撮影日記


2014年4月18日(金) 天気:くもり

大口径レンズ(40o F1.9)搭載
キヤノン・オートボーイ スーパー(AF35ML)を見直そう

カメラに求められる性能は,写真をきれいに写せることがたいせつだ。しかし,カメラというものは,きれいに写ればよいというだけでは物足りない。「使い心地」というものも,無視できないのである。

富士フイルムが「KLASSE」シリーズの製造・販売を終了するようだ,という情報が出回っている。そうなると,富士フイルムはすべての35mm判カメラの製造・販売を終了することになる。すでに一部のトイカメラを除けば,35mm判のコンパクトカメラは販売されておらず,「KLASSE」シリーズの終了は,35o判コンパクトカメラの終了ということにもなる。いまだ「生産終了」がアナウンスされていない35mm判カメラは,ニコンから発売されている一眼レフカメラ「F6」「FM10」くらいしか残らないことになるようだ。
 一眼レフカメラは,職業として写真を撮影する「プロ」や趣味として写真撮影を楽しむ「マニア」,あるいは写真のことを勉強しようとする「初心者」などが使うカメラであった。とくに「F6」は,「プロ」や「マニア」を満足させるべく,使い心地や動作音まで高い性能を追求したとのこと。ニコンの「F6」と「FM10」によって,先のユーザ層はなんとかカバーしていることになると思う。いっぽう,単にちょっと写真を撮りたいだけという層のユーザが使っていたカメラは,コンパクトカメラとよばれるものであった。いまそういうユーザ層は,コンパクトディジタルカメラを使うようになり,さらには携帯電話機のディジタルカメラ機能を使うようになっていると思われる。コンパクトカメラは,その役割を終えたのかもしれない。時代の流れではあるものの,さびしいものがある。

そんな今日このごろ,往年のコンパクトカメラを見直したくなった。コンパクトカメラを最後まで供給しつづけたのは富士フイルムになったわけだが,それまではキヤノンやペンタックスもかなりがんばって供給してくれていた。とくにキヤノンは,1961年に発売した「キヤノネット」以来,多種類のコンパクトカメラを供給してきた。しかし,ざっくりわけると,「キヤノネット」と「オートボーイ」の2つのシリーズになるのではないだろうか。初代「キヤノネット」は,F1.9の大口径レンズ,距離計連動ファインダー,シャッター速度優先式AE機構をもち,きれいな写真が撮りやすくなる当時としては最先端の機能をもたされていたといえる。さらに,性能のわりに低価格だったこともあり,大ヒット商品になった。キヤノネットシリーズは,1972年の「キヤノネットG-III」まで,多くの機種が発売された。
 オートボーイシリーズは,1979年の初代「オートボーイ」から2005年の「オートボーイN130-II」まで,キヤノネットシリーズ以上に多くの機種が発売された。そのなかで個人的にもっとも注目したいものは,1981年に発売されたオートボーイシリーズとして2機種目にあたる「オートボーイスーパー(AF35ML)」である。「オートボーイ2」という機種があるので,その名称からこれがオートボーイシリーズとしての2機種目にあたるように見えるが,発売は1983年であり,オートボーイシリーズとしては3機種目にあたる。同様に1986年発売の「オートボーイ3」は,オートボーイシリーズの3機種目ではなく,シリーズ5機種目にあたる。

私が「オートボーイスーパー(AF35ML)」に注目するのは,なんといってもそのレンズだ。「Canon LENS 40mm F1.9」というレンズを搭載している。当時のフラッシュ内蔵コンパクトカメラのレンズが,35mmあるいは38mmのF2.8というものばかりだった(1998年9月20日の日記を参照)なかにあって,とても目立つ存在だった。大口径レンズは光量の少ないところでもきれいに写すためのものと考えれば,フラッシュが内蔵された以上,F2.8もあれば十分であり,F1.9ほどの大口径は必要ない。「オートボーイスーパー(AF35ML)」以降,F1.9という大口径レンズを搭載したコンパクトカメラは,2001年に富士フイルムが発売した「NATURA S」まで例がない。「NATURA S」のF1.9レンズは焦点距離24mmという超広角レンズであり,感度1600の「NATURA1600」という超高感度フィルムと組みあわせて,フラッシュを使わずに室内の雰囲気を写そうというコンセプトももつカメラだった。だから,キヤノン「オートボーイスーパー(AF35ML)」のF1.9レンズと同じ目的で搭載されたとは言えないかもしれない。

