撮影日記


2010年04月02日(金) 天気:晴

ソルントンシャッター

ライカというカメラがある。ボディもレンズも完成度が高いとされており,それらの組み合わせで撮影を楽しむのが一般的であろうが,ほかにも楽しみ方ははいろいろあるようだ。とくにバルナック型とよばれる古いライカは,いろいろな国のいろいろなメーカーで模倣されてきたため,さまざまなメーカーのボディやレンズ等を組みあわせた撮影も楽しめるのである。ライカのボディにライカのレンズではなく,キヤノンのボディにライカのレンズをつけたり,あるいは逆に,ライカのボディにキヤノンのレンズをつけたりすることができる。旧ソ連製のカメラ,レンズと組み合わせることも,一時期「ロシアンカメラブーム」として流行したようだ。近年の主流である35mm判一眼レフカメラの多くは,メーカーによってボディとレンズを接合する部分(レンズマウント)の形状が異なるため,ライカのように異なるメーカーの製品を組み合わせるという楽しみ方ができない。それどころか,機能拡充のためにレンズとボディとの間でさまざまな情報をやりとりする必要が生じるようになったことから,同じメーカーの同じシリーズの製品であっても,ボディとレンズの組み合わせによっては,十分に使えないケースも生じているのが現状だ。
 いろいろなレンズやボディの組み合わせが可能なのは,大判カメラも同様である。大判カメラというと「プロ用」「業務用」というイメージや,「アオリ」などの高度な機能が搭載されているものと考えてしまいがちであろうが,しくみとしてはむしろプリミティブなものである。すなわち,光の入らない空間(箱)の前にレンズを取りつけるための枠,後にフィルムを取りつけるための枠があるだけのものだ。「アオリ」ができるという特徴も,レンズとフィルムの平行を自分であわせなければならないと考えれば,進んだ高度な機能なんかではないことを理解しやすいだろう。
 だから,4月1日の日記でも書いたように,いつもTACHIHARA FIELSTAND45で使っているFUJINON W 150mm F5.6を,なんの違和感もなくOKUHARA CAMERAというよくわからないカメラで使うことができるのである。

ところで,FUJINON W 150mm F5.6は,レンズにシャッターが内蔵されている。このようなシャッターは,レンズシャッターと呼ばれる。交換レンズにレンズシャッターを内蔵させると,どうしてもレンズの価格が高くなる。また,とくに機械制御のシャッターの場合,その誤差のために,レンズによってシャッター速度が微妙に違ってくることが見逃せない問題になることもある。そのためか,35mm判(ライカ判)やセミ判の一眼レフカメラなどでは,カメラボディにフォーカルプレンシャッターを内蔵させ,レンズにはシャッターを内蔵させないタイプのものが多い。レンズにシャッターを内蔵させないなら,大口径化もやりやすくなるというものだ。
 最近の大判カメラや中判カメラ用のレンズには,レンズシャッター式のものが多い。これら大型カメラはスタジオでの撮影に使われることも多く,そこでは大型のフラッシュが使われることになる。フォーカルプレンシャッターの場合,最近の35mm判一眼レフカメラでこそ,フラッシュ撮影時のシャッター速度に1/250秒などの高速シャッターが使えるようになっているが,かつては1/60秒くらいのものが中心だった。画面の大きな中判カメラでもフォーカルプレンシャッターを採用している例があるが,その広い画面を覆うだけのシャッター幕が動くにはそれなりの時間がかかるため,どうしてもフラッシュ撮影時のシャッター速度の制約が生じる。その点レンズシャッターの場合,シャッターの最高速は1/400秒や1/500秒くらいにすぎないが,全速度でフラッシュ撮影が可能である。フラッシュ撮影が中心であれば,レンズシャッターはたいへん有利なのである。
 だからといって,大判カメラ用のレンズのすべてがレンズシャッター式というわけではない。かつてフォーカルプレンシャッターを装備した大判カメラも実際に使われていた。そのようなカメラでは,シャッターもピント調整のためのヘリコイドもたず,ただ絞りだけが組みこまれたようなレンズが使われる。こういうレンズは,バレルレンズと呼ばれている。

このレンズは,FUJINAR 21cm F4.5というものだ。見ての通り,このレンズにはシャッターもなければピントリングもない。ただ,絞りだけはある。このようなバレルレンズは,フォーカルプレンシャッターを内蔵した大判カメラで使うことができる。そして,フォーカルプレンシャッターを内蔵していない大判カメラで使うときには,このようなシャッターユニットを併用する。

このようなシャッターユニットは,ローラーブラインドシャッターと呼ぶのが正しいらしい。しかし,ソルントンという会社の製品が有名だったためか,ソルントンシャッターと呼ばれることが一般的になったようだ。ヘッドホンで聴く小型のステレオカセットプレーヤが,どこのメーカーの製品であっても「ウォークマン」と呼ばれるようになったことと,似たような現象であろう。
 ソルントンシャッターは,バレルレンズの前面に取りつけて使う。

シャッター速度は,1/15秒から1/90秒まで。設定できる範囲は狭いが,細かく設定できる。ただ,製造から随分と年月の経過したこのシャッターに,そこまでの精度があるのかどうかは,甚だ疑問である。

シャッター速度を設定したら,つまみを回してシャッターをチャージする。そして,ケーブルレリーズを使ってロックを解除すれば,設定した時間の露光ができる。今年の「シノゴの日」では,これまで実際に使うことがほとんどなかった,OKUHARA CAMERAの組立暗箱,FUJINAR 21cm F4.5とこのシャッターで撮ることにしようと考えるのであった。


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