撮影日記


2011年07月20日(水) 天気:晴

がんばれ,モノクロフィルム!
APSの敗因は,やはり「そこ」か?

富士フイルムが,「APSフィルム販売終了のお知らせ」を発表(*1)してから,2週間がたった(2011年7月6日の日記を参照)。カメラ・写真店の店頭には,まだわずかながらAPSフィルムの姿が見られている。
 フィルムの消費が大きく減少していることは,多くの人が「自分のこと」として感じているはずだ。私自身を含めて,フィルムを使うことが減った人は,相当数いるだろう。これまでに何度も紹介していた「日本カラーラボ協会」の公開するデータ(*2)を見るまでもない。
 カメラの出荷も減少し,フィルムの出荷も減少している。それは,数字をつきつけられなくても,実感としてわかている。とはいえ,いちど出荷されてユーザの手に渡ったカメラは,何年もかけて何本ものフィルムを消費できるはずだ。フィルムでの撮影を好む人もいる。だから,カメラの出荷が「0」になってもフィルムの需要が「0」になることはない,と多くの人が信じていることと思う。いや,少なくとも期待していることと思う。しかしながら,富士フイルムからの「APSフィルムの製造・販売を終了」という発表によって,ふたたび厳しい現実をつきつけられたことになる。

「日本カラーラボ協会」が公開するデータを,もう少しよく見てみよう。
 すると,モノクロフィルムの減少は,比較的遅いことに気がつくはずだ。
 2003年から2010年までの変化をみると,全体としては約80%減少している。カラーネガフィルムでは,「135」は約80%の減少,「APS」は約90%の減少,「120・220」は約80%の減少だ。ところが,リバーサルフィルムのようすは少し違う。「135」は約75%の減少でにとどまっているのだ。「120・22」は約80%の減少なので,ネガカラーとあまり状況はかわらな。ところが,モノクロフィルムでは,「135」は60%の減少,「120・220」だと55% の減少にとどまっているのである。
 モノクロフィルムは,「自分で現像やプリントの加減が調整しやすい」ということから,趣味性も高いと考えられる。それに対して,APSは現像所まで含めたトータルのシステムとしてつくられたため,「自分で現像やプリントをする」ことができず,写真を趣味とする人の支持が得られなかったものと考えられる。このことは,APSが短命に終わる理由の1つとして,大きいものになるだろう。

APSはカートリッジに入ったまま,現像所でプリントしたり,家庭用フィルムスキャナでパーソナルコンピュータに読みこんだりできるのも,特徴の1つである。家庭用スキャナのなかには,テレビにつないで鑑賞するような装置もあった。
 かつて,APS用のカラーリバーサルフィルムが発売されていたこともあった。ところがこのフィルムで撮影したものをスリーブやマウントで「鑑賞」しようと思えば,カートリッジから引き出して,135フィルムと同じように扱うことになる。すると,カートリッジに入ったままで,いろいろな装置を通して画像を利用できるというメリットは失われてしまい,ライカ判よりも画面が小さいというデメリットしか残らない。つまり,APSでカラーリバーサルフィルムを使う意味が,見あたらなくなってしまう。そのせいか,比較的早いうちに,APS用のカラーリバーサルフィルムは,姿を消している。
 かつて,APS用のモノクロフィルムが発売されていたこともあった。ところがそのフィルムは,従来からのモノクロフィルムではなく,カラーネガフィルムと同様の処理をするタイプのモノクロフィルムだった。カラーネガフィルムと同様の処理ができるということは,DPE店にある自動現像機などでスピード処理ができるということである。そのままカラープリントすればセピアっぽい仕上がりになるなど,「ちょっと変わったおもしろい」写真が撮れるとして,流行していた時期もあった。しかし,このモノクロフィルムは,自分で現像し,自分でプリントして楽しむような性格のものではない。自分で処理をするときには,APSというシステムの意味はないのである。また,ディジタルカメラとパーソナルコンピュータとを利用すれば,カラー撮影した画像を,モノクロ化することも,セピアっぽくすることも容易にできるようになった。つまり,APSでモノクロフィルムを使う意味は,見あたらなくなっていったのである。

APSの敗因は,「自分でモノクロフィルムの処理を楽しめない」ことにあったのだ。
 もっとも,自分でモノクロフィルムの処理を楽しむ人は,いわゆるマニア層だけであると考えることもできる。ビジネス的に成功させるなら,マニア層の希望にあわせていられない事情もあるだろう。しかしながら,マニア層に受け入れられる従来からのモノクロ写真のシステムが,結果として,いましばらく命脈を保ちそうに思えるのであった。

*1 「APSフィルム販売終了のお知らせ」(2011年7月6日 富士フイルム株式会社)
http://fujifilm.jp/information/articlead_0120.html

*2 「国内フィルム市場の動向 ロールフィルムの国内出荷本数推移(2006年〜2010年)」(日本カラーラボ協会)
http://www.jcfa-photo.jp/archives/bussiness/report/report07.html


← 前のページ もくじ 次のページ →