撮影日記


2011年07月07日(木) 天気:雨

APSカメラの終焉
フィルムがなければただの箱

今日は7月7日,「七夕の日」である。であるが,ふと思いついたこと。「7月07日」ということは,「707の日」である。そうだ,歴史的名機,いや迷機というべきか,オリンパス「OM707」を偲び称える日ではないか。ただ,あまりに急に思いついたことなので,準備をしていない。7月7日に「OM707」を偲び称える行動は,来年以降の課題にしよう。

2011年7月6日に富士フイルムは,「APSフィルム販売終了のお知らせ」を発表した(*1)。これによれば,「販売数量が年々大幅に減少」したことや,「一部原材料については供給元での生産が終了し入手困難となっており」といったことが,製造終了の理由としてあげられている。昨日の日記でも書いたことだが,「日本カラーラボ協会」が公開しているデータによれば,2010年のロールフィルムの出荷数は2651万本(*2)とのこと。これは,2003年の出荷数の8.5%ほどに過ぎない。また,「スチルフィルムのサイズ別構成比」を見れば,APSの占める割合は2006年にはまだ5.7%あったものの,2010年にはわずかに2.2%である(*3)。全体の出荷数が減少している以上のペースで,APSフィルムの出荷数が減少しているということだ。富士フイルムがいう「販売数量が年々大幅に減少」とは,こんな状況のようである。
 ただ,「日本カラーラボ協会」の意図がよくわからない。「ロールフィルムの国内出荷本数推移」のグラフは,出荷本数が対数目盛になっているので,出荷本数が1/4くらいに減少しているのに,グラフをぱっと見た目にはほとんど減っていないように見える。しかし,「レンズ付フィルムの販売推移」はふつうの目盛になっているので,大幅に減少していることがよくわかる。「レンズ付フィルムの販売数は激減しているが,ロールフィルム全体の出荷はあまり減ってないよ」とでも主張したいのだろうか?

ともあれ,フィルムの供給を断たれてしまうと,カメラを「写真を撮る道具」として使うことはできなくなってしまう。「ディジタルカメラは数年で陳腐化する。それに対してフィルムカメラ,とくに機械式カメラは,何10年でも使える。」という主張をする人もあるが,その背景に,ライカやニコンなどの代表的な小型カメラが使う135フィルムが,ずっと継続して供給されているという事情があることを忘れてはいけない。もし135フィルムの供給が,ずっと以前に終了していたら,ライカもニコンも「写真を撮る道具」として使うことはできなくなっていたのである。135フィルムと120フィルムが何10年も継続して供給されてきたのは,必然だったのかもしれないが,「カメラを使う」という立場から見れば,幸運であったとも考えるべきであろう。
 富士フイルムの発表によれば,メーカーの在庫がなくなるのは2011年12月末の見込みとのこと。いま,APSカメラを愛用している人は,どうすればよいのだろうか。まずは,フィルムを買いだめすることだろう。しかし,買いだめしたところで,いずれ使いきってしまう。また,フィルムには使用期限というものもある。「買いだめ」では,「これからもずっと」APSカメラを使い続けるための,根本的な解決にはならない。
 なお,昨日の日記に書いたとおり,コダックのAPSフィルムの製造・販売は,すでに終了している。

そこで考えたいのは,「自分でフィルムをつくる」ことである。
 たとえば,135フィルムを適切な幅にカットして,自分でカートリッジに詰め替えて使うことはどうだろうか?これができれば面倒ではあるものの,135フィルムが供給される間はAPSカメラを使うことができるだろう。
 そこで,ちょっとした実験をおこなってみた。
 APSフィルムのカートリッジには,フィルムの状態をあらわす窓がある。

この窓は,次のような状態をあらわしている。
  1:未使用
  2:撮影途中
  3:撮影済み
  4:現像済み
 上の画像は,「4」が白くなっているので,撮影が済んで,現像処理もおこなったフィルムであることを示している。そこで,カートリッジの軸を強引に回して,表示を「1」の未使用にした。

このようにしたカートリッジを,カメラに装填してみよう。

フィルムカウンタに,残数が「25」と表示された。
 このフィルムが,「未使用」であると認識されたようだ。シャッターレリーズボタンを押すと,フラッシュが発光し,ちゃんと動作したようである。しかし,……

このあと,フィルムは巻き上げ続けられ,フィルムカウンタの表示は「1」になってしまった。しばらくするとさらに,……

フィルムカウンタの表示は「E」となり,このカートリッジでは撮影できないということになった。この方法では,カメラをだます(笑)ことはできないようである。
 APSフィルムの特徴として,フィルムに磁気情報を記録する部分が設けられていることがあげられる。そこに,撮影日時やプリントサイズ等の情報が記録されるわけだが,そこになんらかの情報が書きこまれていることから,カメラには「使用済みフィルム」であることがばれるようになっているのだろう。
 では,磁気情報を記録する部分が「ない」場合はどうなるか?次の機会に,実験してみたい。

なお,取り出したフィルムは,ちゃんと「撮影済み」になっていた。

ともあれ,フィルムが入手できなくなれば,カメラも使いものにならなくなる。APSフィルムの製造・販売の終了が確定した昨日以降,APSカメラの実用品としての価値は,大きく低下したことだろう。実用品としての価値は低下しても,APSという歴史の1コマを物語るためには,APSカメラはきちんと保護しなければならない。これから,中古カメラ店のジャンクコーナーに,APSカメラが大量にあらわれることが考えられる。これらは「捨てられる」ような存在になりかねないから,救出するなら今のうちだ。もしかすると,ニコンのPRONEAなどの「一眼レフカメラ」や,京セラのCONTAX TiXのような「高級機」も,価格が大幅に低下するかもしれない。
 こんなことを期待するのは,APSカメラを愛用している人に対して,少々不謹慎であろうか。

ところで,APSカメラには,MRCといって,撮影途中でフィルムを交換できる機能をもったものがある。この機能は,フィルムに記録される磁気情報を利用しているわけだが,もしかするとそのような機能のないカメラであれば,カメラをだますことはできないだろうか。しかし,「使ってみたい」と思うようなAPSカメラは,たいていMRCをもっているような気もする。

*1 「APSフィルム販売終了のお知らせ」(2011年7月6日 富士フイルム株式会社)
http://fujifilm.jp/information/articlead_0120.html

*2 「国内フィルム市場の動向 ロールフィルムの国内出荷本数推移(2006年〜2010年)」
http://www.jcfa-photo.jp/archives/bussiness/report/report07.html
http://jpia.jp/jcfa/archives/bis/report/report07.html#rep1
この表およびグラフでは,2010年の合計が「3454」になっているが,これは「※内レンズ付き」が誤って加算された値になっており,正しくは「2651」となる。

*3 「スチルフィルムのサイズ別構成比」の表
http://www.jcfa-photo.jp/archives/bussiness/report/report07.html
http://jpia.jp/jcfa/archives/bis/report/report07.html#rep2


2011年07月15日(金) 天気:晴

取り消し線を追加。
 7月12日の夜のうちに,件のグラフは,対数目盛からふつうの目盛のものに置きかえられたもよう。三重大学の奥村晴彦先生が「つぶやき」(*4)してくださった影響だろうか。グラフが置きかえられたことをお知らせくださった方(*5)にも,感謝したい。

*4 http://twitter.com/#!/h_okumura/status/90574779916103681

*5 http://twitter.com/#!/TarCompress/status/91707094205599744


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