撮影日記


2014年6月9日(月) 天気:曇ときどき晴

写真「フォーマット」の表記には
きちんと「判」をつけよう

日本人にとって,英語における「L」と「R」の発音を聞き分けるのは難しい,とはよく言われることである。「ラックス スーパーリッチ」というシャンプーおよびコンディショナーのテレビCMが,「L」と「R」の区別を理解するのによい教材だというネタを聞いたことがあるが,それはなるほどと思う。「L」と「R」とを間違えると,意味がまったくかわってくるのだから,きちんと慣れておきたいところだ。たとえばカタカナだと同じ「ライト」でも,「light」は「光」あるいは「軽い」だが,「right」は「正しい」あるいは「右」だ。これくらいならまだ実害は少ないかもしれないが,「rice」を「lice」と発音してしまうと,「米」を食べたいのに「シラミ」を食べさせられて,たいへんなことになる。
 今日,6月9日は「ロックの日」らしい。「6」だけでもじゅうぶんに「ロック」なのだが,「6」と「9」とで「ロック」と読ませたいようだ。カタカナで書くと「ロック」でも,「lock」は「鍵」だし,「rock」は「岩」だ。「rock」には,音楽のロックもある。写真の「6×9判」は「ロック」とは読まないので,「ロックの日」の仲間にはいれてもらえそうにない。6月9日は「中判写真週間」の最終日だから,写真がほんとうに好きな人には,今日が「6×9判の日」であり「中判写真週間」の最終日であることを,「ロックの日」に惑わされずに強く意識しておいていただきたい。
 ところで「6×9判の日」を略して「69の日」としてWebを検索すると,音楽の「ロックの日」を主張するWebページなどが見つかり,「中判写真週間」に関係するWebページはなかなかみつからない。「6×9判」は「ロクキュー」と読むことが多いからといって「69の日」と略した表記をしていたら,「ロックの日」に埋もれてしまう。ツイッターの検索では,もっと条件が厳しい。「6×9の日」でも,「ロックの日」ばかりが見つかるのだ。
 写真がほんとうに好きな人は,「69の日」や「6×9の日」などの略した表記ではなく,フォーマットを語るときはきちんと「判」をつけて,「6×9判の日」と表記するべきである。あるいは,「ロクキュウの日」や「ブローニー判の日」など,「ロックの日」とはっきり区別できる表記を使いたいものだ。

ともあれ,今日は6×9判のカメラを使わねばならぬと自分に言い聞かせ,空き時間にささっと撮れるよう,No.1 Pocket KODAK Juniorをカバンに入れておいた。この種のフォールディングカメラは,たたむと携帯しやすくなるので,好都合である。

カバンに入れる

「ポケットコダック」のシリーズは,レンズやシャッター,ピント調整の有無,フィルムのサイズなど,とても種類が多い。120フィルムを使えるタイプのものならば,いまでもじゅうぶんに実用になる。ただしNo.1 Pocket KODAK Juniorは,絞りの調整はできるものの,ピントは固定でシャッターも1速だけ。レンズは無銘で,たぶん1枚玉か2枚貼りあわせのものだろう。性能的には「写ルンです」が6×9判になったもの,そう考えてもいいかもしれない(2009年6月19日の日記を参照)。

電車
No.1 Pocket KODAK Junior, NEOPAN 100 ACROS

ほら,ちゃんと写るのだ。
 「写ルンです」をなめてはいけない。条件がよければ,驚くほどきれいに写ることは,よく知っているはずだ。だからNo.1 Pocket KODAK Juniorも,条件がよいときは,あくまでも写るんです。悪魔は写らないけど。いや,「悪魔でも写ルンです」という広告があったな(笑)。
 No.1 Pocket KODAK Juniorはフィルムサイズが大きいので,引き伸ばさなくてもじゅうぶんに見られるサイズの写真になる。6×9判というと,プリントで言えば「名刺判(6cm×8.3cm)」とほぼ同じである。DPE店における「同時プリント」などの「サービスサイズ」は,いまでこそ「L判(8.9cm×12.7cm)」(さらには「ハガキ判(10cm×15cm)」)が一般的だが,30年くらい前までは一回り小さな「E判(8.3cm×11.7cm)」が一般的で,さらに以前は「F判(7.5cm×10.5cm)」や「名刺判」が使われていたのだ。なお,このように写真フォーマットのことを書くときには,きちんと「判」をつけて「L判」「E判」と表記するほうがわかりやすいことが,ご理解いただけるだろう。
 ともかく。原版が6×9判というのは,無理に引き伸ばす必要がない,ということである。つまりNo.1 Pocket KODAK Juniorは,ライカ判(あるいはAPS-Cサイズ)のネガから引き伸ばさなければならない「写ルンです」より,画質的に有利である。

