撮影日記


2014年6月5日(木) 天気:雨

雨の横川をセミ・ネッターで撮り歩く

クラシックカメラに興味のある方なら,東ドイツのIhageeから発売された「Exakta」という一眼レフカメラをご存じだろう。現代の一眼レフカメラという形式のもとになったカメラとされており,多数の交換レンズ,プリズムファインダーや露出計を内蔵したファインダーなども利用できた。撮影レンズを通した像を見て撮影できるという一眼レフカメラの特徴を大いに生かせるわけで,一眼レフではないLeicaやContaxでは難しい接写や超望遠レンズでの撮影など,幅広い領域に対応できるカメラだったのである。そんな「Exakta」を実際に使ったことがない方でも,左手でシャッターレリーズボタンを押すようになっている,ちょっと変わったカメラであるということは聞いたことがあると思う。ほかにもいろいろと特徴はあげられるのだが,左手でシャッターレリーズボタンを押すようになっているというのは,「Exakta」独特のものとして語られているのではないだろうか。
 1980年代後半から1990年ころにかけて京セラが発売したカメラに,「SAMURAI」というハーフサイズカメラがあることを覚えておられるだろうか。ハーフサイズカメラは,「オリンパス ペン」や「リコー オートハーフ」が大ヒットした1960年代にブームとなり,いろいろなメーカーから多数のハーフサイズカメラが発売された。ハーフサイズは,1本のフィルムで2倍の枚数を撮れるので経済的であり,カメラも小型になるというメリットがある。1970年代に入るとハーフサイズカメラのブームは下火になり,やがてカタログから姿を消す。京セラ「SAMURAI」は1980年代後半に,ふたたびハーフサイズカメラのブームを呼び起こしたのである。京セラ「SAMURAI」は独特の縦型ボディで,まさに片手でも撮影しやすいようになっていた。その後期の機種である「SAMURAI Z」「SAMURAI Z2」には,「左利き対応」として通常のモデルと左右対称になったモデルが用意されていたこともある。
 つまり,左手でシャッターレリーズボタンを押すようになっているカメラは,ちょっとかわった存在と見られているようだ。では,ほかに左手でシャッターレリーズボタンを押すようになっているカメラは存在しないというのだろうか?いや,そんなことはない。たとえば,マミヤプレスを見よ。シャッターレリーズボタンを内蔵したグリップは,左手側に取り付けるようになっているのだ。

さて,左手でシャッターレリーズボタンを押すようになっていることには,どんなメリットがあるのだろうか?
 京セラ「SAMURAI Z」では「左利き用」としていたようだが,鉛筆やお箸を使うとき,あるいはボールを投げるときのように,シャッターレリーズボタンを押すことに利き手が大きく影響するものだろうか?カメラを使うとき,たいていは両手で持ち,右手はシャッターレリーズボタンを担当し,左手はピントリングやズームリングを担当する,ということもよくあるのではないか?シャッターレリーズボタンを押す動作よりも,ピントを合わせる動作のような細かい作業こそ利き手に担当させるほうがよいのではないか?私は右利きだが,左手でシャッターレリーズボタンを押す「Exakta」などで「いつもと違う」という違和感をもったことはあっても,「利き手じゃないからシャッターレリーズが難しい」と感じたことはない。
 「Exakta」が左手でシャッターレリーズボタンを押すようになっていることの理由として,顕微鏡につないで撮影するときに,ウエストレベルファインダーを自分の方に向けるとシャッターレリーズボタンが右手側になるからだ,という説を聞いたことがある。ただし,それがほんとうのことかどうかは知らない。

ということで今のところ,シャッターレリーズボタンを左手で押せるようになっているメリットとしては,「自分の右手を撮影できる」ということくらいしか思いつかない(笑)。

ZEISS IKON NETTAR (515), Nettar-Anastigmat 7.5cm F6.3, NEOPAN 100 ACROS

雨の中,ポストに封筒を投函している状況を撮ったものである。このとき,首と肩とで傘をはさみ,左手でシャッターレリーズボタンを押している。最短撮影距離にセットしているが,右手をけっこう伸ばしたつもりだが伸ばしたりないようだ。
 使ったカメラは,ツァイス・イコンの廉価版スプリングカメラ「ネッター」である。この「ネッター」は画面サイズが6cm×4.5cmのセミ判なので「セミ・ネッター」ともよばれるものだ。今日は,「中判写真週間」のうちの「セミ判の日」なので,このカメラに登場してもらうことにしたのである。

今年の「中判写真週間」は,いきなりの雨である。昨日も雨で,今日も雨。しかし「中判写真週間」だから,中判カメラで写真を撮らなければならない。雨ニモ負ケズ,だ。幸い,風は強くない。
 しかし,雲は厚く,昼間でもあまり明るくない。スタデラ(SEKONIC STUDIO DELUXE L-398)の針は,「20」くらいを示す。1/60秒でF5.6だ。「セミ・ネッター」はツァイス・イコンのカメラであるが,廉価版のためにSonnarやTessarといった「高級」レンズや,Compurといった「高級」シャッターはおごられていない。Nettar-Anastigmat 7.5cm F6.3というレンズに,シャッターも1/25,1/50,1/100秒だけのもの。傘をさしての撮影となるので,1/25秒ではブレてしまいそうだ。1/50秒,開放F6.3で撮るしかない。

ZEISS IKON NETTAR (515), Nettar-Anastigmat 7.5cm F6.3, NEOPAN 100 ACROS

せっかくの雨だから,雨の日らしいしっとりした風景を求めるが,なかなか都合よくはみつからない。雨上がり直後ならば,水たまりに写る建物や空などが撮れるだろうが,わりと激しく降っている状態なので水面が乱れ,きれいな反射が見られない。それならば,傘をさした人の群れなど撮りたいところだが,雨が激しいせいか,人通りも少ない。ちょっとさびしい,雨の横川界隈であった。

ZEISS IKON NETTAR (515), Nettar-Anastigmat 7.5cm F6.3, NEOPAN 100 ACROS

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