撮影日記


2008年10月19日(日) 天気:晴

「どどっと400」をもてあそぶ

ニコン「おもしろレンズ工房」は,「魚眼レンズ風」「マクロ」「ソフトフォーカス」「超望遠」の4種類の撮影を楽しむことができるレンズのセットである。1995年に限定販売された後,2000年に小改良が加えられて再発売された。安価であるにもかかわらず,いろいろな撮影が楽しめることや価格の割に描写もしっかりしていることなどで,かなりの人気商品となった。そのころ,中古カメラ店の店頭に,メーカー希望小売価格とあまり変わらない値段がつけられて並んでいたのを,よく見かけたものである。
 私の手元にある「おもしろレンズ工房」は,そのずっと後,2002年ころに5000円くらいで購入した中古品である。メーカー希望小売価格と大差ない中古価格を何度も目にしてきた者としては,実に安い「お買い得品」であると感じたものだ。

ニコン おもしろレンズ工房/入手時,附属のシール,説明書,箱などは,すでに失われていた。

「おもしろレンズ工房」に含まれる,4種類3本のレンズは,どれもどちらかというと特殊なレンズに分類される。
 「ぎょぎょっと20」(Fisheye Type 20mm F8)は,超広角レンズである。しかも,魚眼レンズ風の歪曲した画像が得られるようになっている。最近,一眼レフカメラを買えば「標準ズームレンズ」がセットになっているのは当然である。「Wズームセット」がセットになっていたり,「高倍率ズームレンズ」がセットになっていたりすることもある。それらのレンズでも,20mmクラスの超広角レンズに相当するものが含まれていることは,まずないだろう。ましてや,さらに広い範囲を写しこむ魚眼レンズは,標準的にセットされて販売されるようなものではない。また,よほどの目的がなければ,わざわざ購入されることもないであろう。
 「ぐぐっとマクロ」(Macro 120mm F4.5)と「ふわっとソフト」(Soft 90mm F4.8)は,1本のレンズであるが,部品を組みかえることで「マクロレンズ」と「ソフトフォーカスレンズ」の2通りに使い分けられるものである。標準ズームレンズなどでは,「マクロ機構つき」と称して,被写体にかなり接近して撮影することができるようになっているものもある。ただし一般的に,それらのレンズで「マクロ域」とされる範囲については,画質的に補償されていない位置づけになっている。また,撮影倍率は,1/3〜1/4倍程度までである。専用のマクロレンズの撮影倍率は,おおむね1/2〜1倍なので,マクロ撮影を楽しむなら,やはりマクロレンズがほしいところだ。なお,撮影倍率が「1倍」というのは,36mm×24mmの範囲を,フィルム上の36mm×24mmの範囲に写しこめるという意味である。フィルム上の画像の大きさが「実物大」になる,という意味だ。「1/4倍」というのは,72mm×48mmの範囲が,フィルム上の36mm×24mmの範囲に写しこまれる。「ぐぐっとマクロ」の撮影倍率は1/3倍であるが,部品を組みかえて「さらにぐぐっとマクロ」にすると,1/1.4倍の撮影を楽しむこともできるようになる。この部品をさらに組みかえると,ニコンの製品として唯一の「ソフトフォーカスレンズ」である「ふわっとソフト」になり,ソフトフォーカス撮影を楽しむことができるようになる。
 「どどっと400」(Tele 400mm F8)は,超望遠レンズである。「Wズームセット」でも,カバーしているのはせいぜい300mmまで。それを越える超望遠レンズは,一般には使う機会の少ないレンズなのである。

