撮影日記


2009年09月07日(月) 天気:晴

半自動絞り

1960年前後には,日本のメーカーから,多数の35mm判一眼レフカメラが発売された。1950年代前半の「二眼レフカメラブーム」ほどではないが,実に多くのブランドが登場している。ペンタックス,ミノルタ,ニコン,キヤノンなど,ごく最近まで「一眼レフカメラ」市場をにぎわしていたブランドの多くがこの時期に一眼レフカメラを発売しているが,そのほかにもヤシカ,コニカ,ペトリ,ミランダ,トプコン,マミヤなどのブランドでも35mm判一眼レフカメラが発売されていた。
 それまで,高級システム小型カメラといえば,一眼レフカメラではなく,ライカのような距離計連動ビューファインダーシステムカメラ(いわゆるレンジファインダーカメラ)であった。ビューファインダーシステムカメラの分野には,ライカやコンタックスという巨頭が存在したこともあるが,それまでの一眼レフカメラは「使いにくい」「特殊な用途」のカメラとみなされていたのである。

一眼レフカメラの「使いにくい」要素は,大きく3つが指摘されていた。
 初期の一眼レフカメラは,ウエストレベルファインダーになっていた。これは,二眼レフカメラのように,カメラを上から覗きこむようにして使うものである。ファインダースクリーンに写る像は,左右が反転したもの。したがって,アイレベルに構えることができる(しかも,ファインダーの像が反転していない)ビューファインダーカメラの方が扱いやすかったのである。
 初期の一眼レフカメラは,シャッターを切ると,ミラーがあがったまま降りてこなかった。次にフィルムを巻き上げるなどの操作をおこなうまで,シャッターを切ったあとの視野にはなにも見えないのである。この点でも,一眼レフカメラは扱いにくいカメラだと考えられていた。
 一眼レフカメラには,ビューファインダーカメラとは違って,写したい範囲を厳密に決めることができる特徴がある。そのため,超望遠レンズによる撮影,接写,顕微鏡を使った撮影などの特殊な用途では強みを発揮する。だから,通常のレンズでの撮影でも,それらの特徴は活かせるはずなのだが,暗いレンズを使うと視野は暗く,ピントあわせが難しくなるのである。開放F値の小さな明るいレンズを使っていても,絞りこんでしまうと視野はやはり暗くなる。ただ暗いだけでなく被写界深度も深くなるので,ピントの山がわかりにくくなるのだ。つねに明るく,つねに一定の精度でピントあわせのできる,距離計連動ビューファインダーカメラの方が扱いやすいと考えられていたのである。

1954年発売のAsahiflex 1aには,ペンタプリズムファインダーも,クイックリターンミラーも,自動絞りもなかった。
(Asahiflex 1a, Takumar 5cm F3.5)

しかし,一眼レフカメラは,改良が重ねられた。
 まず,1949年のContax Sにはじめて搭載されたペンタプリズムファインダーによって,左右逆像の問題は解消された。しかも,アイレベルでの撮影が可能である。
 つぎに,1954年のAsahiflex IIbでは,シャッターを切ったあとにミラーがすぐにもとの位置にもどる,クイックリターンミラーが実現された(実際には,1948年にハンガリーのDuflexというカメラにおいて,はじめてクイックリターンミラーが実現されている)。
 そして,さらに1958年のZunowにおいて,露光中だけ絞りこまれる,完全な自動絞りが実現している。これらの技術が出そろって,一眼レフカメラがようやく,表舞台に立てるようになったといえるだろう。
 1960年ころというのは,ちょうどそんな時期である。

その時代の一眼レフカメラとして,中古カメラ店でよく見かけるものに,MINOLTA SR-1というカメラがある。ミノルタSRシリーズとされるカメラには多くの機種があるが,「1」というからにはそれが最初のモデルだろうと思うところだ。だが,実際には1959年に発売されたSR-1は,1958年に発売されたSR-2の廉価版である。SR-1は,SRシリーズ最初のカメラではない。
 「サンケイカメラ」1959年9月号において,MINOLTA SR-1を新製品として紹介する記事がある。それによると,「一軸不回転ダイヤル式シャッター 1〜1/500秒」「クイックリターンミラー」「自動絞り」が特徴として指摘されている。
 そんな時代なのである。

ただ,MINOLTA SR-1の自動絞りは,完全自動絞りではなく,半自動絞りとでもよばれるべきもの。雑誌やカタログ等では「オートプリセット絞り」と称していた。どこが不完全だったのかというと,シャッターレリーズ後にレンズが開放にもどらず,絞りこまれたままなのである。次の巻き上げをおこなってはじめて,レンズが開放に復帰する。
 なお,MINOLTA SR-1は年々マイナーチェンジが重ねられ,後のバージョンでは完全自動絞りが実現されている。

初期のミノルタSR-1の自動絞りは,「完全自動絞り」ではなかった。
(MINOLTA SR-1, AUTO ROKKOR-PF 55mm F1.8)

東ドイツのエキザクタは,最初の35mm判一眼レフカメラとして知られている(実際には,ソ連のスポルトというカメラの方が先に登場したといわれている)。第二次世界大戦後のエキザクタでは,ファインダーが交換可能になり,ペンタプリズムファインダーも用意された。クイックリターンミラーは実現されていなかったが,レンズ側の工夫で「半自動絞り」が実現されていた。レンズの絞りを設定し,レンズ鏡胴部のレバーを操作すると,絞りが開放状態になってロックされる。レンズにはボタンがあり,レンズをボディに装着すると,このボタンがボディのシャッターレリーズボタンに重なる位置にくるようになっている。レンズのボタンを押しこんでいくと,まずレンズの絞りが設定したところまで絞りこまれ,さらに押しこんでいくとボディのシャッターレリーズボタンも押しこんでシャッターが切れるというしくみである。その後さらに,レンズのボタンを押しこんでいる間だけ絞りこまれるようなレンズも登場し,完全自動絞りが実現されている。
 1950年代末期に登場したMINOLTA SR-1は,クイックリターンミラーを有し,不完全な面があるとはいえ自動絞り機構がボディに組みこまれた近代的な一眼レフカメラであるといえる。一方,1950年代前半に登場したEXAKTA VXは,ボディにはクイックリターンミラーや自動絞りに関する機構がまったくない,古典的な一眼レフカメラであるといえる。

EXAKTAには自動絞りレンズが用意されていた。
(EXAKTA Varex VX, JENA T 50mm F2.8)

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