撮影日記


2010年07月18日(日) 天気:はれ

プリモフレックスの沼

立ち寄ったことのある方ならおわかりと思うが,梅田の「マルシンカメラ」は,お店に入って左側の下の方に,多数のジャンク扱いのカメラが並べられている。お店の間口は狭いが,奥行きはそれなりにある。お店に入って右側がカウンターになっており,正面と左側にショーウィンドウがある。カウンターの下や後にも多数のカメラが陳列されているが,それらは当然ながら,お店の方に頼んで出していただかなければ,手にとって見ることはできない。それに対して左側のショーウィンドウの下にジャンク扱いで並べられているカメラは,自由に手にとって見ることができる。価格が安いことに加え,自由に手にしてたしかめられるのが,ジャンク扱いのカメラが並べられている「ジャンクコーナー」の魅力なのだ。
 左側のショーウィンドウの下の「ジャンクコーナー」に並べられているのは,おおよそディジタルカメラ,35mm判一眼レフカメラ,35mm判レンズシャッターカメラという具合にまとめられている。そのさらに店の奥には,ジャンク扱いのレンズが並べられている棚と,さまざまなジャンクカメラやケースなどが無造作につっこまれたようなカゴがある。そのカゴには,年末ころには3990円でいろいろなボックスカメラがつっこまれていた(2009年12月15日の日記および2010年2月6日の日記を参照)。6月に訪れたときは,そこにボックスカメラの姿はなく,かわっていろいろな二眼レフカメラがやはり3990円でつっこまれていた(2010年6月19日の日記を参照)。この「3990円」という価格はクセ者である(笑)。なぜ,こうも中途半端なのか。なぜ,きっちり4000円ではないのか。あるいはよくあるサンキュッパ(3980円)ではないのか。思うに,「マルシンカメラ」ではポイントカードが用意されており,購入金額2000円ごとに1個,スタンプを押してくれる。3990円というのは,「スタンプを1個しか押さなくてもよい,もっとも高い金額」と考えられるのである。いや,それは考えすぎで,単に3800円に消費税を加えた金額として設定されているのかもしれない。実際に,4200円や1575円という価格が設定されている商品も多いのだから。
 ボックスカメラや二眼レフカメラには大いに興味があるものの,その3990円という価格が,実に絶妙に感じられるのである。決して高くはない。でも,なんでもいいからと衝動的に買うには高く感じられるのである。ところが昨日は,3990円均一に思われた二眼レフカメラのなかに1つだけ,安価なものが混じっているのに気がついたのである。

それはこの「プリモフレックス」である。
 なぜ,これだけが安いのだろうか?
 こういうときは,どこか大きなダメージがあるものだ。まず可能性としてあげられるのは,シャッターの故障。さっそく,シャッターを動かしてみる。ところがこれが,意外なほどスムースに動作するのだ。であれば,レンズが激しくカビに汚染されている可能性が高い。ところが,別段,レンズが汚れていたりするようすはない。フードを開いて覗いてみても,ファインダー関係にダメージがあるようには見受けられない。この「プリモフレックス」の巻き上げ機構は,セミオートマットになっている。単純な「赤窓式」と違って故障する可能性があるところだが,フィルムを入れて試すことはできない。しかし,とくに問題がありそうに思えない。
 そのとき,はっと気がついた。
 側面の革が,まったくないのである(笑)。単に革が劣化してなくなってしまったのか,どこか故障があって修理のために革を剥がされてしまったのか,そのあたりはわからない。いずれ,もう少し詳しく調べてみなければならない。

「プリモフレックス」は,東京光学が製造した二眼レフカメラである。東京光学といえば,トプコンだ。これが私にとって2台目のトプコン製品ということになる(2009年3月2日の日記を参照)。
 さて,この種の二眼レフカメラが多く出回っていたのは,1950年代である。その当時,二眼レフカメラの名称は,頭文字がAからZまで,全部そろっていた(実際には,全部ではない)と言われたくらい,数多くの種類の二眼レフカメラが流通していたのである(2007年3月13日の日記を参照)。そのころの雑誌等で広告を参照すれば,二眼レフカメラの新製品のオンパレードだ。それらの二眼レフカメラを製造したメーカーのなかには,カメラメーカーとして短命に終わったものも少なくないようだが,二眼レフカメラのブームが過ぎ去ったあとにもカメラメーカーとして,一定の評価を確立していたメーカーもある。トプコンも,そんなメーカーの1つだ。トプコンは後に,35mm判一眼レフカメラでも一定の高い評価を得るようになるが,AE化の流れには十分に乗りきれなかったようで,AF化の時代の前に静かにカメラ市場からは姿を消している。
 さて,入手した「プリモフレックス」に搭載されたレンズはJ.Simlar 7.5cm F3.5,シャッターはKONIRAPID-Sである。「アサヒカメラ年鑑1953」を見ると,大沢商会の広告に3種類のプリモフレックスが掲載されている。IA型およびIB型は,トーコー75mm F3.5レンズにレクタスシャッターが搭載されているのに対し,II型は,J・シムラー(広告では「シラムー」になっているが,たぶん誤植であろう)75mm F3.5レンズにコニラピッドSシャッターが搭載されている。つまり,入手したものは「プリモフレックスII」ということになるようだ。また,「アサヒカメラ年鑑1955」を参照すると,「プリモフレックスIIIA」「プリモフレックスIVA」が掲載されているが,これらもトーコーレンズにレクタスシャッターなので,入手した「プリモフレックス」は「PRIMOFLEX II」で間違いないだろう。また,「プリモフレックスII」の発売は,1952年ころということになるだろうか。
 残念ながら,「アサヒカメラ年鑑1953」には,「プリモフレックスII」の価格は掲載されていない。「アサヒカメラ1954年8月号」の広告に掲載されている「プリモフレックス」は,トーコーレンズ,レクタスシャッター,自動巻き止めで,さらに「特殊ピントグラストーコーブライド」との記載があるので,「プリモフレックスIIIA」であろうか。その価格は23000円とのこと。価格的には,「リコーフレックス」「ビューティフレックス」「ヤシカフレックス」など10000円クラスのものよりは高く,舶来品よりは安いということで,「プリモフレックス」シリーズは「中級品」という位置づけになるだろうか。
「カメラレビュー別冊 クラシックカメラ専科3」(朝日ソノラマ,1983年)を参照してみれば,「プリモフレックス」はI型からはじまってオートマットまで,10種類もあるらしい。「プリモフレックスII」だけが搭載しているJ.Simlarレンズは,「アサヒカメラ年鑑1953」の広告によれば,「全面ハードコーティング四枚構成鏡玉」とのことである。トーコーレンズはレンズ構成について言及していないので,おそらく3枚玉であろう。「プリモフレックスII」は,全体として中級品だと考えられる「プリモフレックス」のなかでは,ちょっと高級なモデルということになるようだ。
 この時代の二眼レフカメラの世界は,比較的メジャーな存在のブランドのものだけに限定して考えても,かなり深い「沼」になっているようだ。不用意に近づかないのが「吉」かもしれぬ。


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