撮影日記


2008年10月20日(月) 天気:晴

TENAXのシャッター

ゲルツのテナックスは,私の手元にあるカメラのなかで,たぶんもっとも古いものである。以前,知人に見せていただいた資料では「1910年〜1925年の製造」と書かれていた。ウェブサイトを検索してみれば,「1909年製造」「1912年製造」など,製造時期について,何種類かの説があるようだ。古いカメラであること(1909年からの製造だとすれば,およそ100年前のカメラということになる),その後にメーカーが消滅していることなどから,諸説入り乱れる状況になったのかもしれない。また,発売期間を示しているのではなく,その個体の製造/発売年を示しているケースもあるのかもしれない。もしかすると,それらのなかには,誤認等も含まれているかもしれない。ともあれ,「1910年頃〜1925年頃の製造」と考えておけば,大きな間違いにはならないものと思う。

ゲルツ テナックス (C.P.Goerz Vest Pocket TENAX)
折りたたむと,こんなにコンパクト。

Vest Pocket TENAXの機構で,もっとも特徴的なものは,シャッターである。
 多くのシャッターでは,露光時間を調整できるようになっている。シャッターが開いた後に,なんらかの機構をはたらかせて時間を稼ぐことで,指定時間後にシャッターを閉じるというものだ。
 最近の「電子制御式」シャッターでは,たとえばクォーツで時間を測定することで,シャッターを閉じるまでの時間を指定するようになっている。古くからの「機械制御式」シャッターでは,たとえばガンギ車やテンプなどを用いたガバナーというメカニズムが組みこまれており,これによってシャッターが閉じるまでの時間が指定される。TENAXに搭載されたシャッターは,シャッターを開いておく時間を調整するために空気ポンプが利用されている。これによって,1/250秒から1秒まで,(たぶん)無段階に調整される。

シャッター速度の目盛は,1/250秒〜1秒まで。

機械制御式シャッターで,たとえば1/2秒くらいのスローシャッターを切ると,「チッ,ジーー,チャッ」という感じの音が聞こえる。シャッターが開いている間に聞こえる「ジー」という特徴的な音は,ガバナーというメカニズムが,時間を刻んでいる音だ。それに対して,電子制御式シャッターでは,「ジー」という音は聞こえない。シャッターが開閉するときの「チッ,(無音),チャッ」という音だけである。TENAXのシャッターは,電子制御式シャッターと同様に,シャッターが開いているときは無音である。とても静かなシャッターである。ご愛用のカメラに「爪の垢でも煎じて飲ませたい」と思ってしまう人もおられるに相違ない。(笑)

レンズの上部にあるレバーは,シャッターのモードを切り替えるものである。
 通常の撮影時は,レバーを右側「M」にしておく。シャッターレリーズの操作をおこなうと,シャッター速度ダイアルに応じた露光が,フィルムにあたえられる。
 レバーを中央「B」にすると,シャッターレリーズレバーを下げている間だけ露光がおこなわれる「バルブ露出」になる。シャッターレリーズレバーから手を離すと,シャッターが閉じる。
 レバーを左側「Z」にすると,シャッターレリーズレバーを操作するとシャッターが開き,もう一度,シャッターレリーズレバーを操作するとシャッターが閉じる「タイム露出」になる。

シャッターモードの切り替えレバー。
左「Z」:タイム,中「B」:バルブ,右「M」:シャッター速度ダイアルによる

Vest Pocket TENAXには,Dagorレンズが搭載されているものも多いようだが,このテナックスには,Dogmar 7.5cm F4.5が搭載されている。シャッター速度ダイアルの隣にある,絞りダイアルを見ると,このレンズの開放F値である4.5からはじまり,6.3,9,12.5,18,25と続き,一般によく見られる値(4,5.6,8,11,16,22,32)とは異なっている。しかしどちらも,1.4倍ずつになっており,「1段開く」「1段絞る」という露出操作の感覚は同じである。4.5,6.3,9,・・・と刻んでいくのは,大陸系列(あるいは大陸絞り)とよばれているようだが,その名称の由来はよく知らない・・・・。

絞りの値は,大陸系列になっている。

← 前のページ もくじ 次のページ →