撮影日記


2002年11月24日(日) 天気:はれ

可部線存廃問題に思う(3)

マイカーは安くなった

可部線の利用者が減少した理由の1つには,「マイカーの普及」という要因もよく取り上げられる。これも,大きな影響を与えた要因の1つであろう。
 この普及の理由としては,まず,なんといってもマイカーというものの価格が非常に安くなっていることがあげられる。たとえば,1966年発売の初代トヨタ・カローラの価格は約50万円。現行モデルのカローラとの価格差と,当時と現在の所得の差,さらに商品そのものの性能などの向上を考慮すると,かなり安くなっていると言ってもいいのではないだろうか。これは,大量消費を前提とした大量生産と,各メーカーの努力の賜物と言えるだろう。
 また,日常生活のために最低限必要な道路の整備も進められてきたことも,マイカーの利用しやすさにつながり,これもマイカーの普及の一因となっていることは間違いないであろう。ただ,マイカーの絶対的な維持費用は,今も昔も決して安いものではない。

マイカーのメリットとは

マイカーによる移動と,公共交通機関による移動では,どちらのメリットが大きいのだろうか。
 まず,マイカーのメリットとしては,好きなときに好きな場所へ行くことができる,という要因が大きいであろう。駅や停留所まで歩き,列車やバスを待つ,という制約から解放されるのである。公共交通機関の運行が少ない夜間や早朝に移動する必要がある場合や,多くの荷物があるときなど,マイカーによる移動のメリットは大きい。ただし,このメリットは,一歩間違えるとそれはすなわち傍若無人な路上駐車ということになってしまう。
 もう1つ,見落とされがちなメリットとして,マイカーの車内は,各個人の私的空間である,という要素がある。マイカーの車内ではなにをやっても許される(と思われがちである)。電車の中では,ヘッドホンから漏れる音すら迷惑と言われるのに対し,マイカーの中ではどんな大音量でオーディオを鳴らしても誰にも文句を言われない(と思われがちである)。電車の中で携帯電話を使うと迷惑と言われるのに対し,マイカーを運転中に携帯電話を使っても誰にも文句を言われない(と思われがちである)。「文句を言われない」のは,閉めきった車内というものが,外部からの文句を寄せ付けていないだけである。また,携帯電話の例で考えればすぐにわかるように,文句を言われないということが,直接に他人に迷惑をかけていないことを意味しているのかといえば,それは必ずしも正しくないことはわかるだろう。携帯電話を使いながらの運転は,事故につながる危険性が高く,それは他人を事故に巻き込む危険性が高いという「迷惑」な行為にほかならない。

マイカーの普及が意味すること

このように考えてみると,公共交通機関の利用者が減少傾向にあることは,人口の減少やマイカーの普及といった,単純な数だけの影響ではないように思われてくる。つまり,公共的な場で迷惑をかけないように気を使ったり,あるいは,公共的な場で迷惑を受けることなどの経験により,閉鎖された私的空間であるマイカーによる移動の方が,肉体的にも精神的にも「楽」であるという印象を,多くの人がもつようになっていることが考えられる。
 また,「日本民営鉄道協会」のウェブサイトにおいて,駅や電車内での迷惑行為についてのアンケート結果が公表されている。携帯電話の使用,所構わず座り込む,たばこ,騒ぐ,(女性の)化粧など,多くの迷惑行為が指摘されている。このようなことが問題になるくらい,公共交通機関の車内が「不愉快」な空間になっているとすれば,これも全体的な公共交通機関離れの原因の1つになっていることは,十分に考えられる。
 「日本民営鉄道協会」の調査対象は,いわゆる大都市の私鉄である。可部線とは状況がまったく異なると思われるが,実態はどうだったのだろうか?


← 前のページ もくじ 次のページ →