撮影日記


2007年06月04日(月) 天気:曇

二眼レフカメラの機能(2)

かつて,「ライカ1台,家1軒」と称された時代があったようだ。実際にライカの価格で家が買えたのかどうかは知らない(その場所の地価や,土地・家の面積等によって違いがあるだろうし)。ともあれ,「とても高価な品物」であったことだけは,間違いないだろう。それが理由の1つになるのだろうか,世界中でライカを模倣したカメラが多数,製造されている。
 二眼レフのローライフレックスも高価なカメラであった。その廉価版のローライコードでも,決して安い品物ではない。第二次世界大戦後,日本国内では「リコーフレックスIII」にはじまる,「前玉回転式」「赤窓式」の国産廉価版二眼レフカメラにまじって,「レンズボード操出式」に改めた,ローライコードを模倣したかのような二眼レフカメラも多く登場している。いや,そもそも,二眼レフカメラという形態そのものが,ローライコードの模倣であるのかもしれないが。

「レンズボード操出式」の国産二眼レフカメラが,どのモデルからはじまるのかは,知らない。ともあれそのようなカメラの1つに,以前紹介した「ビューティフレックスT」がある(2007年1月28日の日記を参照)。

ビューティフレックスT(1954年)
レンズ:Telmer 80mm F3.5
レンズボード操出式は,扱いやすく,精度も期待できる。

「ビューティフレックスT」は,1954年に9500円という低価格で発売されたカメラで,二眼レフカメラの「価格破壊」となったカメラであると考えている。フィルム巻き上げは「赤窓式」であるが,ピント調整はレンズボード操出式を採用し,シャッター速度も1秒〜1/200秒まであるため,一般的な感度ISO100(あるいはISO50くらいの低感度)フィルムでの撮影に不便を感じることはないだろう。ファインダーにはルーペが組みこまれているだけではなく,正面を倒して透視ファインダーとして使用することもできるようになっている。
 「赤窓式」のフィルム巻き上げは,フィルムの位置や送り量を検出するメカニズムがないために,故障することがない仕組みだといえる。しかし,巻き上げるたびに,必要以上に巻き上げてしまわないように注意する必要があるし,薄暗いときなど赤窓から,フィルム裏紙の数字を視認しにくい場合もある。二眼レフカメラの特徴として,ファインダーでつねに被写体を追いかけられる一眼レフカメラに近い速写性がありながら,一眼レフカメラのようなミラーやフォーカルプレーンシャッターの動作にともなう騒音が発生しない。だから,たとえば静かさを要求される舞台を撮影する場合にでも使えるはずだが,暗い客席では赤窓の数字を読み取ることは困難だろう。だから,自動巻き止めがある方が,撮影の場面は確実に広がるはずである。

ヤシカフレックスC(1955年)
レンズ:Tri-Lausar 80mm F3.5
セミオートマット式であり,赤窓がないため,フィルムカウンタが必要になる。

「ヤシカフレックスC」は,1955年に発売されたカメラである。先の「ビューティフレックスT」と比較すると,フィルム巻き上げに「セミオートマット」機構が取り入れられている点が異なる。「ヤシカフレックスC」のセミオートマットは,「スタートマーク式」である。フィルム装填をおこなうとき,120ロールフィルムの裏紙に印刷された「スタートマーク」が,カメラの所定の位置にくるまで巻き上げて,裏蓋を閉じる。あとは,巻き上げノブが止まるまでフィルムを送っていけばよい。
 「赤窓式」であれば,フィルム裏紙の数字を見れば,いま,何コマ目を撮影しているのかを知ることができる。しかし,オートマットやセミオートマットの場合,その数字を利用できないため,フィルムカウンタが必要になる。また,「ヤシカフレックスC」の場合,フィルムの巻き上げとシャッターのチャージは連動していない。そのため,撮影後,次のコマにフィルムをすすめるときには,その都度,巻き上げのロックを解除してやる必要がある。巻き上げノブ中央部のボタンを押すことで,そのロックを解除することができる。
 このカメラも廉価版カメラであるが,各部はしっかりと動作するように感じられ,安心して使えるカメラになっている。

ここまでに,4機種の二眼レフカメラを紹介した。「ローライフレックス」は「セルフコッキング」「オートマット」「レンズボード操出式」,「ヤシカフレックスC」は「セミオートマット」「レンズボード操出式」,「ビューティフレックスT」は「赤窓式」「レンズボード操出式」,「ビューティフレックスV」は「赤窓式」「前玉回転式」である。これだけを見ていると,「レンズボード操出式」は「前玉回転式」よりも高級品であり,「レンズボード操出式」のなかでも,「赤窓式」よりも「セミオートマット」,「セミオートマット」よりも「オートマット」が高級品という位置づけになりそうだ。
 だから,「マミヤフレックスII」は,おもしろい。

マミヤフレックスII(1952年)
レンズ:Sekor 7.5cm F3.5
セミオートマット式,セルフコッキングも実現した,実用機になっている。

「マミヤフレックスII」は,1952年に発売された,「マミヤフレックスオートマット」シリーズの下位モデルのカメラである。先の「マミヤフレックスオートマット」と比較すると,フィルム巻き上げは「セミオートマット」であり,ピント調整は前玉回転式になっている。前玉回転式ピント調整は,当時の廉価版二眼レフカメラとしては一般的なものであるが,「マミヤフレックスII」は,ほかの前玉回転式廉価版二眼レフカメラとは違い,セミオートマットで,セルフコッキングになっている。価格も,安価な前板繰り出し式カメラよりはるかに高い。
 前玉回転式の高機能カメラの例は少ないと思うが,そんな「マミヤフレックスII」は,じつにおもしろい存在なのである。


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