撮影日記


2009年10月14日(水) 天気:曇一時雨のち晴

フィルムの値段,わかっていますか?

かつてボルタフィルムもラインアップさせていた「ライトパン」フィルム。その宣伝コピーには「手頃の長さ 手頃の値段」というものがあった。たとえば「カメラ総合カタログvol.69」(1980年)などに見られる。実際にそのときにラインアップされていたものは,パトローネ入り35mmフィルム(135フィルム)のネガカラーで,10枚撮りと20枚撮り。一般的なコダックやフジ,コニカ(さくら)のフィルムのラインアップは12枚撮り,24枚撮り,36枚撮りで,ライトパンフィルムは「少し短め」であることが「手頃の長さ」の根拠のようである。
 ライトパンのなかみがフジのフィルムであることがよく知られていたとしても,マイナーなブランドのフィルムがメジャーなブランドのフィルムと同じ価格で売れるとは思えない。なまじ詳しい人であればボルタフィルムの存在も知っていて,「ライトパンって,おもちゃカメラのフィルムを出しているメーカーでしょ?」と,おもちゃ扱いされかねない。だからこそ「手頃な値段」もアピールしたかったことは,想像に難くない。

では,ライトパンフィルムには,ほんとうに安い値段がつけられていたのだろうか?

日本カメラショーの「カメラ総合カタログ」や「写真用品ショー」カタログなどには,ライトパンフィルムのラインアップとともにその価格も記載されている。では,フジのフィルムの価格はどうなのだろう?「写真用品ショー」カタログの富士写真フイルムやフジカラー販売のページを参照するが,そこにはフィルムのラインアップは掲載されていない。コニカ販売のページを参照しても,フィルムのラインアップは掲載されていない。コダックや長瀬産業などは,そもそも掲載されていない。
 「日本カメラショー」のカタログを参照すれば,その表紙裏(表2)や裏表紙(表4)にはたいてい,フジやコニカのフィルムの広告が掲載されている。しかしそれは,主力商品や新製品の存在をアピールするために使われており,ラインアップを紹介するために使われているわけではないようだ。また,アピールしたいはずの新製品であっても,フィルムの価格は掲載されていない。
 いろいろと参照しているうちに,「写真用品ショー」カタログの巻末に,フジフイルムのモノクロ関連の製品の価格は掲載されていた年があった。しかしながら,もっとも一般的な存在と言えるはずのカラーネガフィルムの価格を,これらのカタログから知ることができないのである。

そう,実は一般的なフィルムの価格(メーカー希望小売価格)を知らない自分に気がついたのである。知らないだけではなく,知る術をもっていないのである。あるいは,フィルムは早い時期に「オープン価格」が一般的になっていたのであろうか。
 さて,ライトパンフィルムの広告は,1984年以前の「写真用品ショー」カタログには掲載されていない。そこで,昨日の日記の続きとして,「カメラ総合カタログ」を1979年以前にもさかのぼってみることにした。

フィルムの価格の変遷
(1979年〜1972年)
富士コニカ愛光参照
1979 フジカラーF-II
フジカラーF-II400
 不明
サクラカラーII
サクラカラー400
 不明
ライトパンカラー
 135-10  300円
 ラピッド 490円
 ボルタ  300円
ライトパンSS
 135-16  200円
 120-6  165円
 ボルタ  140円
「カメラ総合カタログ」vol.64,1979年
1978 フジカラーF-II400
 不明
サクラカラー400
 不明
ライトパンカラー
 135-10  350円
 ラピッド 490円
ライトパンSS
 135-16  200円
 120-6  165円
 ボルタ  140円
「カメラ総合カタログ」vol.61,1978年
1977 フジカラーF-II400
 不明
サクラカラー24
 不明
ライトパンカラー
 135-10  350円
 ラピッド 430円
ライトパンSS
 135-16  200円
 120-6  165円
 ボルタ  140円
「カメラ総合カタログ」vol.58,1977年
1976 フジカラーF-II
 不明
サクラカラー24
 不明
ライトパンカラー
 135-10  350円
 ラピッド 430円
ライトパンSS
 135-16  180円
 120-6  140円
 ボルタ  120円
「カメラ総合カタログ」vol.57,1976年
1975 フジカラーF-II
 不明
サクラカラーII
 不明
ライトパンカラー
 135-10  350円
ライトパンSS
 135-16  180円
 120-6  140円
 ボルタ  120円
「カメラ総合カタログ」vol.54,1975年
1974 フジカラー
 不明
サクラカラー
 不明
アイコーカラー
 135-10  260円
ライトパンSS
 135-16  120円
 120-6  130円
 ボルタ  100円
「カメラ総合カタログ」vol.50,1974年
1973 ネオパンSSS
 135-20  150円
 135-36  190円
 120-12  180円
サクラカラー
 135-12  290円
 135-20  420円
 135-36  580円
アイコーカラー
 135-10  220円
ライトパンSS
 135-16  100円
 120-6  100円
 ボルタ   70円
「カメラ総合カタログ」vol.46,1973年
1972 フジカラー
 135-12  290円
サクラカラー
 135-12  290円
 135-20  420円
 135-36  580円
ライトパンSS
 135-16  100円
 120-6   85円
 ボルタ   70円
「カメラ総合カタログ」vol.44,1972年

愛光商会は毎年,きちんと広告を掲載している。そのため,ライトパンフィルムのラインアップや価格の変遷は,ほぼ追っていくことができる。その結果,愛光商会がネガカラーフィルムを発売したのは1973年であり,1974年までは「アイコーカラー」という名称で販売されていたことがわかる。「ライトパンカラー」という名称になったのは1975年のことのようだ。
 ところが,フジもコニカもずっとフィルムの値段を記載していない。1973年までさかのぼってようやく,フジのネオパンSSSとサクラカラーの価格が掲載されているのを確認できた。ライトパンカラー(アイコーカラー)とサクラカラーの価格が共存しているのは,この年だけのようである(フジカラーとの共存は確認できなかった)。
 このときのライトパンカラー(アイコーカラー)は10枚撮り220円だから,1枚あたり22円。サクラカラーは12枚撮りで290円だから1枚あたり24円以上。「ライトパン」フィルムは,その短さに見合った以上の安価な価格がつけられていたのはたしかなようだ。そうは言っても,次第に大規模小売店での値引き販売が盛んになってきたころには,メーカー希望小売価格の多少の差は,必ずしも販売に有利な条件とはならなくなっていったのではないだろうか。
 なおその前年,1972年は,フジカラーもサクラカラーも12枚撮りは290円のようだから,少なくともメーカー希望小売価格レベルでは,フジもサクラも同じようなものだったと思われる。
 ちなみに,「4枚増えて値段は同じ」というCMが有名な「サクラカラー24」は,1976年に登場したようである。


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