このカメラおよびレンズは以前からずっと気になっていたもので,ずっと以前に入手していた。しかしそのときには,「ずっと使い続けたくなるようなカメラではない」という印象を受けたものである。
 「使い続けたくない」その理由は,動作音があまりにも,けたたましいことである。
 シャッターレリーズボタンを軽く押すと,小さくカチッという音がする。このとき測距がおこなわれているようで,ファインダー内のフォーカスインジケーターが点灯し,どれくらいの距離にピントがあわせられたかがわかるようになっている。シャッターレリーズボタンから指をはなすと測距結果はクリアされ,もう一度シャッターレリーズボタンを軽く押すことで測距がやりなおされる。要は,シャッターレリーズボタンの半押しによるフォーカスロックが実現されている,ということだ。初期のオートフォーカスカメラでは実現されていなかったこの機能によって,キヤノン「オートボーイスーパー(AF35ML)」は一気に実用的なコンパクトカメラにしあがったのである。
 そのままシャッターレリーズボタンを押しこめば,シャッターが動作して露光されるのだが,このときの音が,じつに甲高く大きいものなのだ。どう贔屓目に表現しても,「動作の歯切れがいい」などと言えるようなものではない。じつに不快なものに感じられるのである。
 続いてフィルムが給装されるのだが,その音も,心地よいものではない。私の場合,コンパクトカメラはふだんから携帯してなにげなく使いたいものだから,このけたたましさは受け入れがたいのであった。

ただし写りについては,期待通りきっちりしたものである。

Canon AF35ML, Canon LENS 40mm F1.9, ACROS / ILFORD MG4
Canon AF35ML, Canon LENS 40mm F1.9, ACROS / ILFORD MG4
Canon AF35ML, Canon LENS 40mm F1.9, ACROS / ILFORD MG4

ともあれキヤノン「オートボーイスーパー(AF35ML)」は,シャッターレリーズボタンの半押しによるフォーカスロックが実現されており,かつ,写りもしっかりしたよいカメラである。だからこれからもどんどん使いたいところだが,個人的にはやはり甲高い動作音は受け入れがたい。ここがつくづく,惜しい。残念である。それともう1点。このカメラの魅力は搭載された大口径レンズであるが,プログラムAE専用で絞りや露光時間を選択できないので,その大口径さを生かしにくいということ。これも残念な点だ。

なお,この時代のコンパクトカメラの商品価値は,もはやほとんど失われている。だから,カメラ店のジャンクコーナーで,ちゃんと動くものをとても安価に見つけられるかもしれない(ただし,故障しているほんとうのジャンク品の可能性もあるので,そのつもりで)。もし,使えそうなものを見つけたら,いちど試してみるのはいかがだろうか。
 ところで,単に「オートボーイスーパー」ではなく「オートボーイスーパー(AF35ML)」という書き方をしたのには理由がある。「オートボーイスーパー」を名乗るカメラは,2種類あるので,そこをはっきりと区別するためである。もう1つの「オートボーイスーパー」は,1993年に発売された「オートボーイS(スーパー)」である。これは当時の35mmコンパクトカメラのラインアップにおける最上位モデルとして用意されたもの。1/1200秒シャッター,多点測距,多点測光など,高性能多機能なカメラだが,私としては「オートボーイスーパー(AF35ML)」のほうが魅力的だな。

キヤノンは,1989年に「オートボーイズーム スーパー」というカメラを発売している。キヤノンは,「スーパー」を安易に使いすぎているのではないだろうか?(笑)


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