撮影日記


2012年01月26日(木) 天気:曇ときどき雪ちらほら

偽物だっておもしろい
いや,偽物だから,おもしろい

このカメラは,「ライカ」ではない。たしかに上面には「Leica」と刻まれているが,そんなものはただの「文字列」であり,それが「ライカ」であることの証明ではない。実際,このような形のカメラは,「ライカ」の製品としては存在しないのだ。
 よく知られているように,これは,ソ連でつくられた「ゾルキー」というカメラである。カメラの正面にシンクロ接点があるので,「ゾルキーS」(ЗОРКИЙ С)というモデルになる。「ライカ」の製品には,この場所にシンクロ接点があるようなモデルはないのだ。だからこれは,一目瞭然で偽物なのである。ソ連製のカメラに「Leica」の刻印をつけた「偽ライカ」は,けっこうポピュラーな存在のようで,1990年代末期の「中古カメラブーム」「(いわゆる)ロシアカメラブーム」のころには,中古カメラ店などでよく見かけたものである(1998年12月23日の日記を参照)。
 「Leica」と刻まれていなくても,「フェド」や「ゾルキー」の初期のモデルは,もっと「ライカ」に似ている。比較的安価に,ライカのようなカメラを楽しめるわけで,それはそれでおもしろい。
 これらのようなソ連製の「偽ライカ」がつくられた理由や背景は,よくわからない。ただ時代的に,ソビエト連邦の崩壊とそれに伴う混乱や流通の変化のなかで誕生したものだろうと想像できる。ソ連あるいはその周辺で安価に入手できただろう古い「フェド」や「ゾルキー」を,「Leicaと偽って高く売る」ためにつくったものかもしれないし,「ジョーク品として売る」ためにつくったものかもしれない。

そもそも,「ライカ」に似たカメラがつくられていたのは,それだけ「ライカ」というカメラが,よい製品だったということがあげられる。ドイツから輸入すると高価なライカを,自国内でつくろうと考えた国やメーカーがあってもおかしくない。カメラは,情報収集ツールとして戦争の遂行に必要な兵器でもあったのだから,第一次世界大戦や第二次世界大戦などでドイツと戦争をした国では,ドイツの優秀なカメラが輸入できずに困ることになる。それらの事情があって,世界中のいろいろな国で,「ライカ」をはじめ,ドイツのカメラに似たカメラがつくられるようになったとされる。
 日本光学(ニコン)の初期のカメラは,「ライカ」とツァイス・イコン「コンタックス」のよいところを取り入れて,さらに工夫を加えたものとされている。悪質な「丸ごとパクリ」ではないものの,外見は「コンタックス」にそっくりであり,その「ニコン(Nikon)」という名称も,ツァイス・イコン(ZEISS IKON)に似たものだった。レンズなどには実績があっても,カメラボディをつくるのははじめてだった日本光学が,高級カメラとしての実績があるツァイス・イコンの「コンタックス」のイメージを利用しようとしたと疑われてもしかたがない。また,第二次世界大戦前のカメラ雑誌を参照すれば,「ロールコンター」という名称の日本製二眼レフカメラの広告をよく見かけることになるが,これも「ローライフレックス」と「コンタックス」のイメージに便乗しようとした名称のように思えてしまう。

ともあれ,「実績のある製品」「実績のあるブランド」に外見や名称を似せたりして,そのイメージを利用しようとしているのではないかと疑いたくなる姿勢は,いろいろなところで見ることができる(1998年7月14日の日記を参照)。
 先日の,100円ほどで何本かまとめて入手したジャンク扱いの腕時計には,そういう意味でおもしろい製品がまじっていた。

クォーツ式の腕時計であるが,「時」「分」「秒」の時刻表示のほかに,3つの針で「月」「日」「曜」も示すカレンダー機能も備えている。この腕時計は,「日」の針が取れていたのでジャンク扱いになっていたようであるが,ケースから取り出して針をはめなおせば,とくに問題なく動作するようになった。さて,この時計はどこのメーカーのものだろうか。文字盤には,このようなロゴがついている。

一見すると,SEIKOの「ルキア」(LUKIA)のロゴのようだ。「ルキア」は女性用のモデルで,もっとも安いシリーズよりはちょっと上のライン,SEIKOとしては中くらいのものであろうか。ともあれ,これが「ルキア」であるならば,そんなに安いものではない。しかし,世の中は,そんなに甘くない(笑)。「ルキア」であるなら,どこかに「SEIKO」という文字がなければならないが,そんな文字列はどこにも存在しない。そのかわりに,こんな文字列がある。

アイケイコレクション?それとも,エルケイコレクション?そのあたりもよくわからない,なんともあいまいな名称ではないか。いずれにせよ,この時計は「ルキア」のイメージに便乗しようとした製品であると疑わざるを得ないのである。
 最初から「ルキア」であることを期待して入手したのであれば「がっかり」なわけだが,そういうわけではないので,問題はない。それどころか簡単な修理での復活を楽しめたわけで,1本あたり価格が数10円なのだから,じゅうぶんにお釣りがくるというものだ。
 あらためて,ロゴをくらべてみよう。下の画像に見えるのが「ルキア」のロゴだ。じつによく似ているじゃないか。高価な「ロレックス」などに似せたのではなく,一般的な価格帯の「ルキア」に似せたというねらい目も,なかなかおもしろい。「偽物」も,偽物とわかっていて楽しむのは,非常におもしろいわけである。


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