2010年09月20日(月) 天気:くもり
もちろん故障しているオリンパスPEN-EM
いつしか「八百富写真機店ディアモール店」は,お店が少し狭くなった。そして,お店の奥の中央にあるショーケースの上には,ジャンクカメラやトイカメラが並べられるようになった。その数はごくわずかだが,たまに気になるものがそこに出現する。たとえば,2010年9月5日の日記で紹介したスペイン製110カメラ「WERLISA 110」も,そこで見つけたカメラである。
「アクメルMD」を購入(2010年9月17日の日記を参照)したときも,そのショーケースの上にはいくつかのジャンクカメラやトイカメラが並べられていた。
トイカメラのなかには,「おもちゃのカメラくん」があった。100円ショップ「ダイソー」で,100円で売られていたカメラである。一般的なパトローネ入り35mmフィルム(135フィルム)を使用し,自動復元式のフィルムカウンタも装備されている。残念ながらフラッシュは内蔵されておらず,シンクロ接点も三脚穴もない。あくまでも「おもちゃ」ということか。ただ,日中の屋外であれば,意外ときちんと写るカメラである。いまとなっては貴重な存在の「おもちゃのカメラくん」,保護しておこうと考えたのだが,その価格は300円。300円という金額は,衝動買いするにあたって問題のない金額ではあるものの,発売当時の3倍にあたるインフレ価格である。これを保護するチャンスは,まだ1台も入手していない人に譲ることにしよう。
ジャンクカメラは,トイカメラたちと背中あわせに並べられていた。すなわち,「おもちゃのカメラくん」のほうから見ると,ジャンクカメラは裏蓋側しか見えていないことになる。だが,そのなかに1つ,ひときわ輝いているボディがあった。そのカメラの上面には,「EM」という文字が見えたのである。
オリンパス「ペンEM」だ。
オリンパス・ペンというと,ハーフサイズカメラの大ブームを引き起こした名機のシリーズである。オリンパス・ペンは,一眼レフ形式の「ペンF」シリーズも含めて(ディジタルカメラのペンEシリーズは除いて),17機種におよぶ。
オリンパス・ペン シリーズ
年 | 機種 | 備考 |
1959 | オリンパスペン | 初代機,マニュアル露出 |
1960 | オリンパスペンS | マニュアル露出 |
1961 | オリンパスペンEE | 自動露出 |
1962 | オリンパスペンEES | 自動露出 |
1962 | オリンパスペンD | マニュアル露出,大口径レンズ |
1963 | オリンパスペンF | 一眼レフ |
1964 | オリンパスペンD2 | マニュアル露出,大口径レンズ |
1964 | オリンパスペンW | マニュアル露出,ワイドレンズ |
1965 | オリンパスペンEM | 自動露出,電動巻き上げ・巻き戻し |
1965 | オリンパスペンD3 | マニュアル露出,大口径レンズ |
1966 | オリンパスペンFT | 一眼レフ,TTL露出計 |
1967 | オリンパスペンFV | 一眼レフ |
1967 | オリンパスペンEED | 自動露出,大口径レンズ |
1968 | オリンパスペンEES-2 | 自動露出 |
1968 | オリンパスペンEE-2 | 自動露出 |
1973 | オリンパスペンEE-3 | 自動露出 |
1981 | オリンパスペンEF | 自動露出,フラッシュ内蔵 |
オリンパス・ペンシリーズは,「小さい」「安い」「よく写る」ということから,ほとんどの機種がよく売れたようだ。そのため,中古カメラ店を何件かまわれば,ほとんどの機種を入手できることだろう(もちろん,十分な予算は必要だが)。しかし,なかにはお目にかかる機会の少ないモデルもある。それがこの,オリンパス「ペンEM」なのである。
オリンパス「ペンEM」は,世界で初めて電子制御シャッターを採用したカメラとのことだ。それによって,30秒の長時間露光もできたという。「ローソク1本の光でも情景通りに」というのは,日本カメラショー「カメラ総合カタログVol.28」(1967年)に掲載されたヤシカ「エレクトロ35」の宣伝文句だが,それより先に,長時間露光が可能な電子制御シャッターを搭載したのが,オリンパス「ペンEM」だったのである。
オリンパス「ペンEM」の先進性は,シャッターだけではない。電動による巻き上げと巻き戻し機構を搭載したことも,注目すべき点だ。ただ,オリンパスのウェブサイトによると,「当時の生産技術では解決が難しい多くの問題が発生し、残念ながら1年余りで生産を終える。」(*1)とのことで,流通した台数がほかの「ペン」にくらべて少なく,中古カメラ店で見かける機会もあまりないというのが現状である。また,「解決が難しい多くの問題」が具体的にどのようなものかはわからないし,その問題が関係するのかどうかは知らないが,中古カメラ店で見かける「ペンEM」にはきちんと動作するものがほとんどない状況のようである。実際に,私がこれ以前に見たことのある「ペンEM」は,すべてが「故障品」だったし,それにもかかわらず数万円の値段がつけられていることもあった。
「八百富写真機店ディアモール店」で見かけたオリンパス「ペンEM」も,ご多分にもれず故障している。手にとって見れば,電池ボックスの内部が破損している。さらに,腐食の跡も見られるので,電気回路がダメになっている可能性が高い。おそらく,復活は不可能だろう。しかし,価格は1000円。「ペンEM」が1000円ならば,動かなくてもいい。そう考えるしかない。店員さんも,「ここ10年くらい,動くペンEMを見たことがない」と仰せであった。話半分に聞くとしても,実際に,使える状態にある「ペンEM」はかなり珍しい存在なのだろう。もし,そんな「ペンEM」を所有しておられる方があれば,ぜひともたいせつに,いつまでもたいせつにしてあげてほしい。
*1 http://www.olympus.co.jp/jp/corc/history/camera/pen.cfm
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