撮影日記


2008年07月31日(木) 天気:はれ一時あめ

ちょっとまじめな
パノラマカルディア

さっそくだが,これも最近,100円で救出したカメラである。

フジ「パノラマカルディア」(PANORAMA CARDIA)

いわゆるパノラマサイズ専用のカメラである。
 パトローネ入り35mmフィルム(135フィルム)を使用するカメラの画面サイズは,36mm×24mmのライカ判が一般的だ。いわゆるパノラマサイズは,この上下を隠して36mm×13mmの画面サイズで撮影するものである。なおこれは,「疑似パノラマ」とよばれることもある。
 これを「疑似」というからには,「本物」がどこかにあるはずだ。たとえば,「何枚もの写真をつないで作った写真」,「レンズが回転して広い範囲を写すようなカメラで撮った写真」,「通常の1コマよりも長い画面に写しこむカメラで撮った写真」などは「疑似パノラマ」とはよばれていないである。「疑似」であろうとなかろうと,できあがった写真が「横(あるいは縦)にかなり長い」形状になっているものを「パノラマ写真」とよんでおけば,まあだいたい話は通じるのではないだろうか。

ライカ判で撮影したネガフィルムを現像するとき,あわせて各コマ1枚ずつのプリントを依頼するケースが多いだろう。「同時プリント」というサービスである。このときはたいてい,L判でプリントされてくるが,その大きさは89mm×127mmである。一般的な機械処理では,ロール紙にこのサイズで焼きつけていき,127mmごとに切断して納品となる。これに対して,いわゆるパノラマサイズで撮影されたネガフィルムからプリントするときには,L判の長さを2倍にした89mm×254mmのサイズにプリントされるようになっている。これはすなわち,同じ機械を使いながら,印画紙の消費量を2倍にできるということである。つまり,印画紙メーカーにとって,売り上げ倍増で「ウマー」となるのである。
 いわゆるパノラマサイズが登場したのは,たしか1990年ごろだったか。その年に富士フイルムから,レンズ付きフィルム「写ルンです パノラミックHi」とコンパクトカメラ「HD-M」が発売された。たぶん,これらが最初の,いわゆるパノラマサイズの撮影ができるカメラであろう。その後,パノラマサイズプリントに対応した機器が広まるとともに,各社からいわゆるパノラマサイズの撮影ができるカメラも登場してくることになる。

長辺36mmのサイズのネガフィルムから,長辺254mmの印画紙にプリントすることは,ライカ判から六つ切りに引き伸ばすときとほぼ同じ拡大率になる。これだけの引き伸ばしをおこなうと,L判のときには気がつかなかった「アラ」も目立つようになるだろう。そうであれば,あまりに低品質なカメラを使うことは不適切である。せっかく,印画紙を大量に消費し,プリントの単価も高くなる魅力的な「パノラマサイズ」を普及するには,ある程度しっかりしたネガが得られなければならないはずだ。
 1992年ごろに発売された「パノラマカルディア」は,一見すると,固定焦点,固定露出の簡便なカメラに見える。しかし,よく見てみると,決してそうではないことがわかる。
 まず,「パノラマカルディア」は固定露出ではない。絞りは,鍵穴型の2枚の羽が適当に重なりあうことで決定されるため,その形状は開放および最小絞りではほぼ円形であるが,途中段階では細長いスリット状になっている。しかし,光量に応じて,きちんと露光は調整されている。
 「パノラマカルディア」は,基本的には固定焦点のカメラである。しかし,「遠景モード」なるレバーが用意されている。このレバーを押し下げると,ピント位置が無限遠付近に変化する。簡便なカメラの場合,数m程度離れての人物を撮影したときに,ピントがよくなるように調整されている。そうしておけば,ある程度絞りこまれたときに,無限遠までが被写界深度の範囲にはいるからだ。しかし「パノラマカルディア」では,「パノラマ写真」を意識して,無限遠の風景撮影もされることが多いものと予想しているのだろう,無限遠付近にピントをあわせられるモードが用意されていると考えられる。
 もちろん,「パノラマ写真」を意識して,28mmという広角レンズが搭載されていることも,ほかのコンパクトカメラとは少し違った特徴になっている。

この後,「パノラマ専用」あるいは「パノラマモードつき」の,おもちゃカメラなども登場するようだが,プリント時の拡大率が大きくなるいわゆるパノラマモードのときこそ,きちんとした写りが必要になるはずだ。各メーカーが,パノラマサイズプリントを利用で売上を増やそうと考えていたとすれば,廉価で簡便ないわゆるパノラマモードつきカメラを市場に投入させたことが,1つの失敗だったといえるのではないだろうか。誤解を恐れず言ってみれば,こんな感じになるだろう。


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