撮影日記


2010年09月05日(日) 天気:はれ

スペイン製のカメラって珍しいと思う

いま,「カメラ」といえば,まずは日本のブランドが連想されることだろう。また,現在,写真用フィルムを大規模に製造し販売しているのは,アメリカのコダックを除けば,日本の富士フイルムだけという状況である。いまや,世界の「写真」機材は,日本を中心に回っているのだ。
 だが,日本はけっして,写真の発祥の地ではない。
 写真を「発明」したのは,フランスのダゲールということになっている。それは,銀の化合物の化学反応により像を生じ,水銀によって「現像」するという「ダゲレオタイプ」の完成を意味している。これは銀めっきされた銅板に像を固定するもので,現在の写真とはまったく様相が異なる。ただ現在の写真も銀の化合物の化学反応を利用していることは共通しており,ダゲールは化学的な「現像」「定着」というプロセスを発見したことから,ダゲレオタイプが現在の写真のもとになるものとしてとらえることが多いようだ。ダゲレオタイプの完成は1837年,それが公開されたのは1839年とのこととされており,1839年を写真が発明された年として扱われるようである。
 写真を,銀にかぎらず化学反応により像を固定するものと考えれば,アスファルトの一種を利用したニエプスの「ヘリオグラフィ」を写真の発明ととらえることができる。このあたりのお話は,写真の歴史についての書籍でよく見かけるので,ご存じの方も多いだろう。ヘリオグラフィの発明は1822年,それによってカメラオブスクラの画像を固定した,最古の写真とされるものは,1826年のものとされている。そのほか,イギリスのタルボットが発明した「カロタイプ」をネガポジ法のもとになったものであるとし,これこそが現代の写真の礎になったという意見もあるようだが,以下の話が混乱するので,今日はふれないことにする。

ところで,「アサヒカメラ」1937年7月号に,興味深い記事があった。それによると,ニエプスよりも先に写真を発明した者がいたらしいというのだ。
 1937年といえば,ダゲレオタイプの発明の100年後である。その記事は,「ダゲレオタイプ発明百年記念 写真文化展覧会」を同年7月19日から29日まで東京の三越本店でおこなうという,案内を兼ねたものである。座談会形式のその記事では,「ニエプスが発明するより前に,ニエプスやダゲールが利用していたシュバリエという光学機器商に,撮影した写真と薬品とを置いていった者がいたが,それは誰なのか謎である」ということが語られていた。これに関連する発言をしていたのは,石黒敬七氏および成澤玲川氏ということになっているが,記事の雰囲気だけではうわさ話の域を出ないような印象も受ける。
 最近の写真の歴史を説明する書籍で,その謎の人物についての言及を見ることがないのは,結局,謎だからとりあげるわけにはいかない,ということなのだろうか。あるいは,現在ではそういう人物の存在は科学的に否定されているのかもしれない。

ともあれ。写真の発明者が,ダゲールであれニエプスであれ,いずれにしてもフランス人である。「写真」の発祥の地は,日本ではなく,フランスなのである。かつて,カメラといえばドイツ製だった時代があるが,「写真」の発祥の地はドイツでもなく,フランスなのである。
 しかしながら,現在,フランス製のカメラというものはあまり知られていない。SAVOYやFOCAのカメラが多少,流通しているくらいであろうか。また,日本およびドイツのほかには,大規模に流通するカメラをつくっていたのはアメリカとソ連くらいではないだろうか。それ以外の国のカメラは,決してメジャーな存在ではないのである。
 もちろん,日本やドイツ以外の国で,カメラが製造されていないわけではない。ローライの一部はシンガポールで製造されていたし,ライカの一部はポルトガルやカナダで製造されていた。最近では,日本のブランドのカメラが,中国やタイなどで製造されていることは珍しいことでもなんでもない。だから,冷静に考えれば,どこの国でカメラが製造されていても,決して驚くに値するものではない。

それでも,日本カメラショーの「カメラ総合カタログ」に,「スペイン製のおしゃれな110ポケットカメラ」という宣伝文句が書いてあったのは,強く印象に残っていた。そのカメラの名前は「ベルリーザ」という。当時,よく見られた簡便な110カメラの1つだが,「スペイン製」のカメラは珍しい存在なので,記憶に残っていたものだ。そんなカメラが,ディアモールの八百冨写真機店に,ぽつんと置かれていたのである。価格は400円,元箱つきなので保護するのにためらうことはまったくなかった。

元箱が残っていたせいか,傷もあまりなくきれいである。また,専用のストラップも付属しているが,取扱説明書が残っていないのは残念だ。
 さて,カメラ底部のボタンを押せばロックがはずれてカメラボディが左右に広がる。

このとき,シャッターレリーズボタンを押すことができる。シャッター速度は固定,お天気マークで絞りを調整するようになってる。撮影後,カメラを縮めて伸ばすことで,巻上げとシャッターのチャージがおこなわれる。縮めた状態でロックをかければ,収納スタイルになる。レンズにはCERTARという名称がつけられているが,カメラに焦点距離や開放F値の記載はない。
 こうなると,「カメラ総合カタログ」に仕様が載っていないかどうかが,気になるところ。問題は,それを見たのがいつごろだったのか,まったく覚えていないことだ。フラッシュが内蔵されておらず,必要があれば「フリップフラッシュ」を装着して使うようになっているので,そんなにあたらしいものではないだろう。1980年代半ばあたりから順に見返していく。何冊も見返していって,ようやく,「カメラ総合カタログ」vol.100(1991年)の「GOKO」のページに掲載されているのを見つけることができた。
 それによるとレンズは26mm,シャッター速度は1/80秒固定(フリップフラッシュ使用時は1/40秒),露出は「お天気マーク」によって絞りを調整するもので,「晴天」と「曇天」との切りかえ式。ということは,曇天が開放でF5.6,晴天がF11くらいだろうか?なお,ピントは固定焦点で調整不要という仕様である。そして,この「ベルリーサ 110 (WERLISA 110)」にはカラーバリエーションがあり,このブラックモデルのほかに,アイボリーとブラックのツートンカラーモデルがあったようだ。「カメラ総合カタログ」に掲載されているのはツートンカラーのモデルであり,これはたしかにカッコイイ。
 いずれ,よい出会いがあるものと期待したい。


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