撮影日記


2012年09月26日(水) 天気:晴ときどき曇

こんなタイプもあったのか!
フィルム装填を容易にする工夫の数々

このたび3台まとめて100円(消費税別)で入手したうちの1台は,こんなカメラだった。

コダックの35o判カメラである。正面には「KZ28」や「Easy Load 35」という文字があるので,コダックの「Easy Load 35」というシリーズのなかの「KZ28」というカメラということになるのだろう。KODAKのWebサイトに「KZ28」の説明は見つけられなかったが,「KZ28」に似た機種としては「KE25」という機種のマニュアルが公開されている(*1)。このマニュアルは英語,フランス語,スペイン語の3か国語で記載されていることから,おそらく「北米向け」のモデルであろうと考えられる。なお,入手した「KZ28」には,「Made in India」と記されていた。インド製のカメラを見たのは,これがはじめてである。「KE」が北米向けであるならば,「KZ」はインド(およびその周辺)向けということだろうか?「Easy Load 35」というカメラを日本カメラショー「カメラ総合カタログ」などで見かけた記憶がないので,「KE」も「KZ」も,日本では発売されなかったシリーズかもしれない。
 「Easy Load 35」には,「KE60」などやや高機能ものもあるようだが,「KZ28」は固定焦点でフラッシュは常時ONの簡便な機構のモデルである。このカメラは,その名のとおり,フィルム装填機構が特徴的である。フィルムの先端を挿入して蓋を閉めれば,自動的に装填が完了するようになっている。

フィルムを装填していない状態では,このカメラはウンともスンとも動かない。このカメラは,そのことに気づかれず「不動品」「故障品」としてジャンクコーナーにさびしく埋もれることになる可能性が高い。いや,今の時代,このクラスのカメラは,ほぼ無条件にジャンクコーナー行きかもしれない。とても寂しいことである。

かつて「写真を撮るのがうまい」というのは,「失敗なく確実に適正な露出でピントのあった写真が撮れる」ということであった。カメラというものは,慣れていない人にとってはとても使いにくい機械,使うのに一定の知識や慣れが必要な難しい機械だったのである。しかし現代のカメラは,シャッターレリーズボタンを押すだけで,だれにでもきれいに露出やピントのあった写真が写せるようになっている。
 カメラの進化の過程は,自動化の過程と言いかえてもいいだろう。
 はじめてAE(自動露出)機構を搭載したカメラは,1938年の「SUPER KODAK 620」といわれている。その後1960年代には,レンズシャッターカメラを中心に,AE機構はあたりまえのものになってきた。1975年の「Konica C35EF」(ピッカリコニカ)ではフラッシュ撮影も容易になり,1977年の「Konica C35AF」(ジャスピンコニカ)ではついにピント調整も自動化されたのである。

一般の人にとって難しかったのは,ピントや露出の調整だけではない。フィルム装填も,慣れていない人にとっては難しいものだったのである。135フィルム(パトローネ入りの35mmフィルム)の装填を考えてみれば,まず,不要な光を当ててはいけないフィルムを少し,パトローネから引き出さなければならない。慣れていない人にとっては,それだけでも十分に恐ろしいことである。それを,巻取り軸にうまく巻きつけてやらねばならない。そこから後は,蓋を閉めての作業になる。ちゃんと巻き上げられているのだろうか?もしうまく装填できていなければ,このあとせっかく写したはずのものが,すべて写っていないことになりかねない。量販店で5本パックや10本パックになったフィルムを買えば1本当たりの値段はずいぶんと安くなるのがわかっていても,あんまりたくさん撮らない人は近所の小さな写真店で1本だけフィルムを買い,ついでにカメラに装填してもらっていたものである。個人的な記憶としては,オリンパスXA2は,どちらかというとフィルムを装填しにくいカメラであった。しかし,よく売れたのだろう,目にする機会も少なくなかった。今の私にとってオリンパスXAシリーズは,好きなカメラの1つである。
 装填が容易なフィルムも,市場に送りこまれた。ラピッドフィルム,126カートリッジフィルム(インスタマチック),110カートリッジフィルム(ポケットフィルム),IX240カートリッジフィルム(APS)などである。これらは一時的に普及したものの,現在は市場から退場してしまっている。従来の135フィルムのまま,カメラの工夫でフィルム装填を容易にしようとする工夫もおこなわれた。たとえばキヤノンでは,1960年代半ばころから,「QLシステム」(Quick Loading)と称する簡易装填機構を取り入れている。所定の位置までフィルムを引き出して裏蓋を閉め,あとは巻き上げていけばよいというものである。

その後,電動巻き上げが一般化すると,所定の位置までフィルムを引き出して裏蓋を閉めれば,フィルム装填が自動的に完了するという機構が,各社のカメラに取り入れられている。それをさらに進めたのは,富士フイルムの「DLシステム」(Drop in Loading)だ。135フィルムをカメラの底に入れ,蓋を閉めれば自動的に装填されるものである。その感覚は,IX240フィルムの装填と変わらない。

コダックの「Easy Load 35」のしくみも,フィルム装填が容易になるような工夫の1つだったということだ。ただこれが,日本で発売されなかったのはどういうことか。公開されている「KE25」のマニュアルを見れば,発売時期は2002年ころと考えられる。日本の市場ではすでに,廉価版のフィルムカメラがあまり求められていなかったのかもしれない。

*1 KE25 manual.pdf (KODAK)
http://resources.kodak.com/support/pdf/en/35mm/ke25manual.pdf


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