そんな4種類のレンズのなかで,私がもっともよく利用するものは,「ふわっとソフト」である。先にも書いたし,以前の日記にも書いているが,「ニコンの製品として唯一のソフトフォーカスレンズ」であり,私が所有している唯一のソフトフォーカスレンズであるから,たまに「ソフトフォーカス撮影」をしようと思ったときには,これを使うしかないのである(2008年4月12日の日記を参照)。
 逆に,もっとも利用する機会がないものは,「どどっと400」である。まず,そんな超望遠レンズを使いたいと思う機会は,決して多くない。たいていの場合,300mmまであれば間に合うし,300mmレンズや300mmまでをカバーするズームレンズは何本か所有している。一方,300mmよりも長いレンズを使いたいときは400mmくらいでは物足りず,Reflex-NIKKOR 500mm F8の出番となる。場合によっては,テレコンバータの力を借りることにもなるだろう。
 「ぎょぎょっと20」については,魚眼レンズ風のデフォルメ効果がおもしろい。ときどき,試したくなるレンズである。

ということで,今日はほとんど使ったことのなかった「どどっと400」であそんでみることにした。
 つまり,ここまでが「前置き」であり,以下が本題となる。
 「前置き」にくらべれば「本題」が一瞬で終わってしまうことは,ご容赦賜わりたし。いや,本題が短いがゆゑなればこそ,前置きで増量しているのである(^_^;

秋になると,太田川放水路に釣り糸を垂れる人の姿が増えてくる。天気のよい週末ともなれば,かなりの人がずらずらずらっと並ぶようになる。この時期は,河口近くの岸壁などでは,ハゼなどがよく釣れるようになるそうだ。私は,釣りのことについてはよく知らないが,ハゼ釣りは,釣りの入門に適したものだとか。実際にそうであるならば,人がこれだけ多いのもうなずけるというものである。
 日に日に,日没が早くなってくるこの時期。15時くらいには,太陽の位置はかなり低い。満潮に近く,太田川放水路の水位も高い。川面がまぶしく輝きだすころ,その煌きのなかで,川岸の釣り人たちが美しくシルエットを描きはじめる。背景になる川面の反射を存分に引きつけられる,超望遠レンズの出番だ。

Nikon FM, Nikon Tele 400mm F8, EBX

低い角度の光線は,しばし印象的な陰影を生み出してくれるものである。
 「どどっと400」のよいところは,なんといっても「軽い」ことである。300mmクラスの単焦点レンズ(F2.8やF4というものが一般的だろう)とくらべれば,「どどっと400」のF8という口径比は,実に暗いものである。それらの単焦点レンズは,鏡胴のつくりもしっかりしており,とても重いものに仕上がっている。300mmをカバーするズームレンズの廉価版には,プラスチックを多用した鏡胴を採用して軽量化を意識した製品も見られるが,使われているガラスレンズの枚数も多い。それに対して「どどっと400」の光学系を構成するレンズは少なく,2群4枚というシンプルなものになっている。鏡胴もシンプルなもので,結果としてたいへん軽いレンズにしあがっている。
 小型軽量化を目指した超望遠レンズとしては,反射光学系を採用したものがある。反射鏡を利用して鏡胴内で光が1往復半するようになっていることが,鏡胴を短くすることに貢献している。「どどっと400」は,鏡胴がネジこみ式で2つに分離できるようになっており,収納時には長さが半分になる。このシリーズのレンズが「おもしろレンズ工房」とよばれるのは,このように簡単な「組み立て」がともなうからである。そう,ねじりこむだけではあるが,レンズの組み立てをも体験できる製品なのだ。ニコンFマウントのカメラを使っている人は,このような楽しいレンズをぜひ,入手しておくべきだ。なお,これらのレンズはAFではない。また,一部のカメラでは露出計が使えないが,この日記を読んでくださっている方には,ここであらためてそれらの注意を促す必要はないだろう。
 ともあれ今日は,「どどっと400」の軽さとその実用性を,再認識することになってしまったわけだ。
 やっぱ,いいなあ,おもレン。
 やっぱ,いいなあ,ニコン。

撮影時の長さは,およそ30cmになる。
鏡胴は,まんなかで2つに分離できる。
逆にはめることで,コンパクトに収納できる。

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