撮影日記


2010年08月01日(日) 天気:はれ

210mmレンズのワイドな画面

「標準レンズ」というものがある。ただ,その具体的な定義はあるようでいて,ないようでいて,いまひとつはっきりしない。「標準レンズ」に対しては,より広い範囲を写すことができる「広角レンズ」と,より狭い範囲を限定して写すことができる「望遠レンズ」というものがある。しかし,「標準レンズ」の定義がはっきりしないのと同じように,「望遠レンズ」や「広角レンズ」の定義も,いまひとつはっきりしない。
 ライカ判(35mm判)カメラでは,焦点距離50mmくらいのレンズを「標準レンズ」とよび,それよりずっと焦点距離の短いものを「広角レンズ」,ずっと長いものを「望遠レンズ」とよぶわけだが,それらの境界が何mmなのか,決まっているわけではないようだ。ただ,一般的な交換レンズの焦点距離は,28mm,35mm,50mm,85mm,105mm,135mmのようになっており,35mmおよびそれより短焦点のものを「広角レンズ」,85mmおよびそれより長焦点のものを「望遠レンズ」とよぶようだが,それは習慣のようなものではないだろうか。たとえば「どれくらいの範囲を写せば,心理的にワイドに見える」などのような理論的なものがある,という類の話は,寡聞にして知らない。
 ただ,「標準レンズ」については,「画面の対角線の長さと同じ焦点距離」のレンズを「標準レンズ」とする,という考え方はあるようだ。なぜそれが都合よいのかは知らないが,たぶん,それくらいの焦点距離のものが,レンズの設計・製造にあたって性能を確保しやすいのだろう。

つまり,「標準レンズ」は,撮影の画面サイズ(フォーマット)によって,焦点距離が違うということである。たとえばライカ判の画面サイズは36mm×24mmなので,その対角線の長さは43mmである。43mmレンズが,ライカ判の「標準レンズ」ということになる。110判なら17mm×13mmなので,対角線の長さは21mmとなる。セミ判(6×4.5判)なら75mm,6×9判なら108mmと,画面サイズが大きくなるにしたがって,「標準レンズ」の焦点距離も長くなっていく。21mmレンズは,110判では「標準レンズ」であっても,ライカ判では「超広角レンズ」になるし,108mmレンズは6×9判では「標準レンズ」であっても,ライカ判では「望遠レンズ」になるのである。
 もっと大きな画面サイズでは,「標準レンズ」の焦点距離はもっと長くなる。たとえば4×5判(シノゴ)では約150mm,さらに8×10判(バイテン)では約320mmというぐあいだ。
 ただ,レンズの性能は,焦点距離だけで決まるものではない。レンズを通った光は円形の範囲内に像を結ぶのだが,それがどれだけの大きさをもっているかが重要である。イメージサークルというこの円形の範囲が,写したい画面の大きさをカバーしていなければ,その画面全体にわたって良好な画像を得ることはできないのである。110判用の21mmレンズをライカ判で使おうと思っても,イメージサークルの大きさが110判をカバーするぎりぎりの大きさしかないならば,結局,ライカ判で広角レンズとして使うことはできない。

「シノゴの日」や「ゴナナの日」に使った組立暗箱(2010年4月3日の日記を参照)には,4種類の画面サイズで撮ることができるような部品が付属していた。「シノゴの日」には4×5判用の部品を,「ゴナナの日」にはカビネ判用の部品を使ったわけだが,この組立暗箱で撮影できる最大のサイズは,「四切1/2」というサイズのようである。「四切1/2」とは文字通り,四切印画紙の半分の大きさ,152mm×254mmだ。
 このようなサイズのフィルムは,もはや販売されていない。したがって,印画紙を切って撮影することになる。「ゴナナの日」にカビネ判の印画紙で撮影したときと同じ要領(2010年4月25日の日記を参照)で,フジブロWP FM2を使い,フィルム用の現像液(今回はミクロファインを使用)で処理をすれば,このように大きな原版を得ることができるのである。

四切印画紙のサイズは,305mm×254mmである。これを半分に切ると152.5mm×254mmということになるのだが,その大きさでは撮り枠に入らないため,約1mmカットしている。さて,私の手もとにあるレンズのうち,このような大きな画面サイズに対応したイメージサークルのあるレンズは,FUJINON W 210mm F5.6とFUJINAR 21mm F4.5の2本だけ。印画紙で撮影する場合は,日中でも1秒くらいの長時間露光が必要になるので,シャッターを内蔵したFUJINON W 210mm F5.6の出番となる。
 「四切1/2」の対角線の長さは約300mmである。焦点距離210mmのレンズであっても,「標準レンズ」どころか「広角レンズ」として使うことになるのだ。しかも,「四切1/2」の縦と横の長さの比は,約5:3で,「長い」といわれるライカ判や6×9判の3:2よりも,さらに少し長いのである。したがって,その画面は,「パノラマ」とまではいわないが,ずいぶんとワイド感のあるものになるのである。

OKUHARA CAMERA, FUJINON W 210mm F5.6 (F11, 4sec), FUJIBRO WP FM2, Microfine (120sec)

四切印画紙を半分に切れば,ちょうどネガ用とポジ用に使えることになる。さっそく密着プリントしたものが下の画像である。冷蔵庫から出してすぐに使ったために水がついてしまったのだろうか,左のほうにムラができてしまったが,まあなんとか形にはなったようだ。


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