撮影日記


2012年08月06日(月) 天気:晴

立ち入り禁止と書いてあるわけではないが

広島で,8月6日は特別な日である。いや,全世界的に特別な日であるべきだ。実際,この日にあわせて,全世界から多くの人が広島を訪れる。朝には式典がおこなわれ,夕方には慰霊のための「とうろう流し」がおこなわれる。その「とうろう流し」については,以前は物見遊山的に訪れるべきではないと考え,撮影することを自制していたのだが,最近は1つのイベントとして割り切って撮影するようになった。
 これまでは川べりにおりて低い位置から「とうろう」を撮ろうと考えていたので,「上から覗けるカメラ」が好都合であった。たとえば,2007年にはROLLEIFLEXで,2008年にはMamiya RB67 ProSで撮っている。これらは,とてもよいカメラであることは,間違いない。使いやすいし,描写もばっちりだ。ただ私にとって,主たるカメラは,6×9判が撮れるマミヤプレスである。個人的にはどうしても,マミヤプレスを使って6×9判で撮っておきたい。

ROLLEIFLEX Automat, Tessar 7.5cm F3.5, E100GP
Mamiya RB67 Professional S, Mamiya-sekor 90mm F3.8, PRO400

「とうろう」は,18時ころから流しはじめるし,19時くらいまではまだ空が薄明るい。早い時間帯は混雑も激しいだろうと予想し,19時30分ころに平和祈念公園に着くように出かける。それでも,川沿いは混雑している。「とうろう」は,川の中央付近にいる船から流してもらうものと,原爆ドームの正面,対岸の雁木になっている部分から自分で流すものとがある。この雁木になっているところからが撮りやすいのだが,当然ながらそこは人が多い。少なくとも,そこから「とうろう」を流そうとしている人の妨げになってはいけない。ROLLEIFLEXのように,小さくて軽くてウエストレベルファインダーになっているカメラであれば,小型の三脚をつけたままそこへ行って,ささっと撮って立ち去ることも可能だが,マミヤプレスではそれは少々困難である。
 そこですなおに,川に降りずに撮ることにする。高いところからの撮影は,先日の漕伝馬(2012年8月1日の日記を参照)と同様に,客観的になりすぎて写真としての迫力がなくなるのだが,しかたない。さて,高いところからだと,撮影した写真も客観的になってしまうが,自分自身の目も客観的になる。流された「とうろう」が風にあおられ接触し,炎上するというハプニングも起こった。咄嗟のことなので,携帯電話のディジタルカメラ機能で撮影する。

ここはちょうど,雁木になっているところを見下ろせるわけだが,そこのようすもよく見える。前に出て「とうろう」を流そうとしている人と,そのさらに前に出て撮影しようとしている人だ。とくに,隅の方に陣取った人は,そこをどかない。そこに向かって,警備の人たちが立ち止まらないように,場所を譲り合うようによびかけるが,はたして効果はあるのかどうか。
 潮が引いている時間帯だったので,雁木になっているところの外側も,ちょうど岩場のようになっていた。雁木になっているところの端には簡単な柵がしてあるので,それは「立ち入り禁止」という意味になるだろう。普段はそんな柵はないのだから,「今日は立ち入り禁止」を意味しているのは間違いない。いまは潮が引いていていて岩場になっているが,そこままもなく潮が満ちて水没する。そうでなくても,暗いし足場が悪い危険な場所である。そこに多くの人が立ち入れば,さらに危険なことになるだろう。だから,「立ち入り禁止」にしているものと想像する。
 だけど,そこに立ち入って撮影する人は,少なくない。なかには人ごみに押されて,柵の隙間から空いている空間へついつい入ってしまう人もあるだろうが,そうでないように見える人も多い。ときどき警備の人たちが,そこから出るように呼びかけている。注意されるとそこから出ていく人が大半なのだが,なかにはそうでない人もいる。外国からの観光客らしい人であれば,「言葉が通じていない」可能性もあるが,すべてがそういう人ではない。なかには,警備の人が間近に来て話しかけているのに,頑なにそこを離れない人もいる。警備の人に気がついているようではあるが,そちらのほうに顔を向けることもしないので,「言葉が通じていない」のではなく「無視している」のであろう。石を投げてやろうと思ったが,あいにく手ごろな小石はなかった。いや,危険だから,石を投げてはいけないのである。ともあれこういう人がいると,こういう場でカメラを使うことの肩身がせまくなっていけない。

そんなとき,耳元で,くぉぽんという鈍い音がした。ふと見ると,外国からの観光客と思われる人が,ハッセルブラッドを使っている。なんと,カッコイイではないか。やばい,ハッセルがほしくなるではないか!
 いや,そもそも私がなぜハッセルを買わなかったのか。高いから,というだけではない。6×6判というのが,物足りないからなのだ。そうだここは冷静に,私はあくまで,マミヤプレスで6×9判を撮っていこう,と思うのであった。


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