撮影日記


2011年11月01日(火) 天気:晴

ニコンとセイコーとで1960年代を味わう

シャッターとは,フィルムに光があたる時間を調整することで露光をコントロールする,カメラにおいて非常に重要な機構である。カメラを「機械式」「電子式」として分類するときは,このシャッターのしくみに着目している。つまり,開いている時間をギアやバネなどの組みあわせで制御しているものが「機械式シャッター」であり,電子回路によって制御しているものが「電子式シャッター」である。そして,機械式シャッターが組みこまれたカメラが「機械式カメラ」であり,電子式シャッターが組みこまれたカメラが「電子式カメラ」となる。
 ともかく,カメラのシャッターは,時間を測定しているのである。
 機械式シャッターには,動作に電源が不要というメリットがある。しかし,どのみち,露出計に電池が必要になるのだ。そのメリットは,かなり限定的なものといえるだろう。また,電子式シャッターは,たとえばクォーツ制御とすることで精度を高くすることができ,自動露出機構も実現しやすくなるなどのメリットも大きいのである。カメラの自動化と同時に,機械式カメラはどんどん少なくなっていった。プロ用の大型カメラや,今となってはかなり趣味性が強いと思われるニコンFM10のように,一部に残るだけとなっている。そもそも,カメラそのものが,ほとんどディジタルカメラに置きかわってしまっている。

さて,時間を測定する機械としては,シャッターよりも時計のほうが,多くの人にとって身近に感じられるだろうか。時計にも,電源を必要としない機械式時計と,電源を必要とする時計とがある。腕時計に限定した場合,電源を必要とする時計のほとんどはクォーツ制御のものだから,「機械式時計」と「クォーツ式時計」という言い方で分類してもいいだろう。
 カメラのシャッターの場合,その動作は一瞬で終わる。それに対して時計は,一定の精度を維持しながら,延々と動作し続けなければならない。一般的な機械式時計の場合,1日あたりの誤差が10〜20秒くらいあるので,少なくとも2〜3日に1回は時刻をあわせる必要がある。もっとも機械式時計の動力源はゼンマイであり,ゼンマイをいっぱいに巻いていても1〜2日くらいしか連続して動作しない。だから,機械式時計の時代には,毎朝ゼンマイを巻き,時刻をあわせて出かけるということが習慣的になっていたのではないだろうか。それに対してクォーツ式時計は,一般的なものでも1か月あたりの誤差が10〜20秒くらいで,機械式時計とはケタ違いに正確である。また,電池は1〜2年くらいもつものであり,ほとんど無調整で使い続けられることになる。クォーツ式時計の登場によって機械式時計はどんどん少なくなっていったが,一部の高級品などには根強く生き残っている。

ここにも,カメラと時計との共通点が見られる。どちらも,そもそもは精密機械であったが,現在は電子機器になっている。また,伝統的な機械式の高価な製品よりも,現代の電子式の安価な製品のほうが,性能がよい場合が多い。

1950年代までは,カメラも時計も,なかなか買うことができない高級品だっただろう。1970年代以降は,カメラも時計も電子化がどんどん進展していった。機械式カメラと機械式時計がもっとも広まっていたのは,1960年代くらいということになるだろう。それらは,こんな製品だったはずだ。

これらは,1960年代半ばの一眼レフカメラと腕時計である。
 カメラは,1967年に発売されたニコンの「ニコマートFTN」だ。中央部重点測光の「TTL露出計を内蔵」という,当時としてはあたらしい機能を盛りこんだ一眼レフカメラである。露出計のための電池を必要とするが,シャッターは機械制御式のコパルスクエアである。
 時計は,1965年に発売されたセイコーの「スポーツマチック5デラックス」だ。時計をはめた状態で腕を動かすと,内部のおもりによってゼンマイが巻き上げられる「自動巻き」時計である。カレンダー機能も内蔵している,当時としてはあたらしい機能を盛りこんだ先進的な腕時計といえるだろう。
 「スポーツマチック5デラックス」を腕にはめ,「ニコマートFTN」を肩にかけていた人は,きっとかなりの満足感にひたれていたのではないだろうかと想像する。

そういう時代をリアルには知らない私は,その感覚を追体験してみようと「スポーツマチック5デラックス」をはめ,「ニコマートFTN」を肩からかけてみた。

重い……
 ずっしりと,重い。
 2つとも身につけてしまうと,あまりにも重いのである。

先にもふれたように,カメラも時計も,時間を制御する機械である。
 そしてこれらはまだ,電子化されておらず,精密機械としての魅力もある。
 シルバー色のメカニカルな姿も,共通点の1つだ。
 そして,重い。そんなところまで,すっかり共通しているのであった。


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