椅子
No.1 Pocket KODAK Junior, NEOPAN 100 ACROS

惜しいのは,ファインダーがどうしようもないこと。「だいたいこのへんが,写る範囲の中心ですよ」という目安にしかならない。暗くなると「T」(タイム露出)で撮らなければならなくなるから,日が沈むまで,あまり細かい構図にはこだわらずパシャパシャ撮り歩こう。「写ルンです」とは違って,悪魔は写らないだろうか?機会があれば,たしかめてみたいものだ(笑)。だが,「写ルンです」だとどちらかというと近景の描写がよくなるように調整されていると感じるが,No.1 Pocket KODAK Juniorは遠景のほうがきれいに写るようだ。いや,きれいに写るのは近景のようだが,ピントの位置がやや遠いように感じるのである。ということで写ることは写るかもしれないが,悪魔さんを撮る用途には,適していなさそうである。

夕方
No.1 Pocket KODAK Junior, NEOPAN 100 ACROS

ともかく,こんなにお気軽に6×9判の写真を撮れるカメラは,貴重な存在である。

ここでは「6×9判」と書いたが,黙読するときにはこれを「ロクカケルキューバン」と読まなくてもよい。すなおに,「ロクキューバン」あるいは「ロクキュー」と読んでいただきたい。では,「ロクキュー」という読みにあわせて表記を「69」だけにするとどうなるか,ちょっと比較してみよう。

1 お気軽に6×9判の写真を撮れるカメラは,貴重な存在である。

2 お気軽に69の写真を撮れるカメラは,貴重な存在である。

2のように「69」だけだと,パッと見になんのことかわかりにくいのではないだろうか。文章の前後関係から,写真のフォーマットのことであり「ロクキュー」と読めばよいのだろうとわかるかもしれない。わかるが,こういう文章は,親切ではないと私は考える。また,ほかの読み方がある可能性のある表記は,できるだけ避けるのがよいだろう。たとえば2の「69」を,「ロクキュー」ではなく1文字ずつ英語で読むと,意味が変わってくる。お気軽にそういう写真を撮れるカメラは,たしかに貴重な存在だろう。なお,「69」を1文字ずつ英語で読んだ単語について,「それなあに?」という人は,辞書でもなんでも調べればよろし。「ワタシ,子どもだから,わかんなぁい。教えてぇ〜」という人は,夜ふかししないで早く眠ったほうがよい。おやすみなさい。

「ロクキューバン」については,ほかに「6cm×9cm判」という表記や「6×9cm判」という表記も考えられる。
 「6cm×9cm判」という表記だと,より正確になる。しかし,文字数が多くなって読みにくくなりそうだし,なまじ正確な表記だからかえって「厳密には6cm×9cmではない」というツッコミンを誘発する恐れもある。
 「6×9cm判」という表記を見ることもあるが,これは「cm」が「9」だけにしか掛かっていないように見えて,気持ち悪い。こういう表記を使う人は,「6×9判」がcm単位であることを教えたいという意図をもっているのだろうか。であれば,シノゴについては「4×5インチ判」,バイテンについては「8×10インチ判」と表記しているのだろう。個人的には,使いたくない表記だ。

井戸
No.1 Pocket KODAK Junior, NEOPAN 100 ACROS

私は「6×9判」という表記を使うようにする。そして,これを「ロクキューバン」と読んでいただきたい。ということを,結論としたい。


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