撮影日記


2011年03月20日(日) 天気:雨

そんなジャンクで大丈夫か?
大丈夫だ,問題ない
「OLYMPUS TRIP35」

中古カメラを扱っているお店には,「ジャンク品」のコーナーが用意されていることが多い。「ジャンク品」とは,通常の中古商品として扱えないような状態の商品をあらわすことばである。それらはたとえば,故障している。あるいは故障していなくても,外装が激しく傷んでいる。故障しておらず,外装に問題がなくても,人気がない安物ならば,中古品としての商品価値がつかない場合もある。これらが「ジャンク品」のコーナーに,並べられている。
 「ジャンク品」には,通常の中古品にくらべて,非常に安価な価格がつけられていることが一般的である。もとの価格や人気度,故障や痛みの程度によって,1つ1つにそれぞれ価格がつけられていることもあるが,お店によってはジャンク品はすべて「1つ○○円」という統一的な価格になっていることもある。
 ジャンク品のなかには,簡単な修理で機能を回復させられるものが含まれていることがある。もし,そのようなものを掘り出すことができれば,非常にトクをした気分になるだろう。もっとも,そもそも必要にないものを買ったのであれば,いくら気分はトクしていても,所詮,無駄遣いにすぎないのだが。

「ジャンク品」を購入することには,さまざまな「楽しみ」の要素がある。1つは,もともと高価だったカメラを安価に入手できたというものがある。自分の手で「復活」させるというのも,1つである。さらには,コレクションが増えるという,単純な楽しみもある。
 私がはじめて,ジャンク品を購入したのは,1998年8月22日のことである。もう,12年以上も前のことだ。はじめて購入したジャンク品は,ニコン「ピカイチテレ・クォーツデート」(Nikon L35 TWAD)である。レンズを38mmと65mmとに切りかえられる(この機種の場合,65mm時にはリアにテレコンバータが挿入される)コンパクトカメラで,コンパクトカメラにズームレンズが搭載されることが一般的になる前に,一時的によく見られていたタイプのものである。このときの「ピカイチテレ・クォーツデート」は,裏ぶたのクォーツデート機能へのケーブルが断線していたのが原因で,日付が写しこまれなくなっていたためにジャンク品になったようで,撮影機能そのものは正常であった。最初に,こういう「いい出会い」があったものだから,その後,ジャンク品の楽しみにずるずるとはまっていくことになったのだろう。もし最初に「はずれ」をひいていたら,今日の私はなかったかもしれない。
 そんな「いい出会い」をはじめて体験させてくれた「カメラのキタムラ 高取店」にも,最近は立ち寄る機会が少なくなっていた。今日,そのお店を久しぶりに覗いてみたところ,こんなカメラが強烈な存在感を示していた。

OLYMPUS TRIP 35

オリンパス「トリップ35」という,EEカメラである。
 オリンパス「トリップ35」の発売は,1968年である。その後,日本カメラショーの「カメラ総合カタログ」では,1985年版までは掲載されていたロングセラーな製品だ。登場した1968年版(Vol.32)のオリンパスのページには,ハーフサイズのオリンパス「ペンEE2」「ペンEES-2」,ライカ判のオリンパス「35 」などが紹介されている。「トリップ35」はライカ判のカメラであるが,その形態やしくみを見れば,ライカ判の「オリンパス35」シリーズよりも「オリンパスペンEE」シリーズに似ていることに気がつくだろう。オリンパス「トリップ35」は,目測式のピント調整ができるので,オリンパス「ペンEES-2」をライカ判にしたようなカメラとみなすことができそうである。

