撮影日記


2013年05月28日(火) 天気:あめ

「カメラ太陽堂」が閉店するので
ビューティフレックスを調整する

「クラシックカメラ」とされるものの1つに,「二眼レフカメラ」というものがある。「二眼」とは,ファインダー用のレンズと撮影用のレンズと,2つの「眼」があることを意味している。「レフ」とは「レフレックス」の略で,「反射」機構が使われていることを意味している。一般的な二眼レフカメラは,撮影用のレンズとファインダー用のレンズとが縦に2つ並んでおり,ファインダー用のレンズの後ろには反射機構があって,カメラ上面のファインダースクリーンで,被写体を確認できるようになっている。ファインダー用のレンズのピントと撮影用のレンズのピントとがきちんと連動していれば,ピントを正確にあわせることが可能となる。
 ファインダー用のレンズのピントと撮影用のレンズのピントとを連動させるしくみは,大きく2つにわけられる。1つは,ファインダー用のレンズと撮影用のレンズとが1つのボードに並んで取りつけられており,このボードがフィルム面との平行を保ったまま移動することで連動させる方法である。これは「前板(レンズボード)繰り出し式」などとよばれ,「ローライフレックス」など多くの二眼レフカメラがこの方法を採用している。もう1つの方法は,ファインダー用のレンズと撮影用のレンズとがギアでかみあっており,同時に回転することで連動する方法である。これは「前玉回転式」などとよばれ,「リコーフレックス」など廉価版の二眼レフカメラでよく採用された方法である。とくに,1950年に発売された「リコーフレックスIII」が安くてよく写るカメラとして大ヒットした後,このタイプの二眼レフカメラが多くのメーカーから発売されることになった。そしていわゆる「二眼レフブーム」が起こるのだが,やがて価格競争が起こって,メーカーが淘汰されていくことになる。その過程で,やや高級とされた前板繰り出し式カメラを前玉回転式カメラなみの低価格で発売するメーカーもあらわれた。それはたとえば,「ヤシカフレックス」の「ヤシカ」であり,「ビューティフレックス」の「太陽堂光機」である。とくに太陽堂光機の「ビューティフレックスT」は,「繰出式,1秒付」で9500円というもので,それはまさに価格破壊であった(2007年01月28日の日記を参照)。

前板繰り出し式「ビューティフレックスT」(1954年発売,9500円)と前玉回転式「ビューティフレックスV」(1953年発売,9800円)

「ヤシカ」や「太陽堂光機」は,そんな「二眼レフブーム」後の淘汰を乗り切ったメーカーの1つであるということになる。しかし,いまは「ヤシカ」も「太陽堂光機」も,その名前が残っていない。「ヤシカ」はこの後,エレクトロニクス分野を強化して,EEカメラである「エレクトロ35」やAE一眼レフカメラ「CONTAX RTS」などを発売することになり,京セラに吸収されながらも近年まで活動していたのだが,ディジタルカメラの流れにうまく乗れなかったのか,その名称は消えていった。一方の「太陽堂光機」は,EEカメラの流れにうまく乗れなかったようで,早々にその名称は消えている。
 とはいえ,「太陽堂」の名前は,完全に消えていたわけではない。「太陽堂光機」は,老舗の販売店である「カメラ太陽堂」を母体としたメーカーだったそうで,「カメラ太陽堂」は今でも営業しているのである。「カメラ太陽堂」の所在地は,神田神保町。「太陽堂光機」の本社所在地も,同じく神田神保町である。

ところが,である。
 その「カメラ太陽堂」が,この6月末で閉店する,というのだ。残念ながら,私は「カメラ太陽堂」を訪れたことがない。訪れたことのないカメラ店が閉店しても,実感として寂しさはわかないものだが,今回はちょっと違う。お店を利用したことはなくても,「ビューティフレックス」を使ったことはあるのだ。「ビューティフレックスT」は比較的最近いただいたものだが(2007年01月28日の日記を参照),「ビューティフレックスV」はずっとうちにあったものなので(1997年12月31日の日記を参照),それなりに親近感があるのだ。

だから,久しぶりに「ビューティフレックス」を使ってみようと思う。だが,「ビューティフレックスT」のほうは,ピントがちょっとずれているようで,まだきちんと試し撮りや調整をおこなっていない。だからとりあえず「ビューティフレックスV」を使うことにする。
 前玉回転式カメラは,ファインダー用のレンズと撮影用レンズの周囲がギアになっており,それが互いにかみあって連動するようになっているのだが,うちにある「ビューティフレックスV」は,これがずれやすい。たぶん,新品だったころはそんな問題はなかったのだろうと思うが,古くなってギアが磨耗してきたり位置がずれてきたりしているのだろう。だから,あらためてピントを調整することにした。
 しくみが単純だから,調整も単純である。シャッター速度ダイアルをBにして,ケーブルレリーズなどで開放状態を保つようにする。フィルム面に適当なピントグラスをあてがって,ピントを無限遠にあわせる。ついで,ファインダーのほうも無限遠にあわせて,その状態でギアをかみあわせておく。つぎは近距離でピントをあわせて,フィルム面もファインダーも同様にピントがあっていることを確認する。これを2度ほど繰り返せば,まあ実用上十分な状態にはなっているだろう。さいごに,使っているうちにギアがずれても直しやすいように,印をつけておくことにしよう。

この「ビューティフレックスV」,シャッターの調子はまずまずであり,不思議なことに「ビューティフレックスT」よりもファインダーが見やすく,ピントがあわせやすい。「太陽堂」の名前はとりあえず消えてしまうのかもしれないが,私のてもとにある「ビューティフレックス」には,まだまだ写真を撮る道具としてがんばってもらうことにしよう。


← 前のページ もくじ 次のページ →