撮影日記


2012年07月11日(水) 天気:雨

100円はいくらなんでもかわいそう
「オリンパス トリップ35」ふたたび

ついつい,インターネットオークションでカメラを落札してしまった。以前にも書いたように,インターネットオークションでは思いがけず安価に落札できることがあるが,その価格があまりに安価な場合には振込手数料や送料などが加わると,それほど安価ではなくなることもある。その点,落札品を実店舗で受け取ることができる場合には,その心配がないのでありがたい。
 このたび落札したカメラは,オリンパス「トリップ35」というカメラだ。落札価格は,100円。100円スタートの出品に入札しておいたら,競合者があらわれず,そのまま落札できてしまったという次第である。実店舗で受け取ることができたので,消費税が加わって,105円で入手したことになる。

私にとっては,2台目のOLYMPUS TRIP35である(2011年3月20日の日記を参照)。
 さっそく動作を確認するが,露出計はちゃんと反応するし,絞りとの連動も問題なさそうである。ファインダーもレンズもきれいで,ボディにも傷はあまり見られない。純正品と思われるレンズキャップに加えて,取扱説明書が付属していたのは個人的にはポイントが高い。その取扱説明書には,「昭55年」というメモ書きがされていたが,前の持ち主がこのカメラを購入した年をあらわしているのだろうか。

OLYMPUS TRIP35は,1968年に発売された。セレン光電池を用いた露出計によるEE(自動露出機構)をもち,フィルムの巻き上げは背面のノブでおこなうようになっている,当時,好評だったOLYMPUS PENシリーズをライカ判にしたようなカメラである。1960年代であれば,廉価版のカメラとして一般的なスペックであったといえる。このカメラで特筆されるのは,発売後,日本カメラショーの「カメラ総合カタログ」に,1985年版まで掲載されていたことだ。17年間,発売が続いていたロングセラーモデルである。ちなみに,1985年版の「カメラ総合カタログ」には,ミノルタ「α-7000」が掲載されている。この年,一眼レフカメラにもオートフォーカスの時代がやってきたのである。コンパクトカメラでは,ペンタックス「オートロン」はすでに「オートロンII」にモデルチェンジしている。ニコン「ピカイチ」もすでに2機種目の「ピカイチメイト」が登場している。コンパクトカメラへの参入が遅れたブランドですら,こういう状況だ。各社すでに,さまざまなフラッシュ内蔵でオートフォーカスで電動巻き上げの,フルオートコンパクトカメラをラインアップさせている。そんななかで,オリンパス「トリップ35」の金属ボディは,輝いている。セレン光電池式のEE機構は,まさにシーラカンスのごとき存在感だ。昭和でいえば60年である1985年に,オリンパス「トリップ35」を買った人はあっただろうか?その人は,どうしてこれを選んだのだろうか,ちょっと気になるところである。
 このカメラが購入されたと思われる昭和55年,すなわち1980年の「カメラ総合カタログ」も見てみよう。ここには,はじめてオートフォーカスとフラッシュと電動巻き上げを内蔵させた,すなわちフルオートコンパクトカメラであるキヤノン「オートボーイ」が掲載されている。「ジャスピンコニカC35AF2」や「フラッシュフジカAF」などオートフォーカスカメラも多く見られるようになってはいるが,まだ前時代からの名機の流れを継ぐ「キヤノネットG-III」やミノルタ「ハイマチックF」,ヤシカ「エレクトロ35GX」,リコー「AD-1」「FF-1」などが見られる。しかし,そうは言っても,すでにセレン光電池式露出計のオリンパス「トリップ35」は,時代遅れの製品に見える。
 ここで言いたいことは,昭和55年という時期は,オリンパス「トリップ35」の長い歴史の末期に該当するのではないか,ということである。今日,入手した「トリップ35」の軍艦部に刻まれたシリアルナンバーは,430万番台である。以前に入手したものは,110万番台であった。これはいつごろ販売されたものかはわからないが,この番号が連番であったとすれば,「トリップ35」は少なくとも300万台以上発売された,ということになる。オリンパスのウェブサイト(*1)を参照すれば,「昭和43年(1968年)発売のオリンパストリップ35は、(中略)、以後20年間、シリーズ生産台数1000万台を突破(以下略)」とあり,300万台どころか1000万台以上が生産されたらしい。もっとも「シリーズ」ということなので,1000万台には後年の「トリップAF」なども含まれるのかもしれない。

ともあれ,20年近くにわたって数100万台が生産されたのであれば,その前期モデルと後期モデルとでは,なんらかの差がみられるのではないだろうか。110万番台のものと430万番台のものとを並べてみよう。

どうやら,シャッターレリーズボタンの色が違っているようだ。しかし,このほかにはこれといった違いが見当たらない。ということは,古い時代からほとんど姿を変えずに生き延びてきた,「生きた化石」ともいえる存在だったということになる。まさに,シーラカンスのごとき存在なのである。

オリンパス「トリップ35」は,趣味的にはオリンパス「ペン」シリーズにくらべれば人気がなさそうである。また,もともとが安価なカメラであるうえに,ほとんど姿を変えずに大量に流通したことから,希少性もない。だから,中古カメラ市場でも価格がつきにくいものと想像する。
 しかし。それでも,インターネットオークションで100円の値しかつかないのは,あまりにかわいそうである。もっとも,このカメラを出品していたのがカメラ専門店であれば,競合者があらわれてもうちょっとは高値になったかもしれない。出品者は,カメラ専門店ではなく,「フォーサイト」というブランド品ショップなのである。カメラ専門店でなければ,カメラの扱いがぞんざいになるという印象をもっている人も少なくないということかもしれないが,このたびのオリンパス「トリップ35」は,外見もきれいで,動作もそこそこ快調,お店での扱いもていねいなようで,よい買い物だったと思っている。

*1 オリンパスの歩み:EE搭載カメラ (オリンパス株式会社)
http://www.olympus.co.jp/jp/corc/history/camera/ee.cfm


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