さっそく,オリンパス「トリップ35」を手にとって,動作を確認してみる。
 残念なことに,絞りが開かない。オリンパス「トリップ35」は,オリンパス「ペンEES-2」と同様に,レンズのまわりにセレン光電池が配置されている。それが露出計に連動し,露出計の針(直接には見えない場所にある)の動きによって,シャッター速度や絞りが選ばれるようになっている。つまり,暗いところでは自動的に絞りが開くはずなのに,それが動かないのである。また,どれだけ暗い条件にカメラを向けても,「赤ベロ」が出てこない。オリンパス「ペンEE」シリーズと同様に,露出が不足する条件になると,ファインダー内に赤いベロ状の板が出てきて,露出不足を警告するしくみがあるのに,それも動かないのである。
 セレン光電池が劣化していたり,露出計のメーターがダメになっていたりしているのであれば,復活はむずかしいかもしれない。しかし,シャッターの音に耳を澄ませば,明るさによってシャッターの音が違うことに気がつく。オリンパス「トリップ35」は,明るさによってシャッター速度が2段階(1/30秒と1/250秒)に切りかわり,同時に絞りも調整される,「プログラムEE」式カメラなのだ。シャッター速度の切りかえが動作しているということは,露出計そのものは問題ないことが期待できる。すると,絞りを動かす機構が,なにかにひっかかっているだけかもしれない。
 予想通り,軍艦部を開いて,なかをちょこっといじると,絞りの動作も機能が回復したのである。

オリンパス「トリップ35」は,モデルチェンジや派生モデルが登場することもなく,そのままの形態で1968年から1985年ころまで発売されたことになる。
 1985年といえば,ミノルタから「α-7000」が登場した年である。「カメラ総合カタログ vol.82」(1985年)のキヤノンのページを見れば,初代「オートボーイ」の姿はすでになく,上位モデル「オートボーイスーパー」を経て,「オートボーイ2」にモデルチェンジされている。さらに,ちょっと高級路線を狙った「MC」も掲載されている。ニコンのページを見れば,「ピカイチ」(L35AF,L35AD)のほか,「ピカイチメイト」(L135AF)も掲載されている。オリンパスからも,名機「XA」「XA2」のほか,「ピカソ」(AF-L)などが掲載されている。
 各社のページには,当時最先端のフルオートカメラや,ファッション性を重視したカメラなどがにぎわっている。そんななかで,「トリップ35」は,まったくの古い時代から変らぬ姿で発売されていたことになる。たとえて言えば,「生きた化石」「シーラカンス」のような存在だったわけだ。

1968年版と1985年版の日本カメラショー「カメラ総合カタログ」。
「OLYMPUS TRIP35」は,長年にわたって掲載されつづけてきた。

長く発売されたのには,いろいろな理由が考えられる。1つに,シンプルな操作で,よく写ることがあるだろう。電池が不要というのも,古くからカメラを使っていた人には,なじみやすいことだったかもしれない。そして,たぶん,故障も少なかったのではないだろうか(また,故障してもすぐに直ったのだろう)。
 さて,「カメラのキタムラ 高取店」では,ジャンク品は,お店の奥のほうに積まれていた。1台500円だが,3台買えば1200円(1台あたり400円),5台買えば1500円(1台あたり300円),10台買えば2000円(1台あたり200円)という価格設定である。ジャンク品の顔ぶれも,年ごとに変化が見られる。以前はよく見かけた,ピッカリコニカやジャスピンコニカ,初期のキヤノンオートボーイなど,1980年代に普及したタイプのコンパクトカメラはすっかり姿を消し,1990年代以降のズームレンズを搭載したタイプのコンパクトカメラや,100万画素から200万画素くらいのコンパクトディジタルカメラなどが多く見られるようになっている。一眼レフカメラなどの高級品は,修理されながらでもまだまだ中古品として流通させてもらえる機会があるようだが,普及品であるコンパクトカメラは,修理されることもなく,たいせつにしまいこまれることもなく,1990年代の製品であってもジャンク品として市場からは消えていく。これらの消えていくカメラを救出し,保護することは,我々カメラ好きな者にとっての使命である。

とかなんとか言いながら,今日もまた物欲の赴くままにジャンク品を買ってしまった,ということなのだ。


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