないと感じる。そのため,プレートのメンテナンスが,後回しになっているのかもしれない。まあ,しかたのないことだろう。

三段峡は,史蹟名勝天然紀念物保存法によって名勝指定されている。その範囲は,柴木川の長淵から樽床ダムまでと,支流の1つである横川川が田代川と合流する地点(田代出合)までとなっている。餅ノ木の集落からさらに上流に,出合滝と名づけられた滝を見ることができる。これは,国道191号線沿いの小板という集落付近から流れてきている川が,柴木川に落ちて流れこむところにできた滝である。国土地理院の1:25,000地形図には,その川の名前は記載されていないが,このあたりについて書かれた書籍では「小板川」と呼ばれている。
 たとえば,広島県内にある88ヶ所の滝を調査し,分析し,記録した,「広島県の滝」(広島県林務部編,1985年)では,出合滝について次のように書かれている。

出合滝は,三段峡を流れている柴木川と,小板から流れている小板川の出合いで,小板川側にかかっている滝である。

また,三段峡を広く知らしめたとされる熊南峰氏の活動を中心に,三段峡についてまとめられた,「源流」(中国山地振興の会,1985年)では,出合滝について次のように書かれている。

この滝は,支流・小板川の末端が懸崖となり,そこにかかって水は八幡川と合流する。

「広島県の滝」では,樽床ダムまでずっと「柴木川」と呼んでいるのに対し,「源流」では葭ヶ原から上流を八幡川と呼んでいるので,記述内容が異なっているように見えるが,どちらにせよ出合滝で三段峡の本流に流れこむ川を「小板川」と呼んでいることには変わりはない。また,「広島県 地学のガイド」(広島県地学のガイド編集委員会,1979年)では,「広島県の滝」と同様に,「八幡川」を区別せずに扱っている。出合滝にも触れているが,小板川の名前には触れていない。

小板川に沿っては,餅ノ木を経て恐羅漢へ至る大規模林道が通っている。今朝は,ここを通って三段滝へ向かったのだが,通るクルマに存在を訴えかけているかのような標識が立っているのに気がついた。

Nikon D70, AF-S VR Zoom-NIKKOR 24-120mm F3.5-5.6G IF-ED

昨年までは,このような標識はなかったように思うのだが,見落としていたのだろうか?。
 注意してみると,川に見られる大岩や淵,滝などに与えられた名称を示す標識がところどころに立っている。

Nikon D70, AF-S VR Zoom-NIKKOR 24-120mm F3.5-5.6G IF-ED

どの標識も,あまり汚れていないように見えるので,設置されてからあまり日数は経過していないものと思われる。板に書かれた文字は,パソコンを利用してプリンタで出力したもののように見える。小奇麗ではあるが,周囲の風景になじまない感じがするというか,はっきり言って違和感がある。批判を恐れず言えば,目立ちすぎで悪趣味にも感じられる。
 違和感の理由は,その見た目だけではない。「小板岩川渓谷」という,その名称にもある。先にも書いたように,この川を「小板川」と呼んでいる書籍があるわけだが,地形図などには名称が載っていない。「小板川」というのは通称であり,正式には「小板岩川」だったのだろうか?逆に,正式には「小板川」であり,あらためて「小板岩川」という通称を与えたのであろうか?どちらかと言えば,ちょっとした観光スポットとして注目されるように,雰囲気のありそうな「小板岩川」という名称を適当に創作したのかなという気がする。
 また,川の中に与えられた名称が,三段峡内に与えられた名称とうまく被らないようになっていたり,「天神の岩」など縁起のよさそうな名称が与えられたりしている点からは,以前からそう呼ばれていたのではなく,これらが最近になって与えられた名称なのかなという印象を受けてしまう。
 さて,実際はどうなのだろうか。まさに「小板川の謎」である。

 

ところで,「三筋滝」という名称が与えられている滝が少し気になる存在だ。

Nikon D70, AF-S VR Zoom-NIKKOR 24-120mm F3.5-5.6G IF-ED

道路から川に降りていく道が見当たらないので,滝の正面へ出るには斜面を滑り落ちていくしかない。滝を正面から見ると,コンクリートで固められた斜面と大規模林道のガードレールが見えるのがかなり残念ではある。しかしここは上が開けていて明るいので,もう少し紅葉がきれいなタイミングで訪れれば,いい雰囲気の写真が撮れそうである。
 謎は謎で抱えたまま,来年以降も注目していきたい場所である。

Nikon D70, AF-S VR Zoom-NIKKOR 24-120mm F3.5-5.6G IF-ED

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